悪役令嬢は大精霊と契約を結ぶ

悪役令嬢は精霊と出会う

幕間 11 計画

 豚の妾となってから数ヶ月間、私はそれとなくアリスのことを豚の耳元で囁き付けた。
 それはアリスに犯した罪について。

 王子を惑わし破滅させて、そして自分達を平民に落としたと。
 
 それらの行動はは全て彼女の捩くれた精神が理由で、私達は被害者なのだと涙ながらに豚肉訴えた。

 「貴方様が居なければ私は……」

 「そうか。そうか……そのアリスというやつはそんな非道な人間だったのか！」

 そしてその私の言葉に面白いほど豚は簡単に騙された。
 縋り付く私の態度が演技だと気づくことなく、その顔を喜色に歪ませる。
 
 豚は決して善人ではない。
 というか本当に豚だ。
 平民の娘を、たとえ所帯持ちであったとしても自分が気に入れば強制的に己の妾とする。
 頭が下半身にあるのではないか、そう思いたくなるようなそんな人間だ。
 だがそんなことを現在豚は全く考えていない。
 ただ泣き真似をする私に正義が自分にあるという優越感に浸っているだけだ。
 
 それは酷く嫌悪感を感じる思考だった。

 全て自分の行いを勝手に歪め、まるで自身が正義の味方であるかのように思い込む。
 それは偽善、そんな言葉にも及ばないおままごと。
 
 ー だが、その豚の優越感こそがアリスを破滅させる。

 そう、私は笑みを顔に浮かべる。
 おそらく今の笑みは酷くどす黒いものになっているだろう。
 だが、今私は顔を背けていて豚にその表情を見られることはない。
 
 今のアリス彼女は確かにある程度地位を改善しているだろう。
 王子を告発したという功績を認められたのか、それとも別の功績が認められたのかわからない。
 だが、下女をやめて宿屋で働いているということが少なくともアリスは冤罪の罪を許されているという私の考えを証明していた。
 それは本当に例外的なことだろう。
 それだけこの貴族社会は外聞を過剰に気にする。
 そんな中で婚約破棄、それも一方的に悪いとされているのが許されたそれはアリスが行なったこと、それが本当に貴族に認められたことを示している。

 ー けれども、貴族には戻れなかったのね。

 しかし、それでも貴族としての名を取り戻すことができなかった。
 だからアリスは貴族に抗うことは出来ないと私は笑う。
 確かにアリスは貴族に認められるような功績を残した。
 だが、それでも私からは逃げられない。
 彼女は私に潰される。
 
 ーーー それが、アリスに相応しい報いなのだから。

 「ですので私はアリスを貴方様に貧民に落として欲しくて……そうして貴方様の欲求の捌け口する、それでアリスの罪はようやく許しを得られるのです」

 貧民、それは平民の中でもより貧しく乞食同然の暮らしをしているものたちの総称だった。
 貧民に対する貴族の認識、それは平民と違って何をしても許される、というもの。

 「ふむ……」

 そしてその私の言葉に、絶世の容姿を持つアリスを押し倒すことでも想像したのか、豚の顔に下卑た笑みが浮かぶ。
 それは通常ならば、蹴り飛ばしたくなるような醜悪な面構え。
 だがその時の私はその顔に、物事が自分の計画通りに進んでいることを確信して笑う。
 それは周囲から見ればただ豚に対する愛情に見えるように計算された笑み。

 「さぁ、そうと決まれば明日にでも」

 だがその笑みの浮かべる私の頭に浮かんでいたもの、それはアリスが全てを失い泣き喚くそんな光景だった……