24 / 24
気づくまで (ライルハート視点)
しおりを挟む
僕の動きを制限していた存在、それはマレシアだった。
僕の外套の裾、それをその細い指が握っている。
その様子に、一瞬起こしてしまったかと罪悪感が僕の胸に浮かぶが、すぐにその考えは否定されることになった。
何せ、マレシアの目は相変わらず閉じられていて、僕の外套を握るその手にはあまりにも軽い力しかこもってなかったのだから。
夢見でも悪かったのだろうか、そんなことを考えながらも、僕はゆっくりとマレシアの指を離そうとする。
「ん、んん……」
「……っ」
マレシアが緩慢に目をあけたのは、そのときだった。
一瞬僕の胸にひやりとしたものがよぎるが、こちらをみるマレシアの顔に浮かぶのは、色濃い眠気だった。
どうやら、まだ完全には眠気からさめていないらしい、そう理解し僕は安堵を覚える。
けれど、それはマレシアが僕の外套を両手で握りしめるまでのことだった。
一瞬僕の胸に焦りが浮かぶ僕をよそに、マレシアは僕の外套を胸に抱え込み、小さく告げた。
「……一人に、しないで」
それだけ告げると、マレシアはそのままの状態で再度眠りについてしまう。
安らかにたてている寝息からは、今なら外套さえ脱げばここからされるだろうことを物語っていた。
しかし、それを理解して僕には逃げる気など存在しなかった。
ゆっくりと僕は安らかに眠るマレシアの頭をなでる。
「……そうだよね、ごめん」
これまで王国に来てもなお、マレシアは一切弱いところを見せなかった。
故に僕はもう振り切りつつあるのかと思っていたのだが、そんなことがあるわけなかったのだ。
何せ、ここはマレシアが全てを奪われた場所なのだから。
何も感じない訳がなかったのだ。
……そこまで気づいたとき、僕の頭には迎えに行ったときの今にも泣き出しそうなマレシアが浮かんでいた。
今にも壊れてしまいそうだったマレシアが。
そのことに気づいた瞬間、僕はマレシアの額へと顔を寄せていた。
そして僕は迎えに行った時、マレシアにしたように……優しく口づけをした。
それは、帝国において家族への親愛を表すとされるキス。
けれど、僕にとってはこのキスは特別なものだった。
──なぜなら、このキスは僕を救ってくれたキスなのだから。
僕の脳裏、忘れる訳ができない記憶がよみがえる。
それは、龍殺しとなる前の記憶。
忌み子として忌み嫌われた僕は、龍討伐なんて名目で殺されるところだった。
あのままでは実際、僕は死んでいただろう。
そのときに現れたのが、マレシアだった。
マレシアは僕に龍と戦うための力をくれた。
そして誰からも、両親にさえ嫌われた僕に、初めて親愛のキスをしてくれた。
「……君はあのとき、謝ってくれたよね。こんなことしかできなくてごめんて」
顔を歪め、そう謝罪するマレシアの顔が浮かぶ。
それに僕は思わず笑ってしまいそうになる。
僕がどれだけその時救われたのか、一切理解していないマレシアがおかしくてたまらなくて。
「そんなことないと、理解できるまで僕はそばにいるから」
この不器用で、泣き虫で……なのにどうしようもなくお節介焼きな頑張り屋。
そんなマレシアを少しでも近くで見守ろうと、僕は誓うようにそう告げる。
そして僕は、音を立てないようにベッドの横に腰を下ろす。
もうそのときには、眠る気など僕の中から消えていた。
どうせ体は強靱なのだ。
二、三日の徹夜も問題ない。
そう覚悟を決めて、僕は小さく笑った。
「まあ、理解したらしたで、逃がしはしないんだけどね」
あの日、救いとともに胸の中を支配する熱。
それを意識しながら僕は小さく笑う。
いつになったら、この鈍感な人は自分の思いに気づいてくれるかと思いながら……。
◇◇◇
更新遅れてしまい、申し訳ありません!
偽聖女に関してはこれで完結とさせて頂きます!
もし、いつか続きを書く時があればその時はよろしくお願いします。
長々とお付き合いありがとうございました!
