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第15話 竜殺し
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「ガセじゃ無かったのか……」
俺は目の前に立つ男を見てそう呟いた。
男から発せられる殺気、それはあの悪魔などはるかに凌駕していた。
そして俺はそこでやっと、竜殺しという偉業が果たされたのは、は単体ではなく集団が協力したか、運が良かったかのどちらかであるという考えが甘い見通しであったことに気づく。
竜殺し、それは単独で成し遂げるにはあまりにも過酷すぎる偉業。
なのにそのことを成した、そう疑うまでもなく納得してしまう、そんな威圧感を周囲に撒き散らす男に俺は引き攣った笑みを浮かべた。
「っ!」
ーーーそして、相手取らなければならないのは目の前の男だけでは無かった。
男が手を軽く振ると、周りにはいつの間にかカラムの若者らしき、仮面を被った人物達に包囲されていた。
その集団がいることを悟っていた俺も、俺が腕に抱えている男よりも全員が強く、そして息のあった行動に、男の比でないその集団の連携の高さを悟る。
そして、俺は元から逃げるつもりはなかったが、逃げることのできないよう包囲してみせた目の前の竜殺しに、男が決して脳筋でないことを悟らされる。
「はっ!頭もいい完璧無血ってか!」
だが、それでもこの場の主導権を握っているのは人質を取っている俺だった。
この世界の練度の高い民族は、仲間意識が強い。
それは連携を強化するため、または人口が少なく協力しないと生き残ることが出来ないといった現状が今まで続いて出来た風習。
それは今まで竜と戦う時には結団力を上げたりと、プラスに働いてきたかもしれないが、今に関しては逆に足枷になっていた。
俺は懐からナイフを取り出し抱えた男の首筋に突きつける。
それは小ぶりものだったが、腕に抱えた戦意のない人間を殺すことなど訳もない凶器。
そして、その光景に明らかにカラムの動きは鈍っていた。
「まぁ、別にここでこの男を人質に取ってカラムにあだなそうなんてことは俺も思ってはいない。さっきから言っているだろう?俺は自分の実力を示したいんだよ」
俺はまるでそのカラムの反応を楽しむかのように言葉を重ねる。
その明らかに挑発に、幾人かの若者は怒りを隠さずにこちらに殺気を向けてくる。
「で、何が望みだ」
だが、竜殺しの男だけは違った。
本当に嫌なぐらいできる奴だと、俺は内心嘆きながら一度黙る。
だが、男はその明らかに不自然な沈黙に反応することはなかった。
「俺にはそんな挑発は意味をなさない」
「っ!」
そして、その一言で挑発に憤っていた周りの若者達を冷静に戻す。
「っ!」
一瞬俺はその男のあまりの手際に言葉に詰まるが、すぐに挑発を諦め切り替える。
「ああ、俺の望むことは二つ。
一つは俺と竜殺しがサシで勝負すること。多勢に無勢じゃどうしようもないからな」
「ふざけるな!」
俺の言葉に若者の1人が怒声をあげる。
「その要件は飲もう」
ーーーだが、その若者を納めたのは他ならぬ竜殺しだった。
「っ!」
若者は直ぐに抗議しようとして、唇を噛んで俯いた。
どうやらリーダーの決め事は絶対らしい。
「話はまとまったか?だったらもう一つ」
そう言って俺は先程から震えているユリアを指で示した。
「こいつは此処からどけてくれ」
「えっ!」
それにユリアが抗議の声を上げるが、俺は無視する。
よく見ればユリアは馬の手綱を操り、カラムの集団の方へと馬の頭を向け、もう片方の手で小ぶりのナイフを持っていた。
それはまるでいざという時、馬にナイフを突き立て暴れさせようとしていることを示していて、俺は笑いそうになってしまう。
そんだけ震えながら、何でそんなに戦闘態勢になっているのだと。
だが、今はユリアの力を借りる時ではない。
それどころか、いたら邪魔になる。
故に、何としても彼女を戦闘地帯から話しておく必要があるのだが、それについては心配していなかった。
受け入れられにくいのは最初の一つだけで、彼女を避難させることについては、余程のことがない限り反論しない、そう判断していた。
そして、カラムの若者の1人が前に出て、俺の身体に縋り付くユリアを引っぺがそうとする。
「なぁ?」
