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 「……よろしい、のですか?」

 そう、マーレイアが私に聞いてきたのは、晩餐を終え、自室に戻った時だった。
 それは、通常ならば意味の通らないような、酷く曖昧な言葉。
 だが、マーレイアの方へと振り向いた私は、一体マーレイアが何を告げたいのか、一目で理解する。
そう、マーレイアは先程決まった婚約のことについて、私に尋ねているのだと。

 ……どうやら、長い付き合いだけあり、マーレイアには私の内心がお見通しらしい。

 マーレイアの様子に私は、自分が義兄に婚約について告げられ、動揺したことに彼女が気づいていることを悟る。
 別に話したわけではないのだが、マーレイアは私が義兄に恋心を抱いているのにも気づいていたようだ。

 そのことを理解し、自分はどれだけ分かりやすいのだと、私は自嘲する。
 一番長い付き合いであるマーレイアにまで心配をかけてしまうとは、本当に情けない。

 「あら、なんのことかしら?」

 そう考えながらも、私は敢えてマーレイアの言葉にしらを切ってみせた。
 マーレイアが何を言いたいかも分かっているし、それを有難いとも思う。
 だがもうマーレイアには充分助けられていて、こんな些事で彼女に頼るつもりはなかった。

 「ですがお嬢様はお疲れの様子です。今は婚約破棄が終わった直後ですし、婚約の時期を伸ばすようにと、アルフォス様にお伝えした方が……」

 けれども、その私の返答にマーレイアが納得することはなかった。
 顔に、私に対する心配を浮かべながら、そう彼女は言葉を続ける。
 そのマーレイアの気遣いは、私にとってとても嬉しいものだった。
 どれだけ覚悟を決めようと、私は気づけば彼女の好意に甘えそうになっている。

 「いいえ。婚約の時期を伸ばす必要なんて無いわ」

 「っ!」

 しかし、今の私はその彼女の好意に甘えるわけにはいかなかった。
 何故なら、私が人の好意に甘えた結果、一度マストーリ家は潰れる寸前まで追い込まれたのだから。
 だから、もう私は二度と同じ間違いはしない。

 …… その決意を胸に、私は全ての感情を笑顔の下に覆い隠した。
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