婚約破棄、無かったことにできると思いましたか?

影茸

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46 侯爵家IV (セルベルト目線)

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 「……は?」

 死んだ王妃の生首。
 その絶望に歪んだ顔にマーキリの虚勢はあっさりと剥がれ落ちた。
 死んだ娘の姿をただ呆然と見つめる。
 王妃のその絶望に歪んだ顔。それにマーキリは全てを悟ったのだろう。
 王妃はマーキリとの関係を私によって強引に吐かされたことを。

 ーーー つまり、マーキリはもう処刑を免れることはできない。

 「……あ、あり得ない。これは国王の嘘だ……お、王妃たる人間がこんな早くに殺されるはずが……」

 ……だが、そのことを理解しても受け入れることはマーキリには出来なかった。
 マーキリは現実逃避するようにぶつぶつと何事かを呟き始める。
 確かに王妃という身分があれば、大抵の罪では即刻処刑などなどはありえない。
 ……だが、国王の毒殺未遂がその余程に入らないわけがないのだ。
 そしてそのことをマーキリはわかりながらも認めようとしない。
 ……目の前に染まった死を受け入れられないのだ。
 それはかつてのマーキリの傲慢な姿を知るからすれば、あまりにも情けない姿だった。

 「あ、ついでに教えておくが、マークも王族から追放することになるから」

 「ーーーっ!?」

 ーーー けれども、その程度で私はマーキリを許すつもりなどなかった。

 私はまるで友人に世間話をするかのようにそう告げる。
 ……あれ程マーキリが入れ込む孫から身分を剥奪すると。

 「ふざけるな!たった一人の王族をただ我らの憎しみのために追放するか!それは名君の行いか!」

 その瞬間、マーキリは今までの落ち込みようが嘘のように顔に怒りを浮かべ叫ぶ。
 ……だが、その言葉が私の胸を打つことは無かった。
 何せ私は名君になりたくてなった訳ではないのだから。
 ただ一つ、捨てきれなかった言葉に執着して、気づけばそう呼ばれるようになっただけでしかない。
 だから私にはその称号を投げ捨てるのに何の躊躇もない。

 ーーー けれども、今は別に名君の称号を捨てる必要など存在しない。

 「王族?ふざけるなはこちらのセリフだよマーキリ。あの無能には私の血など通っていないだろ?」

 「なっ!?」

 ……その私の言葉に、マーキリの顔から血の気が引くこととなった。
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