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第十五話
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それから私が屋敷に戻ったのは、数時間後のことだった。
「奥様、お帰りなさいませ!」
屋敷の玄関をくぐった瞬間、私を使用人の挨拶が出迎える。
それに私は 思わず笑ってしまいそうになる。
本当にわかりやすい人間達だと。
この使用人は前まで私を嘲る人間達だった。
つまるところ、カルバスの手先でしかなかったのだ。
それなのに私が去るかもしれないとなった瞬間、この態度だ。
内心それに嫌悪感を感じながらも、私はにっこりと笑って告げる。
「ただいま。今から仕事に取りかかるわ、当主の仕事も全て私の私室に運んできなさい」
そう私が告げた瞬間、あからさまな安堵が使用人達の顔に浮かぶ。
私が本当に残ってくれる、そう安堵したように。
……私の内心も知らずに。
内心冷笑しながら、私はあたりを見回す。
もっとも注意しなければならない人間の姿がないことに気づいたのはその時だった。
「カルバスはどうしたの?」
その私の言葉を聞いた瞬間、あからさまに使用人達の顔に警戒心が浮かぶ。
まるで聞かれたくないところを付かれたとばかりに。
「執事は今、旦那様の代わりに様々な雑務を行うため、屋敷の外に出ております……」
前もって用意していたような、わずかに焦りを含んだ声。
それに、今度こそ私は鼻で笑ってしまいそうになる。
あまりにも、爪が甘すぎると。
使用人の態度と言葉だけで、私には容易に想像できた。
カルバスは私の実家に行っているのだろうと。
そしてそれは、最悪の選択ミスだった。
「……あらそう。この忙しい時に!」
表面上は苛立ちを露わにしながら、私は内心で笑う。
どうやら、またカルバスの悪い癖が出たようだと。
カルバスというあの執事は決して無能ではない。
それどころが、小狡い頭が回る方の人間であるのは確かだろう。
しかし、そんなカルバスには決定的な欠点がある。
すなわち、傲慢であるという。
カルバスは猜疑心の強い男だ。
しかし、一端結論を出すとそれを疑うことはない。
私を制限できていると思いこみ、最後にひっくり返されたこと。
自分一人でやれると思いこみ、いうことを聞くだけの人間を自分の手先にすること。
そして、私がソルタスの記憶喪失を信じた、もしくはソルタスのことを捨てられないと思いこみ、注意は必要ないと思いこんだこと。
それはあまりにも致命的なミスだった。
ほんとに頭が回る男を知る私からすれば、カルバスは本当に詰めが甘い。
癖のある商人を、頭に思い描きながら私は笑う。
ならば私は、それを全て利用させていただかなくては。
「私は国王陛下、公爵当主に手紙を出すわ。急いで便箋を用意して」
「はい!」
私の言葉に完全に安堵した様子の使用人達を見ながら、私は思う。
──国王陛下や、公爵家当主にも、子爵家をつぶすことくらいは行っておかないと、と。
◇◇◇
間が空いてしまいすいません!
細々と続けさせて頂きます。
「奥様、お帰りなさいませ!」
屋敷の玄関をくぐった瞬間、私を使用人の挨拶が出迎える。
それに私は 思わず笑ってしまいそうになる。
本当にわかりやすい人間達だと。
この使用人は前まで私を嘲る人間達だった。
つまるところ、カルバスの手先でしかなかったのだ。
それなのに私が去るかもしれないとなった瞬間、この態度だ。
内心それに嫌悪感を感じながらも、私はにっこりと笑って告げる。
「ただいま。今から仕事に取りかかるわ、当主の仕事も全て私の私室に運んできなさい」
そう私が告げた瞬間、あからさまな安堵が使用人達の顔に浮かぶ。
私が本当に残ってくれる、そう安堵したように。
……私の内心も知らずに。
内心冷笑しながら、私はあたりを見回す。
もっとも注意しなければならない人間の姿がないことに気づいたのはその時だった。
「カルバスはどうしたの?」
その私の言葉を聞いた瞬間、あからさまに使用人達の顔に警戒心が浮かぶ。
まるで聞かれたくないところを付かれたとばかりに。
「執事は今、旦那様の代わりに様々な雑務を行うため、屋敷の外に出ております……」
前もって用意していたような、わずかに焦りを含んだ声。
それに、今度こそ私は鼻で笑ってしまいそうになる。
あまりにも、爪が甘すぎると。
使用人の態度と言葉だけで、私には容易に想像できた。
カルバスは私の実家に行っているのだろうと。
そしてそれは、最悪の選択ミスだった。
「……あらそう。この忙しい時に!」
表面上は苛立ちを露わにしながら、私は内心で笑う。
どうやら、またカルバスの悪い癖が出たようだと。
カルバスというあの執事は決して無能ではない。
それどころが、小狡い頭が回る方の人間であるのは確かだろう。
しかし、そんなカルバスには決定的な欠点がある。
すなわち、傲慢であるという。
カルバスは猜疑心の強い男だ。
しかし、一端結論を出すとそれを疑うことはない。
私を制限できていると思いこみ、最後にひっくり返されたこと。
自分一人でやれると思いこみ、いうことを聞くだけの人間を自分の手先にすること。
そして、私がソルタスの記憶喪失を信じた、もしくはソルタスのことを捨てられないと思いこみ、注意は必要ないと思いこんだこと。
それはあまりにも致命的なミスだった。
ほんとに頭が回る男を知る私からすれば、カルバスは本当に詰めが甘い。
癖のある商人を、頭に思い描きながら私は笑う。
ならば私は、それを全て利用させていただかなくては。
「私は国王陛下、公爵当主に手紙を出すわ。急いで便箋を用意して」
「はい!」
私の言葉に完全に安堵した様子の使用人達を見ながら、私は思う。
──国王陛下や、公爵家当主にも、子爵家をつぶすことくらいは行っておかないと、と。
◇◇◇
間が空いてしまいすいません!
細々と続けさせて頂きます。
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