上 下
35 / 52

第35話

しおりを挟む
 私の言葉に、会場内にいる貴族の視線が自分に集まってくるのが分かる。
 その目に宿るのは、隠しきれない疑惑。

 今まで、この場所に居る貴族達はマーリスを疑ってはいなかっただろう。
 そうなるように私は、マーリスに猫を被るよう教育してきたし、その甲斐あってアーステルト家の貴族付き合いはかなり良好だ。
 だから本来であれば、この場にいる貴族達が私の言葉に動揺を見せることなんて無かっただろう。

 そう、先ほどの貴族達の態度さえ無ければ。

 「マーリス様が告げた私の不貞の冤罪を晴らすために」

 そう私が言葉を発した瞬間、貴族達に走ったどよめきに、そのことを改めて認識する。
 それを理解して、私は笑って口を開いた。

 「今回の婚約破棄ですが、二つ訂正させていただきます。私は決して不貞を働いていないこと。──そして、婚約破棄をしたのは私の方からであることを」

 だが次の瞬間、そう告げた私に向けられる視線は、信じられないとでも言いたげなものに変化した。
 それは、私がマーリスを婚約破棄したと告げたからのもの。
 この国では、決して女性の地位は高くない。
 つまり、余程女性の地位が男性よりも高い場合を除き、女性からの婚約破棄は非常識なものとして捉えられているのだ。

 だからこそ、貴族達は私に呆れたような目を向ける。
 決してマーリスに対する疑惑が無くなったわけでもない。
 しかし、その元婚約者であった私も決して優れた人間ではないと判断して。

 「マーリス様は、そんな私に対する嫉妬から、こうした冤罪を広めようとしたのしょう。つまり、冤罪の話は私とマーリス様のつまらない諍いです」

 けれど、その貴族の考えを理解してもなお、私はまるで動じる様子もなく言葉を続けた。
 自分に対する貴族達の目が、決して好意的なものではないことに気付きながら。


 ──何故なら、それが私の望むべき反応だったのだから。

 「ですが、その諍いが原因で皆様に迷惑をかけてしまったのも事実。なので今日私は、皆様に謝罪をするべくこの場所に足を運ばせていただきました」

 その言葉とともに、私は優雅に一礼をする。
 こちらに良い感情を抱いていないはずの貴族さえ、たじろぐようなそんな一礼を。

 それが合図だった。


 「なっ!なんだ貴様らは!」

 「っ!」

 次の瞬間、会場内に私が手配していたもの達が、荷物を抱えて入ってくる。
 それに、貴族達は顔に隠しきれない驚愕を浮かべて当てふためく。

 「ちょっと待て!……これは!」

 だが、その驚愕は直ぐに収まることになった。
 私の手配したものの、中身にようやく気付いたらしい。
 貴族達は、今まで私の手配したものに警戒心を露わにしていたことを忘れたように、荷物に殺到する。

 「……何で、こんなものが」

 そして、その中に入っていた最新式の魔道具を目にし、呆然と立ち尽くすことになった。
 その魔道具は、今この王国内で最先端と言われる、とある商業組織が作り上げたもの。
 それをこれだけ揃えようとすれば、どれだけの金額がかかるか貴族達に分からないはずがない。

 少なくとも、伯爵令嬢ごときに揃えられるものでないのは明らかで、貴族達は疑問を隠せずに荷物の中身と私を交互に確認する。

 「では、改めて自己紹介させて頂きます」

 その姿を見た私は、これで証拠は充分だと判断して、自身の身を隠してきたローブを脱ぎ放った。
 その下から露わとなったのは、花嫁であるマルシェさえ霞む豪華絢爛なドレス。
 そのドレスを身につけた私に、貴族達はその顔を唖然とさせ、言葉を失う。
 それを確認して、私は再度一礼をした。

 「私はマーセルラフト伯爵家令嬢サラリアであり、今先程持ち込ませて頂いた魔道具を発明した組織、《仮面の淑女》の代表を務めさせて頂いております。──以後、お見知り置きを」

 そして私は、自分の最大かつ最強の切り札を明かした。


 ◇◇◇

 更新遅れてしまい申し訳ありません。
 見せ場になる程難しい……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔力無しの聖女に何の御用ですか?〜義妹達に国を追い出されて婚約者にも見捨てられる戻ってこい?自由気ままな生活が気に入ったので断固拒否します〜

