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 男爵令嬢が自室にやってくる、その突然の出来事に、一瞬私とマーレイアは驚きを隠せず固まる。
 侯爵令嬢の部屋に、ノック無しで入るなど明らかなターブーで、そんなことが起きると私は思っていなかったのだ。

 「……え?」

 驚いたのは私だけではなかった。
 扉を開けた男爵令嬢も、荷物を直前まで奪い合っていた私とマーレイアの姿に、動揺を漏らす。
 だが、男爵令嬢が動揺していたのは一瞬のことだった。

 「あははっ!そうよ!やっぱり私は恵まれているわ!侍女を虐めているなんて、明らかに悪役令嬢じゃない!」

 次の瞬間、唐突に男爵令嬢は笑い始めた。
 それも酷く嬉しそうに、声を上げて。

 「……これは関わらない方が良いわね」

 「はい。絶対にそうです」

 ……そして、その姿を見た瞬間、私は男爵令嬢と関わらないようにすることを決心した。

 どうやら男爵令嬢は、私がマーレイアを虐めているという勘違いをしているらしい。
 しかし、その誤解を解こうとすら、私は思わなかった。
ただ胸に抱くのは、目の前で高笑いをあげる少女に対する危機感。

 こういう令嬢は、たしかに騙しやすいいいカモではあるが、身近にいる場合は災厄と変化する。
 人の話を聞かず、自分の思い通りにことが進んでいると気に入らず、プライドだけは無駄に高い。
 出来る限り関わらない方が良い人種なのだ。

 「さあ、ネストリア。あんたの計画は絶対に阻止してみせるわ!」

 ……だが、そう判断して動く前に、男爵令嬢は私の自室の中へと無遠慮に入り込んでいた。

 その態度に、思わず私の顔が引き攣る。
 この男爵令嬢は相当自分勝手らしい。

 「私はあんたの思い通りにはさせないから!」

 だが、そんな私の様子に一切気づくことなく、男爵令嬢は言葉を重ねる。

 「さあ早く、マーク様の側から離れて侯爵家の領地に戻りなさい!」

 「言われなくても戻りますわ」

 「そう、あくまで抵抗………え?」

 ……だが次の瞬間、私の返答に男爵令嬢の言葉は途切れることとなった。
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