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8.レイス・アストラト
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後宮、それは国王が後継を成すために作られた機関。
そしてその後宮がいつの間にか政権の争いの場になったのはいつの頃からだろうか。
もうそこは後継がいくら重要であろうと認めてはならないそんな場所になっていた。
ー レイス!
ー お母様ぁ!
そして、そのことを思い知らされたあの日のことを俺は未だはっきりと覚えている。
身分が低い貴族でありながら、党首である父の言葉に逆らえず後宮に連れてこられた母。
それでも彼女は国王である父と恋に落ち幸せを手にした。
だが、愛する人と共にいたいというあまりにも小さな願いも後宮の貴族達は許さなかった……
そして、その結果が母の暗殺だった。
いや、嫌がらせだったというべきかもしれない。
少しでも運が悪ければ相手は死に。
だが嫌がらせで通せば高位貴族であれば捌けないそんな風に計算された。
そして後宮の人間の思惑通り母は命を落とした。
俺の目の前で階段から落ちて。
その時ようやく俺は悟った。
貴族の女には絶対に心を許してはならないということを。
そう、絶対に。
◇◆◇
母を失ってそれから10年の月日が過ぎて、当時7歳出会った俺は17歳になっていた。
「きゃぁ!王子さま!」
「レイス様!」
「此方を向いて下さい!」
そしてその時にはもう、権力を望む様々な貴族の令嬢が俺の元を押しかけるようになっていた。
その殆どがどんな手を使ってでも周りを蹴落として俺と関係を持とうとするようなそんな人間達だった。
そんな人間に付きまとわれる王宮の日々に俺は嫌気がさし、だから父に望んで田舎の方の街へと俺は見聞を広めるという名目で行くことになった。
「王子様!」
「レイス様!」
だが、それはあまりにも安易な考えでしかなかった。
田舎にいった所で付き纏う人間が変わっただけ。
そんなこと最初から想像できていたはずなのにだ。
相変わらず変わることのないそんな生活の中、俺の唯一の気の休まる場所は誰も入ることない森の中での休息だった。
その森は強力な魔獣が存在していた。
だが森の中には魔獣を遠ざける効能を持ったザオトラと呼ばれる草が生えている場所があり、そこは魔物の寄り付かない安全な隠れ家だった。
それからその秘密の場所で過ごす時間こそが、俺にとってこの街にいる中で唯一の心休まるものになっていた。
そしてそんなある日の時だった。
「ーーー♫」
隠れ家で何時ものように寝ていた俺の耳にとても美しい歌が聞こえたのは。
その時既に俺は女性不信といってもおかしくない程女性に対して良いイメージを持っていなかった。
なのに何故かその歌を歌っている人間だけは、明らかに女性だとわかる声であるのに俺の胸に嫌悪感を抱かせることはなかった。
それどころか、逆にその声の主に対して興味が湧いて。
声のする方向を覗こうと俺が決心するまでそう長い時間がかかることはなかった。
「っ!」
そして俺はこっそりと身を隠しながらその声のする方向を覗いて、目に入ってきた光景に言葉を失った。
服はぼろぼろで、身なりも汚れている。
だが、それでも輝くような美しさを放っている少女の姿を目にして。
◇◆◇
覗いて少女の美しさに思わず我を忘れていた俺は、少女の膝の上で目を閉じていた召喚獣と思わしき赤い鳥が自分の方向を見ていることに気づいて硬直した。
ここから少女との距離は20メートル以上離れている。
だが、召喚獣ははっきりと俺のいる方向を捉えていて……
「クルル……」
しかし最終的に召喚獣は俺のことを魔獣が見ているだけとでも判断したのか、そのまま再度目を閉じた。
そして視線から解放された俺はこれ以上何か面倒ごとに巻き込まれる前にと少女から視線を離そうとして、だが出来なかった。
例えば少女がただとんでもない美貌を持っただけのそんな人間だとしたら俺は素直にこの場を去れたかもしれない。
確かに少女には数段劣っているが、それでも豪華な服を身にまとっている女性が数え切れないほど押し寄せてくる経験がある俺にとっては見た目の美しさは一度は驚かされたが、改めて目が離せなくなるそこまでのものではなかったのだ。
だが、少女の身につけているぼろぼろの服それに俺はどうしても目が離せなかった。
少女がどんな家の人間なのか俺は知らない。
だがそれでも召喚獣というのは本来貴族それも一部の高位貴族しか扱えないような秘術で、だとしたら何故少女がそんなぼろに身を包んでいるのか分からない。
そんな好奇心から俺は物陰から少女の姿を見守り続けた。
もしかしたら少女の口から自身に関係することが話されるのではないかと期待して。
「はぁ……、もう帰らないと……またねフェリル」
「クル……」
だがそんな俺の考えは、少しして歌うのをやめた少女が自身の召喚獣に見せた表情を目にした瞬間頭から消え去った。
その少女が召喚獣へと向けた表情、それは寂しさとそして何故か酷く懐かしく感じる感情が込められていて何故か俺の胸 は強く締め付けられた。
「何が……」
その理由がわからなくて、思わず俺は少女から逃げ出すようにその場を離れた。
何故かどうしようもないくらい胸が痛くて、目から涙が止まらなくて。
そんな自分の突然の異常に俺は訳が分からず戸惑う。
「母さん?」
ーーー だが、何故か無意識に呟いた言葉に俺は全て悟った。
少女が召喚獣へと向けていた視線、それは10年前、俺が母に向けられていたものだった。
そう、それは愛と呼ばれる感情。
そしてそのことに気づいた時、俺にとって少女は忘れられない存在へとなっていた。
普通使い捨てだとしか見ない召喚獣に愛情を注ぐ彼女は本当に何者なのか。
もう少し少女のことを観察してみよう。
そして俺はそう決めた。
それが後に訳が忘れることのできない出会いになるなど知る由もなく……
そしてその後宮がいつの間にか政権の争いの場になったのはいつの頃からだろうか。
もうそこは後継がいくら重要であろうと認めてはならないそんな場所になっていた。
ー レイス!
