『穀潰し』と追い出された僕がギルドで優秀だった件

影茸

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第一章

第30話 信じられない光景 (サーシャ視点)

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 ライバートという少年。
 彼は私、サーシャにとって謎の塊だった。
 立ち振る舞いに、言葉使いからはとても平民とは思えない。
 しかし一方で、貴族とは思えない程の低姿勢。
 ……何より、たまにみる思い詰めた表情。

 ライバートの姿勢に好感を覚えると共に、私の中では疑問が膨らんでいくのは仕方ないことだろう。

 しかし、それ以上に私の胸にあったのはこの不器用な少年に対する心配だった。
 あの状態の傷でありながら、こちらを気遣って去ろうとする姿。
 その姿を見た時点で、この少年を見捨てるという選択肢が私の中から消えた。

 そして、今回こうしてとある仕事。
 隣のギルドまでの手紙の郵送を頼んだのには、その思いが大いに関係していた。
 もちろん、召喚士というスキルを宛にしていない訳ではない。
 しかし、いくら召喚士というスキルがギルドでは重宝されると行っても、郵送は専門外であることを私は知っていた。
 何せ、隣のギルドまでの距離は大人の足で走って一時間はかかる。
 そんな離れた場所まで召喚した精霊を顕現出来る召喚士などいるわけないのだから。
 そう。

 ……あり得ないはず、だった。

「にゃう!」

「お、ありがとね、シロ」

 ほめてと言いたげにじゃれつく子猫のような精霊に、その子猫をなで回す薄幸な美少年。
 それだけ見れば、非常に心が洗われる光景だ。
 普段の私であれば、冗談の一つでも言いながら、構いに行っていただろう。
 しかし、今の私にはそんな余裕は存在しなかった。

 ──全ては、ライバートと子猫の隣に積まれた山の様な積み荷のせいで。

 その積み荷こそ、先ほど出て行った子猫の精霊が一時間半程で持ってきた物だった。
 普通なら大人三人係で、持って来るような荷物を易々と持ってきたその精霊に、私はただ呆然と立ち尽くす。
 いや、呆然とたたずんでいるのは私だけではなかった。
 先ほどまでせわしなく働いていたギルド職員全員が動きを止めている。
 そのうち一人が、ゆっくりと荷物の方に歩き出す。
 そして、その荷物に刻まれた刻印を確認し、告げた。

「……これは、隣街のギルド長のものだ」

 瞬間、この場にいる全員が言葉を失った。
 それも仕方ないことだろう。
 この場にいる全員が、手紙の配達でさえ信じられていなかったのだから。

 というのも、こうしてシロが荷物を持ってくる前に、実は一悶着あった。
 この前に、ライバートは隣のギルドにまで、手紙を届けているのだ。
 しかし、実際に届けたと主張するライバートに対し、私達はその言葉を信じることができなかった。

 手紙を届けた証拠などない、途中で落としたのではないかと。

 そうライバートに言い寄るギルド職員をなだめながらも、私もまた疑惑の心を捨てられなかった。
 ライバートが信じるに値しない人間だと思った訳ではない。
 ただ、そんなことができる召喚士の存在など聞いたことがなかったのだ。
 それ故に信じられなかった私達に、信用させる条件としてライバートが告げたのが荷物の郵送と、証拠となる物品の配達。

 ……そして、それを見事達成したのこそが今だった。

 誰も声をあげない状況の中、ゆっくりとライバートが振り返る。
 そこに浮かぶのは、彼らしくない冷たい表情だ。

「で、これ以上何かいります?」

 にっこりと、笑って告げたライバートに少しの間誰も口を開かなかった。
 その沈黙に、ライバートがさすがに怪訝そうに眉をひそめ。

「うおおおおおお!」

「これで、あの地獄から解放される……!」

 ──ギルド職員達が歓喜の声をあげたのは、その直後のことだった。

「え、え?」

 さすがに想像していない事態だったのか、ライバートの顔に困惑が浮かぶ。
 しかし、その顔もすぐに嫌な予感にひきつる。
 その時すでに遅かった。

「悪かった坊主……!」

「え、いや、その近……」

「お前、とんでもない召喚士だったんだな……! そのちんまいのにも、悪かった!」

「ぴぃっ!」

 感激したギルド職員にもみくちゃにされ、すぐに小柄なライバートの姿は見えなくなる。
 過剰な反応な気もするが、それも仕方ないだろう。
 何せ、この仕事はギルド職員の時間を大きく奪い、押しつけあうことになるたぐいの仕事なのだから。
 比較的理性の残っており、ライバートを押しつぶしていないギルド職員に至っても、喜びを隠せていない。

 ……そんな中、私だけはその輪の中に入れずにいた。

 喜んでいない訳じゃない。
 けれど、それ以上に私にはあることを見逃せなかった。

「本当に、ライバートは召喚士なの……?」

 そう、自分の間の辺りにしてしまったライバートの能力という異常を。
 しかしすぐに私はその考えを頭の片隅に追いやる。
 私は召喚士のなにを知っているのだと。

 ……それが彼の異常さの一端でしかないことなど、その時の私は知る由もなかった。
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