上 下
28 / 29
離縁の準備

第二十七話

しおりを挟む
「な……! そんなことがあり得るのか!」

「初の女性領主だと……!」

「し、しかし国王陛下の勅印が……! それに女王陛下の署名まで……」

「豊穣の女神と女王陛下の仲がよろしいことは聞いていたが、こんなことが……」

 かろうじて聞き取れたのはそれくらいか。
 そんな会話しか聞こえないほどの騒ぎが今、会場で起きていた。
 しかし、それもそうだろう。
 今まで女性の貴族などありはしなかったのだから。
 そもそもを言えば、こんな風に離縁できた女性は一体どれだけか。
 それが認められたのは、私の友人たる女王陛下が国王陛下を説得してくれたからにほかならない。

「ありがとね……!」

 騒ぎの中、私は小さく友への礼を口にする。
 彼女がいなければ、私の計画はそもそも達成できなかっただろうと。

「ふざけるな! 私は認めないと言ったはずだ!」

 その騒ぎに水を差す怒声が響いたのはそんな時だった。
 声の主たるマキシムは顔を真っ赤にしながら叫ぶ。

「何が女王陛下だ! スリラリアはドリュード伯爵家の、私のものだ!」

 血走った目で叫ぶマキシム。
 その姿に、私は自分の心がすっとさめていくのを感じていた。
 何が私のものだ。
 今まで一度たりとてスリラリアの為になる事をしなかったくせに。
 しかし、その思いを封じ込めて私は形だけでも申し訳なさそうな表情を浮かべて見せた。

「……マキシム様今までの厚遇大変感謝しております。にも関わらず、このような形になってしまって」

「ふざけるな! 貴様は今自分が何をしているのか分かっていないのか!」

 どの口が言うのか。
 そんな言葉が喉元までせり上がってきて、私はまたもやその思いを飲み込む。
 もう自分の怒りを隠す必要などないことを知りながら。

「ドリュード伯爵閣下、お言葉を慎んだ方が……」

「は……?」

 ──同時に、もうそんな事をしなくてもマキシムの圧倒的な敗北が決まっている事を知っていたが故に。

「そうです! 女王陛下を悪し様に言われることはどうか、お控えください!」

「国王陛下の刻印もあるのですよ!」

 そう言って続けざまに声を上げてたのは、初夜式に招かれていた貴族達だった。
 彼らは必死の形相で言い募る。

「う、うるさい! こんな理不尽が許されて……!」

「お、落ち着いてください!」

「ふざけるな! どうして誰も私の肩を持たない!?」

 いつもは自分のイエスマンであったはずの貴族達の裏切り。
 その変貌にマキシムが声を上げたのはその時だった。

 ……その声に内心申し訳ない表情をしながら、内心私は笑っていた。

 当たり前だろうと。
 彼らは今までドリュード家が優勢だったからついてきただけの存在でしかない。
 彼らに今まで面倒を見てくれたマキシムへの恩義などない。
 ただ、強い人間についていくだけのコバンザメ。

 ──そして今、この場に置ける強者はスリラリアという金のなる木を手にした私だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

猫化の呪い持ちを隠して嫁がされたのに何故か溺愛されています!

長船凪
恋愛
ヴィルシュテッター帝国、ゼーネフェルダ子爵家の長女にとして生まれたエリアナ・ド・ゼーネフェルダ。 満月の晩に獣に変身する(猫耳に尻尾を持つ姿)呪い持ちの子爵令嬢。 旦那様は竜族の血を引子孫のゴードヘルフ・ラ・クリストロ小公爵。 そこに嫁ぎ、子を産むと早死にすると世間では恐れられていた。 今の公爵夫人は再婚で二人目。 呪い持ちを隠して輿入れさせられたのは、父が事業に失敗したあげく、カジノで起死回生を狙うも失敗し、借金が増えた為。 そんな中、不意に届けられた竜族の血を引く一族の末裔、クリストロフ公爵家からの子爵家への求婚状。 何故か子爵家の令嬢なら誰でも良いような書き方で、しかし結婚支度金が多く、金に目が眩んだ子爵は即、娘を売り飛ばすことにした。 しかし、満月の夜にケモ耳っ娘に変身する呪い持ちのエリアナだったが、実はある特殊な権能があった。その権能はデメリットつきではあるが、夢の中の図書館にて異世界の記録、物語、知識等を得られるものであった。 *カクヨム等で先行投稿しています。