僕の外套の裾、それをその細い指が握っている。
その様子に、一瞬起こしてしまったかと罪悪感が僕の胸に浮かぶが、すぐにその考えは否定されることになった。
何せ、マレシアの目は相変わらず閉じられていて、僕の外套を握るその手にはあまりにも軽い力しかこもってなかったのだから。
夢見でも悪かったのだろうか、そんなことを考えながらも、僕はゆっくりとマレシアの指を離そうとする。
「ん、んん……」
「……っ」
マレシアが緩慢に目をあけたのは、そのときだった。
一瞬僕の胸にひやりとしたものがよぎるが、こちらをみるマレシアの顔に浮かぶのは、色濃い眠気だった。
どうやら、まだ完全には眠気からさめていないらしい、そう理解し僕は安堵を覚える。
けれど、それはマレシアが僕の外套を両手で握りしめるまでのことだった。
一瞬僕の胸に焦りが浮かぶ僕をよそに、マレシアは僕の外套を胸に抱え込み、小さく告げた。
「……一人に、しないで」
それだけ告げると、マレシアはそのままの状態で再度眠りについてしまう。
安らかにたてている寝息からは、今なら外套さえ脱げばここからされるだろうことを物語っていた。
しかし、それを理解して僕には逃げる気など存在しなかった。
ゆっくりと僕は安らかに眠るマレシアの頭をなでる。
「……そうだよね、ごめん」
これまで王国に来てもなお、マレシアは一切弱いところを見せなかった。
故に僕はもう振り切りつつあるのかと思っていたのだが、そんなことがあるわけなかったのだ。
何せ、ここはマレシアが全てを奪われた場所なのだから。
何も感じない訳がなかったのだ。
……そこまで気づいたとき、僕の頭には迎えに行ったときの今にも泣き出しそうなマレシアが浮かんでいた。
今にも壊れてしまいそうだったマレシアが。
そのことに気づいた瞬間、僕はマレシアの額へと顔を寄せていた。
そして僕は迎えに行った時、マレシアにしたように……優しく口づけをした。
それは、帝国において家族への親愛を表すとされるキス。
けれど、僕にとってはこのキスは特別なものだった。
──なぜなら、このキスは僕を救ってくれたキスなのだから。
僕の脳裏、忘れる訳ができない記憶がよみがえる。
それは、龍殺しとなる前の記憶。
忌み子として忌み嫌われた僕は、龍討伐なんて名目で殺されるところだった。
あのままでは実際、僕は死んでいただろう。
そのときに現れたのが、マレシアだった。
マレシアは僕に龍と戦うための力をくれた。
そして誰からも、両親にさえ嫌われた僕に、初めて親愛のキスをしてくれた。
「……君はあのとき、謝ってくれたよね。こんなことしかできなくてごめんて」
顔を歪め、そう謝罪するマレシアの顔が浮かぶ。
それに僕は思わず笑ってしまいそうになる。
僕がどれだけその時救われたのか、一切理解していないマレシアがおかしくてたまらなくて。
「そんなことないと、理解できるまで僕はそばにいるから」
この不器用で、泣き虫で……なのにどうしようもなくお節介焼きな頑張り屋。
そんなマレシアを少しでも近くで見守ろうと、僕は誓うようにそう告げる。
そして僕は、音を立てないようにベッドの横に腰を下ろす。
もうそのときには、眠る気など僕の中から消えていた。
どうせ体は強靱なのだ。
二、三日の徹夜も問題ない。
そう覚悟を決めて、僕は小さく笑った。
「まあ、理解したらしたで、逃がしはしないんだけどね」
あの日、救いとともに胸の中を支配する熱。
それを意識しながら僕は小さく笑う。
いつになったら、この鈍感な人は自分の思いに気づいてくれるかと思いながら……。
◇◇◇
更新遅れてしまい、申し訳ありません!
偽聖女に関してはこれで完結とさせて頂きます!
もし、いつか続きを書く時があればその時はよろしくお願いします。
長々とお付き合いありがとうございました!
80
お気に入りに追加
3,915
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(61件)
あなたにおすすめの小説
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星井柚乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2023年01月15日、連載完結しました。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました!
