15 / 24
その男の正体
しおりを挟む
「……なんだ、お前は」
私がようやくそう声を上げたのは、それから少したってからだった。
そう問いかけながらも、私は薄々気づいていた。
目の前にいる存在、それがなにか異常なもの、自分の力の及ばぬ存在であることを。
あの日、魔妖精に囲まれた経験から私はそう悟ることができた。
けれど、悟ることができたのはそれだけだった。
……なぜ、こんな存在が自身の目の前に敵意を持って現れたのか理解できず、私はただ震えることしかできない。
「はっ。我の代わりとでも言いたげに散々振る舞っておきながら、いざ目の前にいてもわからんか」
そんな私を、目の前の男は嘲笑する。
「……何を、いってる?」
「お前はせいぜい人間の間で大きな顔をしているだけが限界だといってるんだよ。お前は帝国の龍殺しに遠く及ばんな」
「……なっ!」
その瞬間、私の胸に恐怖を吹き飛ばすような怒りが浮かんだ。
帝国の第二皇子ライハート、その存在に私が表だって張り合うことは今までなかった。
それになんの意味がない行為だと私は知っていた故に。
それでも、自らの力で英雄となったライハートに想うところがないわけでなく、また今までの出来事で私はライハートへ憎しみを募らせていた。
故に、私を格下と断じる男を私は許すことができなかった。
「ふざけるなよ、あの忌み子に私が劣る訳がない……」
「──黙れ」
「っ!」
……しかし、そう私が怒りを燃やせたのは、一瞬のことだった。
男の告げたたった一言で私の中から怒りが吹き飛ぶ。
代わりに私の心を再度恐怖が覆う。
震えを隠せない私に、男は心底呆れたとでも言いたげに肩をすくめた。
「その程度で答えられなくなるか。そんな有様でよく我の言葉を偽れたものだ」
「だ、だから一体なんの話だ! 私には一切心あたりはない!」
必死に叫ぶ私に怒りを滲ませた表情で男は吐き捨てる。
「しただろうが! マレシアを偽聖女となることを強要し、あげくの果て追放した。さらには、カシュアまで陥れようとした」
「……え?」
ようやく目の前の存在がなにか、私が理解したのはそのときだった。
今まで話した言葉が真実だとしたら、目の前の男の正体として考えられるのは一つだった。
そう、それは王国の絶対の守護者。
「……聖獣、様?」
私の口から漏れた言葉は、かすれきっていた。
私がようやくそう声を上げたのは、それから少したってからだった。
そう問いかけながらも、私は薄々気づいていた。
目の前にいる存在、それがなにか異常なもの、自分の力の及ばぬ存在であることを。
あの日、魔妖精に囲まれた経験から私はそう悟ることができた。
けれど、悟ることができたのはそれだけだった。
……なぜ、こんな存在が自身の目の前に敵意を持って現れたのか理解できず、私はただ震えることしかできない。
「はっ。我の代わりとでも言いたげに散々振る舞っておきながら、いざ目の前にいてもわからんか」
そんな私を、目の前の男は嘲笑する。
「……何を、いってる?」
「お前はせいぜい人間の間で大きな顔をしているだけが限界だといってるんだよ。お前は帝国の龍殺しに遠く及ばんな」
「……なっ!」
その瞬間、私の胸に恐怖を吹き飛ばすような怒りが浮かんだ。
帝国の第二皇子ライハート、その存在に私が表だって張り合うことは今までなかった。
それになんの意味がない行為だと私は知っていた故に。
それでも、自らの力で英雄となったライハートに想うところがないわけでなく、また今までの出来事で私はライハートへ憎しみを募らせていた。
故に、私を格下と断じる男を私は許すことができなかった。
「ふざけるなよ、あの忌み子に私が劣る訳がない……」
「──黙れ」
「っ!」
……しかし、そう私が怒りを燃やせたのは、一瞬のことだった。
男の告げたたった一言で私の中から怒りが吹き飛ぶ。
代わりに私の心を再度恐怖が覆う。
震えを隠せない私に、男は心底呆れたとでも言いたげに肩をすくめた。
「その程度で答えられなくなるか。そんな有様でよく我の言葉を偽れたものだ」
「だ、だから一体なんの話だ! 私には一切心あたりはない!」
必死に叫ぶ私に怒りを滲ませた表情で男は吐き捨てる。
「しただろうが! マレシアを偽聖女となることを強要し、あげくの果て追放した。さらには、カシュアまで陥れようとした」
「……え?」
ようやく目の前の存在がなにか、私が理解したのはそのときだった。
今まで話した言葉が真実だとしたら、目の前の男の正体として考えられるのは一つだった。
そう、それは王国の絶対の守護者。
「……聖獣、様?」
私の口から漏れた言葉は、かすれきっていた。
21
お気に入りに追加
3,896
あなたにおすすめの小説
精霊の愛し子が濡れ衣を着せられ、婚約破棄された結果
あーもんど
恋愛
「アリス!私は真実の愛に目覚めたんだ!君との婚約を白紙に戻して欲しい!」
ある日の朝、突然家に押し掛けてきた婚約者───ノア・アレクサンダー公爵令息に婚約解消を申し込まれたアリス・ベネット伯爵令嬢。
婚約解消に同意したアリスだったが、ノアに『解消理由をそちらに非があるように偽装して欲しい』と頼まれる。
当然ながら、アリスはそれを拒否。
