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英雄の帰還
ライム III
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「遅くなってすまなかった」
優しい、二年前と全く変わらない声が私の耳に囁かれる。
そしてその瞬間ふと気の緩んだ私の口から出たのは今までの不安だった。
「………もう帰らないのかと思った。みんなもう貴方が帰ってこないって言って!だけど、私は帰ってくると思った!思ってたけど!」
「すまない」
それは酷く勝手でどうしようもない八つ当たりだった。
だが、それでもカルバスが言い返すことはなかった。
ただ必死に私を抱きしめる腕に力を入れる。
そしてその時ようやく私は気づく。
カルバスの身体のあちらこちらにある傷、その中には未だ治っていないものさえ存在することを。
「戻ってきてくれてよかった!本当に死んじゃったのかと思っだ!生きてでぐれて、ありがとう!」
もう、心の中はぐちゃぐちゃだった。
どうしようもなくカルバスが戻ってきてくれたことが嬉しくて、そして彼に今まで寄り添って入れなかったことが悲しくて、私の目から涙が溢れる。
「んぐ!」
だけど、それでも私は必死に冷静さを取り戻そうと大きく深呼吸をした。
途中でしゃっくりを上げてしまって、そのせいで変なところに空気が入って気持ちが悪くなる。
だが、それでも私は必死に深呼吸をして気持ちを落ち付けようと試みる。
「どうした、ライム!?」
その私の様子に異常を感じたのか、カルバスが焦ったような声をあげる。
その声には本当に私に対する気遣いがあふれていて、私は大丈夫だとそうカルバスに答えたくなる。
「すぅ、はぁ、ずっ!」
だけど、私は最終的にカルバスの言葉を無視して呼吸を整えるのに徹した。
カルバスが帰ってきてくれた、この状況それは本当に私がずっと待ち望んでいたことだった。
常に願い、動き現実にしようとしていたそんな光景。
そしてだからこそ、その時が来たら私は一番にある言葉を彼に告げようと決めていた。
情けないことにいきなりのことに忘れていて、私は最初に言うと言うことは果たせなくなってしまった。
だが、それでも次の言葉こそは絶対にそれにすると固い決意を固めて私は何度も深呼吸する。
そして、ようやく呼吸の整った私は笑った。
「カルバス、」
今まで私へと心配そうな視線を送っていたカルバスは、その私の呼びかけに私の顔を覗き込む。
「えっ?」
それからカルバスは私と目があったのを悟り、驚愕で目を大きく見開いた。
今まで心配そうにこちらを見つめていた視線が、驚愕に満ちたそんな顔に変わる。
それは何時ものカルバスの癖だった。
私が目を合わせようとしたらいつも照れ臭がって逃げて、そしてそれでも何とか目を合わせたら驚いたように目を丸くする。
その反応に私の胸に暖かい感情が溢れる。
そしてその瞬間、私は自然と満面の笑みを浮かべていた。
目は泣いていたせいで赤くて、そして未だ涙の跡が顔には残っているだろう。
想像通りとは言えない、あまりにもみすぼらしい顔。
だけど、これ以上の笑顔は出来ない、そう確信して私はその言葉を、告げた。
「ーーー おかえり」
「っ!」
それは二年前から、絶対に私が最初に告げると決めていた言葉だった。
誰よりも先にと。
そしてその瞬間、カルバスの頬に涙が一筋の線を描いた。
私が見る、初めてのカルバスの涙。
その一雫にどれだけの思いが込められているのか、そんなこと私には分からない。
「あぁ、ただいま」
だけど、これからその思いを共に背負って行く、その思いと共に私はカルバスの逞しい背中に回した腕に力を込めた。
いつの間にか満天の星が、私たちを祝うかのように夜空に広がっていた……
優しい、二年前と全く変わらない声が私の耳に囁かれる。
そしてその瞬間ふと気の緩んだ私の口から出たのは今までの不安だった。
「………もう帰らないのかと思った。みんなもう貴方が帰ってこないって言って!だけど、私は帰ってくると思った!思ってたけど!」
「すまない」
それは酷く勝手でどうしようもない八つ当たりだった。
だが、それでもカルバスが言い返すことはなかった。
ただ必死に私を抱きしめる腕に力を入れる。
そしてその時ようやく私は気づく。
カルバスの身体のあちらこちらにある傷、その中には未だ治っていないものさえ存在することを。
「戻ってきてくれてよかった!本当に死んじゃったのかと思っだ!生きてでぐれて、ありがとう!」
もう、心の中はぐちゃぐちゃだった。
どうしようもなくカルバスが戻ってきてくれたことが嬉しくて、そして彼に今まで寄り添って入れなかったことが悲しくて、私の目から涙が溢れる。
「んぐ!」
だけど、それでも私は必死に冷静さを取り戻そうと大きく深呼吸をした。
途中でしゃっくりを上げてしまって、そのせいで変なところに空気が入って気持ちが悪くなる。
だが、それでも私は必死に深呼吸をして気持ちを落ち付けようと試みる。
「どうした、ライム!?」
その私の様子に異常を感じたのか、カルバスが焦ったような声をあげる。
その声には本当に私に対する気遣いがあふれていて、私は大丈夫だとそうカルバスに答えたくなる。
「すぅ、はぁ、ずっ!」
だけど、私は最終的にカルバスの言葉を無視して呼吸を整えるのに徹した。
カルバスが帰ってきてくれた、この状況それは本当に私がずっと待ち望んでいたことだった。
常に願い、動き現実にしようとしていたそんな光景。
そしてだからこそ、その時が来たら私は一番にある言葉を彼に告げようと決めていた。
情けないことにいきなりのことに忘れていて、私は最初に言うと言うことは果たせなくなってしまった。
だが、それでも次の言葉こそは絶対にそれにすると固い決意を固めて私は何度も深呼吸する。
そして、ようやく呼吸の整った私は笑った。
「カルバス、」
今まで私へと心配そうな視線を送っていたカルバスは、その私の呼びかけに私の顔を覗き込む。
「えっ?」
それからカルバスは私と目があったのを悟り、驚愕で目を大きく見開いた。
今まで心配そうにこちらを見つめていた視線が、驚愕に満ちたそんな顔に変わる。
それは何時ものカルバスの癖だった。
私が目を合わせようとしたらいつも照れ臭がって逃げて、そしてそれでも何とか目を合わせたら驚いたように目を丸くする。
その反応に私の胸に暖かい感情が溢れる。
そしてその瞬間、私は自然と満面の笑みを浮かべていた。
目は泣いていたせいで赤くて、そして未だ涙の跡が顔には残っているだろう。
想像通りとは言えない、あまりにもみすぼらしい顔。
だけど、これ以上の笑顔は出来ない、そう確信して私はその言葉を、告げた。
「ーーー おかえり」
「っ!」
それは二年前から、絶対に私が最初に告げると決めていた言葉だった。
誰よりも先にと。
そしてその瞬間、カルバスの頬に涙が一筋の線を描いた。
私が見る、初めてのカルバスの涙。
その一雫にどれだけの思いが込められているのか、そんなこと私には分からない。
「あぁ、ただいま」
だけど、これからその思いを共に背負って行く、その思いと共に私はカルバスの逞しい背中に回した腕に力を込めた。
いつの間にか満天の星が、私たちを祝うかのように夜空に広がっていた……
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