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 「さ、流石に急すぎでしょう!」

 義兄の言葉に、私は思わずそう声を上げていた。
 別に婚約が嫌だと言うつもりではない。
 だがそれでも、義兄の言葉はあまりにも急だった。
 普通正式に婚約を結ぶには、いくら急いでも一月はかかる。
 なのにそれを三日後というのは、明らかにおかしい。

 「相手が誰なのかすら、私は知らないのですよ!」

 それにそもそも私は、その婚姻の詳細さえ知らされていなかった。
 そう相手が誰か、どんな身分なのか、そしてどうしてマストーリ家の人間と婚姻を結ぼうとしているのか。
 その全てが、私にとって婚姻するに関して必須の情報で、だからこそまるでない現状に私は不満を露わにする。

 「今回に関しては、全て必要ない」

 「っ!」

 ……だが、その私の質問に対する義兄の言葉は、それだけだった。
 その義兄の返答に、何故何も言ってくれないのかと、私は唇を噛みしめる。
 相手が高齢で好色な貴族だとしても、私は婚姻を躊躇するつもりはない。
 それは、今までの行動で示してきたつもりだった。
 なのに、何故。

 「申し訳ありません。失礼します」

 「なっ!」

 しかし、その想いを私が義兄に告げることはできなかった。
 その前に、メイド達が私の身体を取り押さえ、部屋へと引きずって行ったのだ。
 その強引な態度に私は思わず抵抗しようとするが、大暴れすればメイドに傷をつけかねないことに気づき、動きを止める。

 ……そして私は、非常に不本意な状態で朝食の場を去ることとなった。



 ◇◆◇



 それから三日の間、私は大急ぎで婚姻の準備をさせられることとなった。
 正直、そのことに思うことが無いわけではなかったが、私が抵抗することはなかった。
 たしかに義兄の態度は不審極まりなかったが、あの義兄が最悪な事態を招くことが無いと、私は考えたのだ。

 何故、義兄が私に婚姻のことを隠していたのかはまるで分からない。
 だが、前にも行った通り、今の私はどんな人間が婚姻の相手になろうが、抵抗するつもりはなかった。
 それが、私の贖罪だと思うからこそ。

 そうして私が覚悟を決め、使用人達に着せ替え人形にされること三日。
 婚姻の日が訪れた。
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