まつおいおり
恋愛
毎日毎日、国のトラブル解決に追われるミレイ・ノーザン、水の魔法を失敗して道を浸水させてしまったのを何とかして欲しいとか、火の魔道具が暴走して火事を消火してほしいとか、このガルシア国はほぼ全ての事柄に魔法や魔道具を使っている、そっちの方が効率的だからだ、しかしだからこそそういった魔力の揉め事が後を絶たない………彼女は八光聖女の一人、退魔の剣の振るい手、この剣はあらゆる魔力を吸収し、霧散させる、………なので義妹達にあらゆる国の魔力トラブル処理を任せられていた、ある日、彼女は八光聖女をクビにされ、さらに婚約者も取られ、トドメに国外追放………あてもなく彷徨う、ひょんなことからハルバートという男に助けられ、何でも屋『ブレーメンズ』に所属、舞い込む依頼、忙しくもやり甲斐のある日々………一方、義妹達はガルシア国の魔力トラブルを処理が上手く出来ず、今更私を連れ戻そうとするが、はいそうですかと聞くわけがない。

君を愛するつもりはないと言われた私は、鬼嫁になることにした

せいめ
恋愛
美しい旦那様は結婚初夜に言いました。 「君を愛するつもりはない」と。 そんな……、私を愛してくださらないの……? 「うっ……!」 ショックを受けた私の頭に入ってきたのは、アラフォー日本人の前世の記憶だった。 ああ……、貧乏で没落寸前の伯爵様だけど、見た目だけはいいこの男に今世の私は騙されたのね。 貴方が私を妻として大切にしてくれないなら、私も好きにやらせてもらいますわ。 旦那様、短い結婚生活になりそうですが、どうぞよろしく! 誤字脱字お許しください。本当にすみません。 ご都合主義です。

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

死を回避したい悪役令嬢は、ヒロインを破滅へと導く

miniko
恋愛
お茶会の参加中に魔獣に襲われたオフィーリアは前世を思い出し、自分が乙女ゲームの2番手悪役令嬢に転生してしまった事を悟った。 ゲームの結末によっては、断罪されて火あぶりの刑に処されてしまうかもしれない立場のキャラクターだ。 断罪を回避したい彼女は、攻略対象者である公爵令息との縁談を丁重に断ったのだが、何故か婚約する代わりに彼と友人になるはめに。 ゲームのキャラとは距離を取りたいのに、メインの悪役令嬢にも妙に懐かれてしまう。 更に、ヒロインや王子はなにかと因縁をつけてきて……。 平和的に悪役の座を降りたかっただけなのに、どうやらそれは無理みたいだ。 しかし、オフィーリアが人助けと自分の断罪回避の為に行っていた地道な根回しは、徐々に実を結び始める。 それがヒロインにとってのハッピーエンドを阻む結果になったとしても、仕方の無い事だよね? だって本来、悪役って主役を邪魔するものでしょう? ※主人公以外の視点が入る事があります。主人公視点は一人称、他者視点は三人称で書いています。 ※連載開始早々、タイトル変更しました。(なかなかピンと来ないので、また変わるかも……) ※感想欄は、ネタバレ有り/無しの分類を一切おこなっておりません。ご了承下さい。

【完結】悪役令嬢はゲームに巻き込まれない為に攻略対象者の弟を連れて隣国に逃げます

kana
恋愛
前世の記憶を持って生まれたエリザベートはずっとイヤな予感がしていた。 イヤな予感が確信に変わったのは攻略対象者である王子を見た瞬間だった。 自分が悪役令嬢だと知ったエリザベートは、攻略対象者の弟をゲームに関わらせない為に一緒に隣国に連れて逃げた。 悪役令嬢がいないゲームの事など関係ない! あとは勝手に好きにしてくれ! 設定ゆるゆるでご都合主義です。 毎日一話更新していきます。

女官になるはずだった妃

夜空 筒
恋愛
女官になる。 そう聞いていたはずなのに。 あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。 しかし、皇帝のお迎えもなく 「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」 そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。 秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。 朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。 そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。 皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。 縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。 誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。 更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。 多分…

妹と婚約者を交換したので、私は屋敷を出ていきます。後のこと? 知りません!

夢草 蝶
恋愛
 伯爵令嬢・ジゼルは婚約者であるロウと共に伯爵家を守っていく筈だった。  しかし、周囲から溺愛されている妹・リーファの一言で婚約者を交換することに。  翌日、ジゼルは新たな婚約者・オウルの屋敷へ引っ越すことに。

幼馴染みを優先する婚約者にはうんざりだ

クレハ
恋愛
ユウナには婚約者であるジュードがいるが、ジュードはいつも幼馴染みであるアリアを優先している。 体の弱いアリアが体調を崩したからという理由でデートをすっぽかされたことは数えきれない。それに不満を漏らそうものなら逆に怒られるという理不尽さ。 家が決めたこの婚約だったが、結婚してもこんな日常が繰り返されてしまうのかと不安を感じてきた頃、隣国に留学していた兄が帰ってきた。 それによりユウナの運命は変わっていく。

処理中です...