ーーーそして、竜殺しが口を開いたのはその時だった。
「その少女の避難は認めない、そう言ったらどうする?」
俺は目の前に立つ男を見てそう呟いた。
男から発せられる殺気、それはあの悪魔などはるかに凌駕していた。
そして俺はそこでやっと、竜殺しという偉業が果たされたのは、は単体ではなく集団が協力したか、運が良かったかのどちらかであるという考えが甘い見通しであったことに気づく。
竜殺し、それは単独で成し遂げるにはあまりにも過酷すぎる偉業。
なのにそのことを成した、そう疑うまでもなく納得してしまう、そんな威圧感を周囲に撒き散らす男に俺は引き攣った笑みを浮かべた。
「っ!」
ーーーそして、相手取らなければならないのは目の前の男だけでは無かった。
男が手を軽く振ると、周りにはいつの間にかカラムの若者らしき、仮面を被った人物達に包囲されていた。
その集団がいることを悟っていた俺も、俺が腕に抱えている男よりも全員が強く、そして息のあった行動に、男の比でないその集団の連携の高さを悟る。
そして、俺は元から逃げるつもりはなかったが、逃げることのできないよう包囲してみせた目の前の竜殺しに、男が決して脳筋でないことを悟らされる。
「はっ!頭もいい完璧無血ってか!」
だが、それでもこの場の主導権を握っているのは人質を取っている俺だった。
この世界の練度の高い民族は、仲間意識が強い。
それは連携を強化するため、または人口が少なく協力しないと生き残ることが出来ないといった現状が今まで続いて出来た風習。
それは今まで竜と戦う時には結団力を上げたりと、プラスに働いてきたかもしれないが、今に関しては逆に足枷になっていた。
俺は懐からナイフを取り出し抱えた男の首筋に突きつける。
それは小ぶりものだったが、腕に抱えた戦意のない人間を殺すことなど訳もない凶器。
そして、その光景に明らかにカラムの動きは鈍っていた。
「まぁ、別にここでこの男を人質に取ってカラムにあだなそうなんてことは俺も思ってはいない。さっきから言っているだろう?俺は自分の実力を示したいんだよ」
俺はまるでそのカラムの反応を楽しむかのように言葉を重ねる。
その明らかに挑発に、幾人かの若者は怒りを隠さずにこちらに殺気を向けてくる。
「で、何が望みだ」
だが、竜殺しの男だけは違った。
本当に嫌なぐらいできる奴だと、俺は内心嘆きながら一度黙る。
だが、男はその明らかに不自然な沈黙に反応することはなかった。
「俺にはそんな挑発は意味をなさない」
「っ!」
そして、その一言で挑発に憤っていた周りの若者達を冷静に戻す。
「っ!」
一瞬俺はその男のあまりの手際に言葉に詰まるが、すぐに挑発を諦め切り替える。
「ああ、俺の望むことは二つ。
一つは俺と竜殺しがサシで勝負すること。多勢に無勢じゃどうしようもないからな」
「ふざけるな!」
俺の言葉に若者の1人が怒声をあげる。
「その要件は飲もう」
ーーーだが、その若者を納めたのは他ならぬ竜殺しだった。
「っ!」
若者は直ぐに抗議しようとして、唇を噛んで俯いた。
どうやらリーダーの決め事は絶対らしい。
「話はまとまったか?だったらもう一つ」
そう言って俺は先程から震えているユリアを指で示した。
「こいつは此処からどけてくれ」
「えっ!」
それにユリアが抗議の声を上げるが、俺は無視する。
よく見ればユリアは馬の手綱を操り、カラムの集団の方へと馬の頭を向け、もう片方の手で小ぶりのナイフを持っていた。
それはまるでいざという時、馬にナイフを突き立て暴れさせようとしていることを示していて、俺は笑いそうになってしまう。
そんだけ震えながら、何でそんなに戦闘態勢になっているのだと。
だが、今はユリアの力を借りる時ではない。
それどころか、いたら邪魔になる。
故に、何としても彼女を戦闘地帯から話しておく必要があるのだが、それについては心配していなかった。
受け入れられにくいのは最初の一つだけで、彼女を避難させることについては、余程のことがない限り反論しない、そう判断していた。
そして、カラムの若者の1人が前に出て、俺の身体に縋り付くユリアを引っぺがそうとする。
「なぁ?」
ーーーそして、竜殺しが口を開いたのはその時だった。
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