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第35話
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私の言葉に、会場内にいる貴族の視線が自分に集まってくるのが分かる。
その目に宿るのは、隠しきれない疑惑。
今まで、この場所に居る貴族達はマーリスを疑ってはいなかっただろう。
そうなるように私は、マーリスに猫を被るよう教育してきたし、その甲斐あってアーステルト家の貴族付き合いはかなり良好だ。
だから本来であれば、この場にいる貴族達が私の言葉に動揺を見せることなんて無かっただろう。
そう、先ほどの貴族達の態度さえ無ければ。
「マーリス様が告げた私の不貞の冤罪を晴らすために」
そう私が言葉を発した瞬間、貴族達に走ったどよめきに、そのことを改めて認識する。
それを理解して、私は笑って口を開いた。
「今回の婚約破棄ですが、二つ訂正させていただきます。私は決して不貞を働いていないこと。──そして、婚約破棄をしたのは私の方からであることを」
だが次の瞬間、そう告げた私に向けられる視線は、信じられないとでも言いたげなものに変化した。
それは、私がマーリスを婚約破棄したと告げたからのもの。
この国では、決して女性の地位は高くない。
つまり、余程女性の地位が男性よりも高い場合を除き、女性からの婚約破棄は非常識なものとして捉えられているのだ。
だからこそ、貴族達は私に呆れたような目を向ける。
決してマーリスに対する疑惑が無くなったわけでもない。
しかし、その元婚約者であった私も決して優れた人間ではないと判断して。
「マーリス様は、そんな私に対する嫉妬から、こうした冤罪を広めようとしたのしょう。つまり、冤罪の話は私とマーリス様のつまらない諍いです」
けれど、その貴族の考えを理解してもなお、私はまるで動じる様子もなく言葉を続けた。
自分に対する貴族達の目が、決して好意的なものではないことに気付きながら。
──何故なら、それが私の望むべき反応だったのだから。
「ですが、その諍いが原因で皆様に迷惑をかけてしまったのも事実。なので今日私は、皆様に謝罪をするべくこの場所に足を運ばせていただきました」
その言葉とともに、私は優雅に一礼をする。
こちらに良い感情を抱いていないはずの貴族さえ、たじろぐようなそんな一礼を。
それが合図だった。
「なっ!なんだ貴様らは!」
「っ!」
次の瞬間、会場内に私が手配していたもの達が、荷物を抱えて入ってくる。
それに、貴族達は顔に隠しきれない驚愕を浮かべて当てふためく。
「ちょっと待て!……これは!」
だが、その驚愕は直ぐに収まることになった。
私の手配したものの、中身にようやく気付いたらしい。
貴族達は、今まで私の手配したものに警戒心を露わにしていたことを忘れたように、荷物に殺到する。
「……何で、こんなものが」
そして、その中に入っていた最新式の魔道具を目にし、呆然と立ち尽くすことになった。
その魔道具は、今この王国内で最先端と言われる、とある商業組織が作り上げたもの。
それをこれだけ揃えようとすれば、どれだけの金額がかかるか貴族達に分からないはずがない。
少なくとも、伯爵令嬢ごときに揃えられるものでないのは明らかで、貴族達は疑問を隠せずに荷物の中身と私を交互に確認する。
「では、改めて自己紹介させて頂きます」
その姿を見た私は、これで証拠は充分だと判断して、自身の身を隠してきたローブを脱ぎ放った。
その下から露わとなったのは、花嫁であるマルシェさえ霞む豪華絢爛なドレス。
そのドレスを身につけた私に、貴族達はその顔を唖然とさせ、言葉を失う。
それを確認して、私は再度一礼をした。
「私はマーセルラフト伯爵家令嬢サラリアであり、今先程持ち込ませて頂いた魔道具を発明した組織、《仮面の淑女》の代表を務めさせて頂いております。──以後、お見知り置きを」
そして私は、自分の最大かつ最強の切り札を明かした。
