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 その後男爵令嬢は、無事契約書にサインをした。
 その際、魔法の契約書の内容を破った時のペナルティを聞いて迷っていた。
 だが少し煽てれば、直ぐにペナルティの危険を忘れて、あっさりとサインした。


 ……その契約書が、自身を破滅に導くと気づくことはなく。



 ◇◆◇



 「……本当に、あの男爵令嬢は救いようがありませんでしたね」

 男爵令嬢が嬉々とした様子で去った後、部屋の中マーレイアはそうあきれた様子で呟いた。
 そのマーレイアの様子は、彼女が男爵令嬢の失態に気づいていることを表していた。
 まあ、あんな契約書にサインする人間が余程の馬鹿なだけなのだろうが。

 「あら、彼女は本当にマークが好きだっただけかもしれないわよ。それなら彼女の未来は幸福かもしれないわよ」

 そう考えながらも、私はそんな言葉を口にする。
 まるでそんな可能性があるとは、思っていなかったが。

 「ご冗談を。彼女はバーベスト家の盆暗息子の見た目と財産に目が眩んだだけの俗物。盆暗息子と共に破滅する未来は不幸以外の何者でもないでしょう」

 どうやらマーレイアは私と同じ考えであることを、その言葉から私は理解する。

 私が男爵令嬢に誓わせたマークと生涯を共にするという条件、それは最悪の条件だった。
 何せ、今回の件でバーベスト家が一気に困窮するのは最早目に見えている。
 そうなれば、バーベスト家の権威は大きく落ち、男爵令嬢は贅沢どころか、かなり厳しい生活を強いられることになるだろう。

 それだけなら、まだましだ。
 今回の件でサラベルトは、私の機嫌伺いのためにマークを自家から追放する可能性がある。
 そうなれば、男爵令嬢は晴れて平民墜ちだ。

 その生活を、あのプライドだけは高そうな男爵令嬢が受け入れられるとは全く思えない。
 だがそれに耐えかね、契約書の内容を違えば、男爵令嬢にペナルティが発生し、彼女の身体に刺青が走る。
 それは貴族の中で最も忌み嫌われることで、そうなれば彼女の実家ももう男爵令嬢を守ろうとはしなくなるだろう。

 つまりどちらにせよ、男爵令嬢に待ち受けているのは平民墜ちする未来だけ。

 「彼女のことは良いわ。私達は早く荷物を纏め直しましょう」

 そう判断した私は、もう会うことはないと男爵令嬢の存在を頭から切り離すことにした。

 「は、はい!」

 その私の指示に反応し、マーレイアは荷物を整理し始める。


 ……その後私たちは、荷物の取り合いを続け、朝を迎えることとなった。
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