他に女を作って、婚約解消を申し込まれただけでも屈辱なのに、そのうえ解消理由を偽装するなど有り得ない。
『そこをなんとか······』と食い下がるノアをアリスは叱咤し、屋敷から追い出した。
その数日後、アカデミーの卒業パーティーへ出席したアリスはノアと再会する。
彼の隣には想い人と思われる女性の姿が·····。
『まだ正式に婚約解消した訳でもないのに、他の女とパーティーに出席するだなんて·····』と呆れ返るアリスに、ノアは大声で叫んだ。
「アリス・ベネット伯爵令嬢!君との婚約を破棄させてもらう!婚約者が居ながら、他の男と寝た君とは結婚出来ない!」
濡れ衣を着せられたアリスはノアを冷めた目で見つめる。
······もう我慢の限界です。この男にはほとほと愛想が尽きました。
復讐を誓ったアリスは────精霊王の名を呼んだ。
※本作を読んでご気分を害される可能性がありますので、閲覧注意です(詳しくは感想欄の方をご参照してください)
※息抜き作品です。クオリティはそこまで高くありません。
※本作のざまぁは物理です。社会的制裁などは特にありません。
※hotランキング一位ありがとうございます(2020/12/01)
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
私を追い出した結果、飼っていた聖獣は誰にも懐かないようです
天宮有
恋愛
子供の頃、男爵令嬢の私アミリア・ファグトは助けた小犬が聖獣と判明して、飼うことが決まる。
数年後――成長した聖獣は家を守ってくれて、私に一番懐いていた。
そんな私を妬んだ姉ラミダは「聖獣は私が拾って一番懐いている」と吹聴していたようで、姉は侯爵令息ケドスの婚約者になる。
どうやらラミダは聖獣が一番懐いていた私が邪魔なようで、追い出そうと目論んでいたようだ。
家族とゲドスはラミダの嘘を信じて、私を蔑み追い出そうとしていた。
【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?
ゆうぎり
恋愛
カリンは幼少期からの婚約者オリバーに学園で婚約破棄されました。
卒業3か月前の事です。
卒業後すぐの結婚予定で、既に招待状も出し終わり済みです。
もちろんその場で受け入れましたよ。一向に構いません。
カリンはずっと婚約解消を願っていましたから。
でも大丈夫ですか?
婚約破棄したのなら既に他人。迷惑だけはかけないで下さいね。
※ゆるゆる設定です
※軽い感じで読み流して下さい
【完結】妹にあげるわ。
たろ
恋愛
なんでも欲しがる妹。だったら要らないからあげるわ。
婚約者だったケリーと妹のキャサリンが我が家で逢瀬をしていた時、妹の紅茶の味がおかしかった。
それだけでわたしが殺そうとしたと両親に責められた。
いやいやわたし出かけていたから!知らないわ。
それに婚約は半年前に解消しているのよ!書類すら見ていないのね?お父様。
なんでも欲しがる妹。可愛い妹が大切な両親。
浮気症のケリーなんて喜んで妹にあげるわ。ついでにわたしのドレスも宝石もどうぞ。
家を追い出されて意気揚々と一人で暮らし始めたアリスティア。
もともと家を出る計画を立てていたので、ここから幸せに………と思ったらまた妹がやってきて、今度はアリスティアの今の生活を欲しがった。
だったら、この生活もあげるわ。
だけどね、キャサリン……わたしの本当に愛する人たちだけはあげられないの。
キャサリン達に痛い目に遭わせて……アリスティアは幸せになります!
【コミカライズ決定】婚約破棄され辺境伯との婚姻を命じられましたが、私の初恋の人はその義父です
灰銀猫
恋愛
両親と妹にはいない者として扱われながらも、王子の婚約者の肩書のお陰で何とか暮らしていたアレクシア。
顔だけの婚約者を実妹に奪われ、顔も性格も醜いと噂の辺境伯との結婚を命じられる。
辺境に追いやられ、婚約者からは白い結婚を打診されるも、婚約も結婚もこりごりと思っていたアレクシアには好都合で、しかも婚約者の義父は初恋の相手だった。
王都にいた時よりも好待遇で意外にも快適な日々を送る事に…でも、厄介事は向こうからやってきて…
婚約破棄物を書いてみたくなったので、書いてみました。
ありがちな内容ですが、よろしくお願いします。
設定は緩いしご都合主義です。難しく考えずにお読みいただけると嬉しいです。
他サイトでも掲載しています。
コミカライズ決定しました。申し訳ございませんが配信開始後は削除いたします。
番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。
【完結】本当の悪役令嬢とは
仲村 嘉高
恋愛
転生者である『ヒロイン』は知らなかった。
甘やかされて育った第二王子は気付かなかった。
『ヒロイン』である男爵令嬢のとりまきで、第二王子の側近でもある騎士団長子息も、魔法師協会会長の孫も、大商会の跡取りも、伯爵令息も
公爵家の本気というものを。
※HOT最高1位!ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる