堕ちた勇者は覇道を駆ける

影茸

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第4話 勇者の失敗

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 悪魔が魔術を構成し始めた瞬間、彼女からから感じる危険度が急激に上がる。
 そう、悪魔の恐ろしさは決して魔力に特異な能力を持っているそれだけでは無い。
 構成を初めて直ぐ、魔力を発動することまで持っていける、構成能力に、膨大な魔術を使いながらも、その魔術の全てで、特定の魔術だけを磨き強力な魔術を放てるよう進化してきた人間の魔術を、軽々と超える、威力。
 それが人間の悪魔を恐れ、そして悪魔の誘いに乗る理由。
 先の地獄を悟りながらも、目の前の幸福の実現の為すがってしまう程の強力な存在。
 それが、悪魔だった。
   
 そして目の前の少女は、勝利を確信したように笑みを浮かべる。
 
 「なっ!」

 ーーーだが、次の瞬間、彼女は身体を折り曲げて悶絶した。
 
 直ぐに彼女は立ち上がるが、顔には拭いきれない驚愕が浮かんでいた。

 「ば、馬鹿な!人間ごときが僕の魔術構成速度を上回るだと!」

 「はっ、そんな化け物いるか!」

 だが、俺は直ぐにその言葉を否定する。
 そして、片腕に魔力をためてみせる。

 「ただ、魔力をぶつけただけだ」

 そう、俺がしたのは本当に魔力をぶつけただけ。
 そして、ぶつけるだけならば、悪魔の魔術なんかより、余程早く発動できる。

 「ふざけるな!魔力をぶつけただけで、攻撃などできない!」

 そう、普通は魔力をぶつけたとしても、ただ霧散するだけで、攻撃などできない。
 
 ーーーただ、一つ例外がある。

 「何だよ、お前が人のこと言えるかよ……」

 それは目の前にいる悪魔のような魔力を持つもの。

 「くっ!まさか人間などが、特異魔力を持っているのか!」

 つまり、魔力に特異な能力が存在する者。
 
 通常、特異魔力など持つものは、人間の中にはいない。
 持っているのは、竜や、悪魔などの、種族として特異魔力を有しているものや、天使。
 だが、人間の中でも時々、強大な魔力を持つものは、特異魔力を得る事がある。

 ーーー俺は、特異魔力を持っていた。

 「ああ、俺もお前と同じさ」

 「っ!」

 そう言って笑う俺に、初めて悪魔が警戒心を抱く。
 しかし、そこから悪魔が魔術を構成する前に、俺の魔力が悪魔を攻撃する。

 「ぐはっ!」

 そして、俺はまだ得る悪魔に笑いかける。

 「さぁ、ここからは本気で行く」

 ーーーこうして、虐殺劇が始まった。





 




 「くそ!」

 悪魔が魔術をまた構成しようとする。
 しかし、俺はまた魔力をぶつけてそれを阻害する。
 
 「ぐっ!舐めやがって!」

 そして今度、悪魔は腐食の魔力を放つが、それは俺の魔力に相殺されて消える。
 こんな事が永遠と続いていき、悪魔は徐々に疲労を見せる。
 俺が魔力でしていることは、別に悪魔の依り代の少女を傷つけることではない。
 ただ悪魔の魔力を削っていくこと、ただそれだけ。
 だが、魔力体として少女に包囲している悪魔にとって、魔力が尽きることは死を意味する。
 俺の魔力は中々器用で、いろいろな事ができ、魔力を削ぐこともその一つだ。
 それ故の攻撃に、徐々に悪魔の顔に恐怖の色が浮かんでくる。

 「さぁ、これで実力差は理解いただけたかな?」

 そして俺は、悪魔が魔術を直ぐには構成できない所まで痛めつけ一度攻撃をやめた。

 「はぁ、はぁ、はぁ、」

 肩で息をする悪魔は、俺のその突然の行動に不審に感じたのか、怪訝そうな顔にこちらを見る。
 しかし、直ぐにその顔は恐怖に包まれた。

 「ん?」

 何も行動を起こしていなかった俺は、一瞬、悪魔のその反応に驚く、が、直ぐに悪魔が俺が何もしていないということに対して、また何かして来るつもりだと、被害妄想を展開しているとに気づく。

 「はっ!天下の悪魔様のこうなれば情けねぇな!」

 「っ!くそ!人間如きが!」

 自分の考えを見抜かれたことに、悪魔は顔を赤く染めて憤慨し、また腐食を放とうとする。
 俺はそれを確認して、また自分の手に魔力を集める。

 「っ!」

 そしてそれだけで、悪魔は体を硬直させる。
 
 「くそが!」

 悪魔はその自分の反応を心底憎むように、吐き捨てるが、もう勝負は決まっていた。
 そして、俺は悪魔に笑いかけた。

 「さぁ、ここでお前に二つの選択肢をやろう」

 悪魔の顔に、恐怖が浮かぶ。
 しかし、俺は気にしない。
 悪魔の顔の前で、指を掲げる。

 「一つ、ここで死ぬか、二つ、俺の」

 ーーー配下になるか。

 俺はそう続けようとして、続ける事ができなかった。
 簡単だ。悪魔が、いきなり行動を起こしたのだ。
 だが、俺は焦らない。
 悪魔が反抗して来ることは予想していた。
 相手はまだ余力を残していて、更に馬鹿にされることに酷く憤慨する、そんな性格なのだから。
 ただ、計算違いがあるとすれば、二つ目の選択肢を言葉にしてから憤慨すると思い込んでいた、ということだけだろう。
 最初の選択肢で、怒りを覚えるぐらいしぶといとは正直思っていなかった。
 
 「だが、俺好みだ」

 俺は、そう笑って、悪魔がどう攻撃してきたとしても反応できるよう、身体に力を入れ、

 「へ?」

 ーーー少女の身体を捨て、次元を越えようとする悪魔の魔力を呆然と見送った。
 
 「ん?」

 目の前には悪魔が今まで取り憑いていた、少女。
 そこからは、先程のような脅威は全く感じられずに俺は戸惑う。
 
 「逃げた?」

 そして、少ししてからようやく状況を飲み込んで、

 「ぁぁぁぁあああ!」

 膝から地面に崩れていった………
 
 そして、悪魔がさっきまでここにいたことを示す少女は、俺の慟哭でも起きず、スヤスヤと安らかな寝顔で眠っていた………
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