* 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。
辺境の獣医令嬢〜婚約者を妹に奪われた伯爵令嬢ですが、辺境で獣医になって可愛い神獣たちと楽しくやってます〜
津ヶ谷
恋愛
ラース・ナイゲールはローラン王国の伯爵令嬢である。
次期公爵との婚約も決まっていた。
しかし、突然に婚約破棄を言い渡される。
次期公爵の新たな婚約者は妹のミーシャだった。
そう、妹に婚約者を奪われたのである。
そんなラースだったが、気持ちを新たに次期辺境伯様との婚約が決まった。
そして、王国の辺境の地でラースは持ち前の医学知識と治癒魔法を活かし、獣医となるのだった。
次々と魔獣や神獣を治していくラースは、魔物たちに気に入られて楽しく過ごすこととなる。
これは、辺境の獣医令嬢と呼ばれるラースが新たな幸せを掴む物語。
聖女召喚に巻き込まれた挙句、ハズレの方と蔑まれていた私が隣国の過保護な王子に溺愛されている件
バナナマヨネーズ
恋愛
聖女召喚に巻き込まれた志乃は、召喚に巻き込まれたハズレの方と言われ、酷い扱いを受けることになる。
そんな中、隣国の第三王子であるジークリンデが志乃を保護することに。
志乃を保護したジークリンデは、地面が泥濘んでいると言っては、志乃を抱き上げ、用意した食事が熱ければ火傷をしないようにと息を吹きかけて冷ましてくれるほど過保護だった。
そんな過保護すぎるジークリンデの行動に志乃は戸惑うばかり。
「私は子供じゃないからそんなことしなくてもいいから!」
「いや、シノはこんなに小さいじゃないか。だから、俺は君を命を懸けて守るから」
「お…重い……」
「ん?ああ、ごめんな。その荷物は俺が持とう」
「これくらい大丈夫だし、重いってそういうことじゃ……。はぁ……」
過保護にされたくない志乃と過保護にしたいジークリンデ。
二人は共に過ごすうちに知ることになる。その人がお互いの運命の人なのだと。
全31話
【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。
みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」
魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。
ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。
あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で運命的な出会いをする。
【2024年3月16日完結、全58話】
【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。
氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。
聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。
でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。
「婚約してほしい」
「いえ、責任を取らせるわけには」
守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。
元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。
小説家になろう様にも、投稿しています。
愛を知らない「頭巾被り」の令嬢は最強の騎士、「氷の辺境伯」に溺愛される
守次 奏
恋愛
「わたしは、このお方に出会えて、初めてこの世に産まれることができた」
貴族の間では忌み子の象徴である赤銅色の髪を持って生まれてきた少女、リリアーヌは常に家族から、妹であるマリアンヌからすらも蔑まれ、その髪を隠すように頭巾を被って生きてきた。
そんなリリアーヌは十五歳を迎えた折に、辺境領を収める「氷の辺境伯」「血まみれ辺境伯」の二つ名で呼ばれる、スターク・フォン・ピースレイヤーの元に嫁がされてしまう。
厄介払いのような結婚だったが、それは幸せという言葉を知らない、「頭巾被り」のリリアーヌの運命を変える、そして世界の運命をも揺るがしていく出会いの始まりに過ぎなかった。
これは、一人の少女が生まれた意味を探すために駆け抜けた日々の記録であり、とある幸せな夫婦の物語である。
※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」様にも短編という形で掲載しています。
私生児聖女は二束三文で売られた敵国で幸せになります!
近藤アリス
恋愛
私生児聖女のコルネリアは、敵国に二束三文で売られて嫁ぐことに。
「悪名高い国王のヴァルター様は私好みだし、みんな優しいし、ご飯美味しいし。あれ?この国最高ですわ!」
声を失った儚げ見た目のコルネリアが、勘違いされたり、幸せになったりする話。
※ざまぁはほんのり。安心のハッピーエンド設定です!
※「カクヨム」にも掲載しています。
わたしを嫌う妹の企みで追放されそうになりました。だけど、保護してくれた公爵様から溺愛されて、すごく幸せです。
バナナマヨネーズ
恋愛
山田華火は、妹と共に異世界に召喚されたが、妹の浅はかな企みの所為で追放されそうになる。
そんな華火を救ったのは、若くしてシグルド公爵となったウェインだった。
ウェインに保護された華火だったが、この世界の言葉を一切理解できないでいた。
言葉が分からない華火と、華火に一目で心を奪われたウェインのじりじりするほどゆっくりと進む関係性に、二人の周囲の人間はやきもきするばかり。
この物語は、理不尽に異世界に召喚された少女とその少女を保護した青年の呆れるくらいゆっくりと進む恋の物語である。
3/4 タイトルを変更しました。
旧タイトル「どうして異世界に召喚されたのかがわかりません。だけど、わたしを保護してくれたイケメンが超過保護っぽいことはわかります。」
3/10 翻訳版を公開しました。本編では異世界語で進んでいた会話を日本語表記にしています。なお、翻訳箇所がない話数には、タイトルに 〃 をつけてますので、本編既読の場合は飛ばしてもらって大丈夫です
※小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
マルシアが幸せになりますよーに☺️✨💕💕