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第六話

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 背後で扉が閉まる音がする。
 もう、誰にも見られることはない。

 ……私の頬に一筋の涙が伝ったのは、その時だった。

「こうしなければならなかったのよ」

 そういいながら、私は強引に涙を拭う。
 けれど、それに意味はなかった。
 涙は次々と溢れ出すのだから。
 涙を隠しながら、私は自室へと足早に向かう。

 勢いよく扉を開けると、露わになったのはきれいに掃除された部屋だった。
 それは数日前までに自分の手によって荷造りを終えた部屋。
 にもかかわらず、その部屋を目にしたことで私の中、さらに感情が荒ぶるのが分かる。
 ……自分が決断したのにも関わらず、私はまだ後ろ髪を引かれる自分に気づいていた。

 確かにソルタスは変わってしまった。
 私への扱いがひどくなった、それだけの話ではない。
 今までの使用人を次々と解雇し、カルバスに言われるがまま信用できない使用人達を家にいれ始めた。
 お義母様が子爵家にいる頃を知る人間は、誰もが驚愕を隠せない程にこの屋敷は変貌していた。

 それでも、私は決してソルタスが嫌いではなかったのだ。
 お義母様と、ソルタスだけが私のやったことを認めてくれた人だった。

 ──凄いね、カーナリアは。

 優しい笑顔で、そう言ってくれるソルタスの言葉を私は今でも覚えている。

「……この人なら、私のやることを一緒に見てくれると思っていたのに」

 これが恋愛感情か、そういわれたら私には分からないだろう。
 けれども私は、かつてのソルタスを愛していた。

 だから、私はここから出て行かなくてはならないのだ。
 そのソルタスを戻すために。
 あのカルバスという男を、この子爵家から追い出すその為に。

 にやにやと笑うカルバスの笑いが私の頭に浮かぶ。
 私がここまで準備を整えなくては対処できなかった程に、あの男は頭が切れる人間だ。
 そして、そんな男がこの子爵家に価値を感じる理由は何なのか、私は理解していた。

 すなわち、私とという存在があの男にとっては何よりもおいしい餌に見えたのだろうと。

 だから、私はこの屋敷を後にしなくてはならない。
 私という餌がなくなりさえすれば、あの男の魔の手がソルタスに及ぶことはなくなるのだから。

「そう、私さえいなければ」

 そうつぶやき、私はぽつんとおかれたベッドの上、シーツに横たわる。

「そうすれば、すべてが元通りになるのだから」

 ただ、嫌な胸のざわめきはいつまでも消えることはなかった。
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