ー お母様ぁ!
そして、そのことを思い知らされたあの日のことを俺は未だはっきりと覚えている。
身分が低い貴族でありながら、党首である父の言葉に逆らえず後宮に連れてこられた母。
それでも彼女は国王である父と恋に落ち幸せを手にした。
だが、愛する人と共にいたいというあまりにも小さな願いも後宮の貴族達は許さなかった……
そして、その結果が母の暗殺だった。
いや、嫌がらせだったというべきかもしれない。
少しでも運が悪ければ相手は死に。
だが嫌がらせで通せば高位貴族であれば捌けないそんな風に計算された。
そして後宮の人間の思惑通り母は命を落とした。
俺の目の前で階段から落ちて。
その時ようやく俺は悟った。
貴族の女には絶対に心を許してはならないということを。
そう、絶対に。
◇◆◇
母を失ってそれから10年の月日が過ぎて、当時7歳出会った俺は17歳になっていた。
「きゃぁ!王子さま!」
「レイス様!」
「此方を向いて下さい!」
そしてその時にはもう、権力を望む様々な貴族の令嬢が俺の元を押しかけるようになっていた。
その殆どがどんな手を使ってでも周りを蹴落として俺と関係を持とうとするようなそんな人間達だった。
そんな人間に付きまとわれる王宮の日々に俺は嫌気がさし、だから父に望んで田舎の方の街へと俺は見聞を広めるという名目で行くことになった。
「王子様!」
「レイス様!」
だが、それはあまりにも安易な考えでしかなかった。
田舎にいった所で付き纏う人間が変わっただけ。
そんなこと最初から想像できていたはずなのにだ。
相変わらず変わることのないそんな生活の中、俺の唯一の気の休まる場所は誰も入ることない森の中での休息だった。
その森は強力な魔獣が存在していた。
だが森の中には魔獣を遠ざける効能を持ったザオトラと呼ばれる草が生えている場所があり、そこは魔物の寄り付かない安全な隠れ家だった。
それからその秘密の場所で過ごす時間こそが、俺にとってこの街にいる中で唯一の心休まるものになっていた。
そしてそんなある日の時だった。
「ーーー♫」
隠れ家で何時ものように寝ていた俺の耳にとても美しい歌が聞こえたのは。
その時既に俺は女性不信といってもおかしくない程女性に対して良いイメージを持っていなかった。
なのに何故かその歌を歌っている人間だけは、明らかに女性だとわかる声であるのに俺の胸に嫌悪感を抱かせることはなかった。
それどころか、逆にその声の主に対して興味が湧いて。
声のする方向を覗こうと俺が決心するまでそう長い時間がかかることはなかった。
「っ!」
そして俺はこっそりと身を隠しながらその声のする方向を覗いて、目に入ってきた光景に言葉を失った。
服はぼろぼろで、身なりも汚れている。
だが、それでも輝くような美しさを放っている少女の姿を目にして。
◇◆◇
覗いて少女の美しさに思わず我を忘れていた俺は、少女の膝の上で目を閉じていた召喚獣と思わしき赤い鳥が自分の方向を見ていることに気づいて硬直した。
ここから少女との距離は20メートル以上離れている。
だが、召喚獣ははっきりと俺のいる方向を捉えていて……
「クルル……」
しかし最終的に召喚獣は俺のことを魔獣が見ているだけとでも判断したのか、そのまま再度目を閉じた。
そして視線から解放された俺はこれ以上何か面倒ごとに巻き込まれる前にと少女から視線を離そうとして、だが出来なかった。
例えば少女がただとんでもない美貌を持っただけのそんな人間だとしたら俺は素直にこの場を去れたかもしれない。
確かに少女には数段劣っているが、それでも豪華な服を身にまとっている女性が数え切れないほど押し寄せてくる経験がある俺にとっては見た目の美しさは一度は驚かされたが、改めて目が離せなくなるそこまでのものではなかったのだ。
だが、少女の身につけているぼろぼろの服それに俺はどうしても目が離せなかった。
少女がどんな家の人間なのか俺は知らない。
だがそれでも召喚獣というのは本来貴族それも一部の高位貴族しか扱えないような秘術で、だとしたら何故少女がそんなぼろに身を包んでいるのか分からない。
そんな好奇心から俺は物陰から少女の姿を見守り続けた。
もしかしたら少女の口から自身に関係することが話されるのではないかと期待して。
「はぁ……、もう帰らないと……またねフェリル」
「クル……」
だがそんな俺の考えは、少しして歌うのをやめた少女が自身の召喚獣に見せた表情を目にした瞬間頭から消え去った。
その少女が召喚獣へと向けた表情、それは寂しさとそして何故か酷く懐かしく感じる感情が込められていて何故か俺の胸 は強く締め付けられた。
「何が……」
その理由がわからなくて、思わず俺は少女から逃げ出すようにその場を離れた。
何故かどうしようもないくらい胸が痛くて、目から涙が止まらなくて。
そんな自分の突然の異常に俺は訳が分からず戸惑う。
「母さん?」
ーーー だが、何故か無意識に呟いた言葉に俺は全て悟った。
少女が召喚獣へと向けていた視線、それは10年前、俺が母に向けられていたものだった。
そう、それは愛と呼ばれる感情。
そしてそのことに気づいた時、俺にとって少女は忘れられない存在へとなっていた。
普通使い捨てだとしか見ない召喚獣に愛情を注ぐ彼女は本当に何者なのか。
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