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第四話
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「っ! 貸せ!」
その時、もうカルバスの顔に余裕はなかった。
敬語さえ忘れ、ソルタスから書類を奪い取る。
……そしてすぐに、ソルタスと同じく蒼白の表情になった。
次の瞬間私の方へと顔を上げたカルバスの顔に浮かんでいたのは、信じられないと言った表情だった。
それに私は満面の笑みを浮かべ告げる。
「知らなかった? 社交界で一目おかれる私には、この程度の簡単にできるのよ」
「……っ」
瞬間、カルバスの顔が怒りで赤くなる。
ああ、いい気味だ。
そう思いながらも、私はまだカルバスが諦めた訳ではないことをしっていた。
私の想像通り、怒りで顔を赤くしたまま、それでも果敢にカルバスは口を開く。
「この程度で納得ができるとでも! 納得しない人間はまだいますよ!」
「あら、誰のことを言ってるの?」
「強がりはやめておいた方がいいですよ、奥様」
そこで、少し笑みを浮かべ、カルバスは続ける。
「いくら国王陛下が許そうが、あの方達はどうですかな? ……奥様の実家たる伯爵家は子爵家とつながりが切れるのをよしとしますか?」
「そ、そうだ! あの強欲な人間達が、我が子爵家とのつながりがなくなるのを許すわけがない!」
今まで呆然としていたソルタスが復活したのはその時だった。
その瞬間、二人は確かに勝利の確信を得ていた。
そして実際、その言葉は見当違いなものではなかった。
何せ、私には断言できる。
あの家の人間達は、私が金蔓たる子爵家から離れるのを許しはしないだろうと。
そう、それが持参金で私を娘と認め子爵家に嫁がせた実家の人間だった。
あの人達は自分達が金を得るためには何でもするだろう。
何せ、ちょうど私の弟が成人する時なのだ。
見栄を張りたいあの人達にはとっては、何より金が必要なのだ。
「あら、もう私と伯爵家は関係ないわよ」
「……なにを言っているのです? そう簡単に親子のつながりが」
「だって私、勘当されたもの」
──だからこそ、私が対処していない訳がなかった。
にっこりと笑いながら、私はある書類を取り出す。
次の瞬間、私が見せた勘当の証明たる書類に、今度こそ二人は完全に言葉を失った。
なにが起きたかわからない、そう言いたげな様子で。
呆然と、カルバスが口を動かす。
「な、ぜ? こうならないよう、伯爵家とは念をいれて警告していたのに?」
「そう。カルバス、ありがとうね」
呆然とするカルバスににっこりと笑いながら、私は笑う。
ひらひらと、勘当を証明する書類を揺らしながら。
「これ、どこかの間抜けが警告してくれたおかげで手に入ったの」
「まぬ、け?」
「ええ。誰かが、実家の伯爵家に私が働かないと文句を言ってくれたらしいの」
呆然とするカルバス。
その顔には相変わらず疑問が浮かんでいる。
私が何を言おうとしているのか理解できずに。
そんなカルバスに、私は満面の笑みで告げる。
「──そしたらこれは警告だって、ご丁寧に刻印までされた勘当手続きの書類が送られてきたのよ」
「……なっ」
カルバスから完全に余裕が消えたのはその時だった。
その様子に私は、カルバスも理解したことを私は確信する。
そう、カルバスの作戦を利用し、私は実家から離れることができたことを。
カルバスからすれば、ただ私に圧をかけるために伯爵家に手紙を出しただけだったのだろう。
生意気なこの女に、痛い目を見せてやろうと。
……それこそ私の待っていた隙だったとは知らずに。
その時、もうカルバスの顔に余裕はなかった。
敬語さえ忘れ、ソルタスから書類を奪い取る。
……そしてすぐに、ソルタスと同じく蒼白の表情になった。
次の瞬間私の方へと顔を上げたカルバスの顔に浮かんでいたのは、信じられないと言った表情だった。
それに私は満面の笑みを浮かべ告げる。
「知らなかった? 社交界で一目おかれる私には、この程度の簡単にできるのよ」
「……っ」
瞬間、カルバスの顔が怒りで赤くなる。
ああ、いい気味だ。
そう思いながらも、私はまだカルバスが諦めた訳ではないことをしっていた。
私の想像通り、怒りで顔を赤くしたまま、それでも果敢にカルバスは口を開く。
「この程度で納得ができるとでも! 納得しない人間はまだいますよ!」
「あら、誰のことを言ってるの?」
「強がりはやめておいた方がいいですよ、奥様」
そこで、少し笑みを浮かべ、カルバスは続ける。
「いくら国王陛下が許そうが、あの方達はどうですかな? ……奥様の実家たる伯爵家は子爵家とつながりが切れるのをよしとしますか?」
「そ、そうだ! あの強欲な人間達が、我が子爵家とのつながりがなくなるのを許すわけがない!」
今まで呆然としていたソルタスが復活したのはその時だった。
その瞬間、二人は確かに勝利の確信を得ていた。
そして実際、その言葉は見当違いなものではなかった。
何せ、私には断言できる。
あの家の人間達は、私が金蔓たる子爵家から離れるのを許しはしないだろうと。
そう、それが持参金で私を娘と認め子爵家に嫁がせた実家の人間だった。
あの人達は自分達が金を得るためには何でもするだろう。
何せ、ちょうど私の弟が成人する時なのだ。
見栄を張りたいあの人達にはとっては、何より金が必要なのだ。
「あら、もう私と伯爵家は関係ないわよ」
「……なにを言っているのです? そう簡単に親子のつながりが」
「だって私、勘当されたもの」
──だからこそ、私が対処していない訳がなかった。
にっこりと笑いながら、私はある書類を取り出す。
次の瞬間、私が見せた勘当の証明たる書類に、今度こそ二人は完全に言葉を失った。
なにが起きたかわからない、そう言いたげな様子で。
呆然と、カルバスが口を動かす。
「な、ぜ? こうならないよう、伯爵家とは念をいれて警告していたのに?」
「そう。カルバス、ありがとうね」
呆然とするカルバスににっこりと笑いながら、私は笑う。
ひらひらと、勘当を証明する書類を揺らしながら。
「これ、どこかの間抜けが警告してくれたおかげで手に入ったの」
「まぬ、け?」
「ええ。誰かが、実家の伯爵家に私が働かないと文句を言ってくれたらしいの」
呆然とするカルバス。
その顔には相変わらず疑問が浮かんでいる。
私が何を言おうとしているのか理解できずに。
そんなカルバスに、私は満面の笑みで告げる。
「──そしたらこれは警告だって、ご丁寧に刻印までされた勘当手続きの書類が送られてきたのよ」
「……なっ」
カルバスから完全に余裕が消えたのはその時だった。
その様子に私は、カルバスも理解したことを私は確信する。
そう、カルバスの作戦を利用し、私は実家から離れることができたことを。
カルバスからすれば、ただ私に圧をかけるために伯爵家に手紙を出しただけだったのだろう。
生意気なこの女に、痛い目を見せてやろうと。
……それこそ私の待っていた隙だったとは知らずに。
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