◇◇◇
更新遅れてしまい申し訳ありません。
見せ場になる程難しい……
その目に宿るのは、隠しきれない疑惑。
今まで、この場所に居る貴族達はマーリスを疑ってはいなかっただろう。
そうなるように私は、マーリスに猫を被るよう教育してきたし、その甲斐あってアーステルト家の貴族付き合いはかなり良好だ。
だから本来であれば、この場にいる貴族達が私の言葉に動揺を見せることなんて無かっただろう。
そう、先ほどの貴族達の態度さえ無ければ。
「マーリス様が告げた私の不貞の冤罪を晴らすために」
そう私が言葉を発した瞬間、貴族達に走ったどよめきに、そのことを改めて認識する。
それを理解して、私は笑って口を開いた。
「今回の婚約破棄ですが、二つ訂正させていただきます。私は決して不貞を働いていないこと。──そして、婚約破棄をしたのは私の方からであることを」
だが次の瞬間、そう告げた私に向けられる視線は、信じられないとでも言いたげなものに変化した。
それは、私がマーリスを婚約破棄したと告げたからのもの。
この国では、決して女性の地位は高くない。
つまり、余程女性の地位が男性よりも高い場合を除き、女性からの婚約破棄は非常識なものとして捉えられているのだ。
だからこそ、貴族達は私に呆れたような目を向ける。
決してマーリスに対する疑惑が無くなったわけでもない。
しかし、その元婚約者であった私も決して優れた人間ではないと判断して。
「マーリス様は、そんな私に対する嫉妬から、こうした冤罪を広めようとしたのしょう。つまり、冤罪の話は私とマーリス様のつまらない諍いです」
けれど、その貴族の考えを理解してもなお、私はまるで動じる様子もなく言葉を続けた。
自分に対する貴族達の目が、決して好意的なものではないことに気付きながら。
──何故なら、それが私の望むべき反応だったのだから。
「ですが、その諍いが原因で皆様に迷惑をかけてしまったのも事実。なので今日私は、皆様に謝罪をするべくこの場所に足を運ばせていただきました」
その言葉とともに、私は優雅に一礼をする。
こちらに良い感情を抱いていないはずの貴族さえ、たじろぐようなそんな一礼を。
それが合図だった。
「なっ!なんだ貴様らは!」
「っ!」
次の瞬間、会場内に私が手配していたもの達が、荷物を抱えて入ってくる。
それに、貴族達は顔に隠しきれない驚愕を浮かべて当てふためく。
「ちょっと待て!……これは!」
だが、その驚愕は直ぐに収まることになった。
私の手配したものの、中身にようやく気付いたらしい。
貴族達は、今まで私の手配したものに警戒心を露わにしていたことを忘れたように、荷物に殺到する。
「……何で、こんなものが」
そして、その中に入っていた最新式の魔道具を目にし、呆然と立ち尽くすことになった。
その魔道具は、今この王国内で最先端と言われる、とある商業組織が作り上げたもの。
それをこれだけ揃えようとすれば、どれだけの金額がかかるか貴族達に分からないはずがない。
少なくとも、伯爵令嬢ごときに揃えられるものでないのは明らかで、貴族達は疑問を隠せずに荷物の中身と私を交互に確認する。
「では、改めて自己紹介させて頂きます」
その姿を見た私は、これで証拠は充分だと判断して、自身の身を隠してきたローブを脱ぎ放った。
その下から露わとなったのは、花嫁であるマルシェさえ霞む豪華絢爛なドレス。
そのドレスを身につけた私に、貴族達はその顔を唖然とさせ、言葉を失う。
それを確認して、私は再度一礼をした。
「私はマーセルラフト伯爵家令嬢サラリアであり、今先程持ち込ませて頂いた魔道具を発明した組織、《仮面の淑女》の代表を務めさせて頂いております。──以後、お見知り置きを」
そして私は、自分の最大かつ最強の切り札を明かした。
◇◇◇
更新遅れてしまい申し訳ありません。
見せ場になる程難しい……
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