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その男の正体

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「……なんだ、お前は」

 私がようやくそう声を上げたのは、それから少したってからだった。
 そう問いかけながらも、私は薄々気づいていた。

 目の前にいる存在、それがなにか異常なもの、自分の力の及ばぬ存在であることを。
 あの日、魔妖精に囲まれた経験から私はそう悟ることができた。
 けれど、悟ることができたのはそれだけだった。

 ……なぜ、こんな存在が自身の目の前に敵意を持って現れたのか理解できず、私はただ震えることしかできない。

「はっ。我の代わりとでも言いたげに散々振る舞っておきながら、いざ目の前にいてもわからんか」

 そんな私を、目の前の男は嘲笑する。

「……何を、いってる?」

「お前はせいぜい人間の間で大きな顔をしているだけが限界だといってるんだよ。お前は帝国の龍殺しに遠く及ばんな」

「……なっ!」

 その瞬間、私の胸に恐怖を吹き飛ばすような怒りが浮かんだ。
 帝国の第二皇子ライハート、その存在に私が表だって張り合うことは今までなかった。
 それになんの意味がない行為だと私は知っていた故に。
 それでも、自らの力で英雄となったライハートに想うところがないわけでなく、また今までの出来事で私はライハートへ憎しみを募らせていた。
 故に、私を格下と断じる男を私は許すことができなかった。

「ふざけるなよ、あの忌み子に私が劣る訳がない……」

「──黙れ」

「っ!」

 ……しかし、そう私が怒りを燃やせたのは、一瞬のことだった。
 男の告げたたった一言で私の中から怒りが吹き飛ぶ。
 代わりに私の心を再度恐怖が覆う。
 震えを隠せない私に、男は心底呆れたとでも言いたげに肩をすくめた。

「その程度で答えられなくなるか。そんな有様でよく我の言葉を偽れたものだ」

「だ、だから一体なんの話だ! 私には一切心あたりはない!」

 必死に叫ぶ私に怒りを滲ませた表情で男は吐き捨てる。

「しただろうが! マレシアを偽聖女となることを強要し、あげくの果て追放した。さらには、カシュアまで陥れようとした」

「……え?」

 ようやく目の前の存在がなにか、私が理解したのはそのときだった。
 今まで話した言葉が真実だとしたら、目の前の男の正体として考えられるのは一つだった。
 そう、それは王国の絶対の守護者。

「……聖獣、様?」

 私の口から漏れた言葉は、かすれきっていた。
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