壁の花令嬢の最高の結婚

晴 菜葉
恋愛
 壁の花とは、舞踏会で誰にも声を掛けてもらえず壁に立っている適齢期の女性を示す。  社交デビューして五年、一向に声を掛けられないヴィンセント伯爵の実妹であるアメリアは、兄ハリー・レノワーズの悪友であるブランシェット子爵エデュアルト・パウエルの心ない言葉に傷ついていた。  ある日、アメリアに縁談話がくる。相手は三十歳上の財産家で、妻に暴力を働いてこれまでに三回離縁を繰り返していると噂の男だった。  アメリアは自棄になって家出を決行する。  行く当てもなく彷徨いていると、たまたま賭博場に行く途中のエデュアルトに出会した。  そんなとき、彼が暴漢に襲われてしまう。  助けたアメリアは、背中に消えない傷を負ってしまった。  乙女に一生の傷を背負わせてしまったエデュアルトは、心底反省しているようだ。 「俺が出来ることなら何だってする」  そこでアメリアは考える。  暴力を振るう亭主より、女にだらしない放蕩者の方がずっとマシ。 「では、私と契約結婚してください」 R18には※をしています。    

義兄に告白されて、承諾したらトロ甘な生活が待ってました。

アタナシア
恋愛
母の再婚をきっかけにできたイケメンで完璧な義兄、海斗。ひょんなことから、そんな海斗に告白をされる真名。 捨てられた子犬みたいな目で告白されたら断れないじゃん・・・!! 承諾してしまった真名に 「ーいいの・・・?ー ほんとに?ありがとう真名。大事にするね、ずっと・・・♡」熱い眼差を向けられて、そのままーーーー・・・♡。

[完結]気付いたらザマァしてました(お姉ちゃんと遊んでた日常報告してただけなのに)

みちこ
恋愛
お姉ちゃんの婚約者と知らないお姉さんに、大好きなお姉ちゃんとの日常を報告してただけなのにザマァしてたらしいです 顔文字があるけどウザかったらすみません

噂好きのローレッタ

水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。 ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。 ※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです) ※小説家になろうにも掲載しています ◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました (旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)

今日から始める最強伝説 - 出遅れ上等、バトル漫画オタクは諦めない -

ふつうのにーちゃん
ファンタジー
25歳の春、転生者クルシュは祖国を出奔する。 彼の前世はしがない書店経営者。バトル漫画を何よりも愛する、どこにでもいる最強厨おじさんだった。 幼い頃の夢はスーパーヒーロー。おじさんは転生した今でも最強になりたかった。 その夢を叶えるために、クルシュは大陸最大の都キョウを訪れる。 キョウではちょうど、大陸最強の戦士を決める竜将大会が開かれていた。 クルシュは剣を教わったこともないシロウトだったが、大会に出場することを決める。 常識的に考えれば、未経験者が勝ち上がれるはずがない。 だがクルシュは信じていた。今からでも最強の座を狙えると。 事実、彼の肉体は千を超える不活性スキルが眠る、最強の男となりうる器だった。 スタートに出遅れた、絶対に夢を諦めないおじさんの常勝伝説が始まる。

【R18】ショタが無表情オートマタに結婚強要逆レイプされてお婿さんになっちゃう話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

【R18】ひとりで異世界は寂しかったのでペット(男)を飼い始めました

桜 ちひろ
恋愛
最近流行りの異世界転生。まさか自分がそうなるなんて… 小説やアニメで見ていた転生後はある小説の世界に飛び込んで主人公を凌駕するほどのチート級の力があったり、特殊能力が!と思っていたが、小説やアニメでもみたことがない世界。そして仮に覚えていないだけでそういう世界だったとしても「モブ中のモブ」で間違いないだろう。 この世界ではさほど珍しくない「治癒魔法」が使えるだけで、特別な魔法や魔力はなかった。 そして小さな治療院で働く普通の女性だ。 ただ普通ではなかったのは「性欲」 前世もなかなか強すぎる性欲のせいで苦労したのに転生してまで同じことに悩まされることになるとは… その強すぎる性欲のせいでこちらの世界でも25歳という年齢にもかかわらず独身。彼氏なし。 こちらの世界では16歳〜20歳で結婚するのが普通なので婚活はかなり難航している。 もう諦めてペットに癒されながら独身でいることを決意した私はペットショップで小動物を飼うはずが、自分より大きな動物…「人間のオス」を飼うことになってしまった。 特に躾はせずに番犬代わりになればいいと思っていたが、この「人間のオス」が私の全てを満たしてくれる最高のペットだったのだ。

処理中です...