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36.決着

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 「どうして……」

 俺の剣の状態を見て、アルバはそう呟く。
 その目に浮かんでいたのは狂おしいほどの憎悪と、憤怒だった。
 
 「世界に拒絶されて、何も出来ないなりそこないのはずなのに、

 ーーー何でお前らは私を変えようとする!」

 そのお前ら、の中にはサトラが含まれていることを俺は悟る。
 そしてアルバの怒りを示すかのように、もう完成した上級魔法陣が輝いていた。
 エルフは自然と調和する生き物として、態々魔法を構築する時、被害が広がらないようにストッパーを入れ込んでいる。
 そして、だから今までアルバがあれだけ魔法を撃っても森に燃え広がることのなかった理由がそのストッパーだった。
 
 ーーーだが、その魔法陣から漏れる熱気で周りの気が焦げ始めるのをみて俺は悟る。

 本気でアルバは俺とサトラを殺すために、そのストッパーをわざと外したことを。

 「あんたが悪いんだからね」
 
 そしてそういったアルバの顔に浮かんでいたのは何処かネジの外れた笑みだった。
 そう、エルフが魔法にストッパーをつけているそれにはそれだけエルフの魔法は強力で、周りに被害を及ぼすからと言う理由が存在するからだった。
 そしてアルバはその責任転嫁をしているだけだった。

 「はっ!巫山戯るなよ!」
 
 ーーーだが、そんなことどうでもよかった。
 
 魔法陣が一際明るく輝き、発動する。
 しかし、俺は口元の笑みを崩さなかった。

 「そもそも、それが通用するっていうことは

 ーーーあり得ないんだから」

 そして、俺の言葉に反応するかのように剣が白く輝き、

 ーーーアルバの魔法と俺の剣がぶつかった。

 






 アルバが魔法で生み出した、天まで届きそうな火柱と、俺の魔力の炎を発する剣。
 それは明らかに火柱の方に分があるはずなのに、

 「うぉぉおおおお!」

 ーーー押しているのは俺の剣の方だった。

 「なっ!」

 そして油断しきっていたアルバがそのことに気づいた時は、もう手遅れだった。
 
 次の瞬間、火柱は跡形もなく消え、火柱の向こう側にはアルバが倒れていた。




 

 

 俺が行ったのは、ただ上級魔法を打ち消したそれだけだった。
 
 ーーーそして、それだけで十分だった。
 
 「うぐっ!」
 
 なんとか立ち上がろうとしているが、もうアルバには魔力は残っていないだろう。
 そして、そんな状態ではもう何もできない。
 もう少しで意識もなくなるだろうと、そう判断して、俺は踵を返す。

  「待て!巫山戯るな!お前のような屑に……」

 「はっ!

 ーーー負け犬のクズはお前だよ」

 「なっ!」

 そう、言い残して。







 俺がサトラの元に戻ると、サトラは白い顔で意識を失っていた。
 それに俺は屋敷に戻って治療するしかない、そう判断して、屋敷へと戻り始めた。

 「っ!この裏切り者が!」

 そして、意識を取り戻したらしい両親と対面した。

 俺はその両親を無視しようとして、

 ーーーあることを思いついた。
 
 「ねぇ、お父様お母様、

 ーーー領主交代がどんな時に起こるか知っていますか?」

 「なっ!」

 その俺の一言の示す意味。
 それに気づいた父親は顔色を変え、

 「無礼者!」

 母親は魔法を発動しようと、魔法陣を構築し始めた。
 まだ、そんなことができるだけの魔力が残っていることに俺は驚きつつも、

 ーーー剣が纏った魔力で、母親が魔法陣に流しこもうとした魔力を打ち消した。

 「なっ!」

 信じられないと、言葉を失う母親の首元に俺は剣を突きつける。

 「大人しく隠居してくださるか、

 ーーー不慮の事故で亡くなる、どっちが良いですか?」

 「っ!」

 それに母親は恐怖を顔に浮かべながら、後退る。

 それが答えだった。

 「お前は何なんだ?」

 もう話はないとばかりに踵を返した俺に、父親の声がかかる。

 「ただの人間だよ……」

 俺はその言葉に笑って答えた。

 「っ!」

 だが、その目に込められた殺気に父親あとざる。

 「お前らのせいで、呼ぼう……
 ああ、そうか。

 ーーースキルで世界を変えないといけなくなっただけの、ただの転生者だよ」
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