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私の頭に、バーベスト家に嫁ぐ前にあった喧嘩が思い出される。
何時もは私に優しい義兄が、初めて怒鳴ったのがあの日だった。
その理由は私にまだよく分かっていない。
だが、あの時の義兄の激しい動揺は、未だ頭に残っている。
「……新しい婚姻、ですか?」
だからこそ、私は義兄の言葉の意味が分からず、そう聞き返していた。
まさか義兄の方から、そう話が切り出されるとは思ってもいなかったのだ。
「ああ。これはマストーリ家に必要不可欠な婚姻だ。悪いが断らないでくれると嬉しい」
しかし、聞き返しても義兄の言葉が変わることはなかった。
義兄は、どこか緊張したような、それでも決意を固めたような顔でそう告げる。
「っ!」
その表情に、婚姻が本当だと理解した私の胸に小さな痛みが走った。
その痛みに、自分の未練に気づいた私は、思わず笑ってしまいそうになる。
もう自分は、そんな未練をきっぱりと切り捨てたつもりでいた。
何せ、もう本来なら私はもう嫁ぎ、妻となっているはずだったのだから。
それも、自分から申し出た縁談で、だ。
……なのに未だ私は、義兄の口からが自身の婚姻を求める言葉を口にしただけで、動揺を隠せない。
それは、未だ自分が未練を、初恋を忘れられていない何よりの証拠だった。
届くはずがないと分かりながら、それでも切り捨てられていない。
そんな自分のどうしようもない未練がましさを、私は心の中で嘲る。
覚悟していたはずなのに、と。
そう、バーベスト家の婚約が無くなったとしても、機会があれば私はまた政略結婚を行うつもりだった。
もちろん、どれだけ義兄に反対されようが。
それが、マストーリ家のために身を捧げると誓った、私の覚悟だった。
……いや、覚悟なんていいものではなく、贖罪と言うべきか。
そう私は、この身が果てるまでマストーリ家に尽くすと誓った。
だとすれば、兄がマストーリ家に必要不可欠と告げた婚姻を断る理由など私にはない。
何せ、それが私の決めたことなのだから。
私はいつも通りの道を歩く。
そこにはなんの問題もありはしない。
「分かりましたわ」
そう覚悟決め、私は義兄へと微笑みかける。
そして、未だ未練を覚える心を押し込め、口を開いた。
「その婚姻、受けさせていただきます」
そしてその日、婚約破棄から二日後しか経っていないにも関わらず、私の婚約が改めて決まることとなった……
何時もは私に優しい義兄が、初めて怒鳴ったのがあの日だった。
その理由は私にまだよく分かっていない。
だが、あの時の義兄の激しい動揺は、未だ頭に残っている。
「……新しい婚姻、ですか?」
だからこそ、私は義兄の言葉の意味が分からず、そう聞き返していた。
まさか義兄の方から、そう話が切り出されるとは思ってもいなかったのだ。
「ああ。これはマストーリ家に必要不可欠な婚姻だ。悪いが断らないでくれると嬉しい」
しかし、聞き返しても義兄の言葉が変わることはなかった。
義兄は、どこか緊張したような、それでも決意を固めたような顔でそう告げる。
「っ!」
その表情に、婚姻が本当だと理解した私の胸に小さな痛みが走った。
その痛みに、自分の未練に気づいた私は、思わず笑ってしまいそうになる。
もう自分は、そんな未練をきっぱりと切り捨てたつもりでいた。
何せ、もう本来なら私はもう嫁ぎ、妻となっているはずだったのだから。
それも、自分から申し出た縁談で、だ。
……なのに未だ私は、義兄の口からが自身の婚姻を求める言葉を口にしただけで、動揺を隠せない。
それは、未だ自分が未練を、初恋を忘れられていない何よりの証拠だった。
届くはずがないと分かりながら、それでも切り捨てられていない。
そんな自分のどうしようもない未練がましさを、私は心の中で嘲る。
覚悟していたはずなのに、と。
そう、バーベスト家の婚約が無くなったとしても、機会があれば私はまた政略結婚を行うつもりだった。
もちろん、どれだけ義兄に反対されようが。
それが、マストーリ家のために身を捧げると誓った、私の覚悟だった。
……いや、覚悟なんていいものではなく、贖罪と言うべきか。
そう私は、この身が果てるまでマストーリ家に尽くすと誓った。
だとすれば、兄がマストーリ家に必要不可欠と告げた婚姻を断る理由など私にはない。
何せ、それが私の決めたことなのだから。
私はいつも通りの道を歩く。
そこにはなんの問題もありはしない。
「分かりましたわ」
そう覚悟決め、私は義兄へと微笑みかける。
そして、未だ未練を覚える心を押し込め、口を開いた。
「その婚姻、受けさせていただきます」
そしてその日、婚約破棄から二日後しか経っていないにも関わらず、私の婚約が改めて決まることとなった……
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