31 / 47
悪役令嬢は精霊と出会う
30.護衛
しおりを挟む
夢かとそう一時はもう会えないと諦めていた青年。
その姿に私は何もいえなくなる。
ただ胸に自分でも何かよく分からない感情が溢れ、涙が溢れてくる。
「お、おい?」
そしてその私の様子に流石の青年も一瞬動揺を漏らす。
けれども直ぐに私の様子がおかしいことがわかったのか何も言わずにただ頭に手を置いてくれた。
私は青年の不器用な頭の上に置いた手の動きから優しさを感じて、そしてようやく微笑むことができた。
「きさまぁ!誰に手を出したと思っている!」
「っ!」
だが、その幸せな時間はてっきり意識を失っていたと思っていた王子の叫び声によって中断された。
王子は何処かで頭をぶつけたのか、額から血を流し服もほこりまみれになっていた。
けれども私を襲うのを邪魔された怒り、または殴られたということに関する苛立ちからか、その目は怒りに燃えていた。
そしてその王子の様子を見て喜びで止まっていた私の頭がようやく働き始める。
どうして檻の中に囚われていたはずの青年が立ち歩いているのか。
どうしてこんな場所に別の部屋にいるはずの青年がいるのか。
そんな思考が頭を一瞬で巡り、そしてこのままでは青年は王子に不敬罪として殺されるということに私はたどり着く。
もし青年がかなりの身分であったとしてもそれでも檻の中に入れらるような重罪人であれば、王子の一言であっさりと死罪にされてしまう。
だから私は何とか自分が王子を抑えている間に青年に王宮を去って貰おうと、青年に向かって口を開きかけて、
「逃げ……」
「ないよ」
「っ!」
だが私の言葉はあっさりと青年に拒否された。
そしてそのこと私は絶句する。
自分でも情けない顔になってしまっているだろう。
青年が何故逃げようとしないのかは分からない。
だけど幾ら青年であれ、単身で王族に刃向かうことなどできるはずない、そう私は青年に告げようとするり。
「もう、全部準備してここにきた。逃げる必要なんてない」
「えっ?」
だが、私が何かいう前に青年はそんな私の心の中を全て分かったように頷いて、そして絶対に逃げない意思を告げながら私の頭を軽くぽんぽんと叩いた。
そう告げた時の青年の顔は自信に満ち溢れていた。
だけど、それでも私は青年を止めなければならないと思う。
そう頭の中の一番冷静で臆病な部分が青年を生かしたいならば何としてでも彼を止めろ、と叫んでいるのがわかる。
「あれ?」
だけど、その言葉が私の口から出ることはなかった。
何故なのかは分からない。
けれども青年に軽く叩かれた場所から青年は大丈夫だという根拠ない自信が溢れ出してきて、いつの間にか私はその根拠のない自信に口を閉ざされていた。
ー あの父でさえ単身ではこの国と刃向かうことはできない。
私の頭にそう口を閉ざしたことを責めるような声が響く。
けれども私には動こうとするそんな気が起こることはなかった。
ーーー 目の前の青年に、何故か父よりも大きな存在感を感じて。
「ようやく暴走をやめたか……」
そして動かなくなった私を見て青年はそう満足そうに頷いた。
「巫山戯るな!こちらを向けと言っているだろうが!」
それから私の耳には入っていなかったが先程からずっと喚き続けてきた王子へと振り向いた。
王子はずっと無視されていたことに苛立ちを溜めていたのか、ようやく振り向いた青年を睨む。
「ひっ!」
だが青年が一足分前に踏み出しただけで情けない悲鳴をあげ後ろに下がる。
「お前など護衛に……」
そして自分でも下がってしまったことに罰が悪くなったのか、青年に向かって再度噛みつき始める。
「ぶべっ!」
だがその言葉は途中で中断されることとなった。
王子が言葉を言い切るのを待つことなく、青年が王子の腹部を蹴り上げたのだ。
「なぁ、そんなに護衛って強いのか?」
そして青年は急所を蹴り上げられ、鼻水と涙を流しながら喘ぐ王子に笑いかける。
「だったら今すぐ泣きついてこいよ」
それから王子を再度扉の方向へと蹴り上げた。
蹴り上げられた王子は扉を壊しながら外へと放り出され、血を流しながら顔を上げる。
だが次の瞬間勝利を確信したように笑い、
ーーー そして意識を失って倒れている護衛達の姿を見て顔を恐怖に引攣らせた。
「あぁぁぁぁあ!」
その姿に私は何もいえなくなる。
ただ胸に自分でも何かよく分からない感情が溢れ、涙が溢れてくる。
「お、おい?」
そしてその私の様子に流石の青年も一瞬動揺を漏らす。
けれども直ぐに私の様子がおかしいことがわかったのか何も言わずにただ頭に手を置いてくれた。
私は青年の不器用な頭の上に置いた手の動きから優しさを感じて、そしてようやく微笑むことができた。
「きさまぁ!誰に手を出したと思っている!」
「っ!」
だが、その幸せな時間はてっきり意識を失っていたと思っていた王子の叫び声によって中断された。
王子は何処かで頭をぶつけたのか、額から血を流し服もほこりまみれになっていた。
けれども私を襲うのを邪魔された怒り、または殴られたということに関する苛立ちからか、その目は怒りに燃えていた。
そしてその王子の様子を見て喜びで止まっていた私の頭がようやく働き始める。
どうして檻の中に囚われていたはずの青年が立ち歩いているのか。
どうしてこんな場所に別の部屋にいるはずの青年がいるのか。
そんな思考が頭を一瞬で巡り、そしてこのままでは青年は王子に不敬罪として殺されるということに私はたどり着く。
もし青年がかなりの身分であったとしてもそれでも檻の中に入れらるような重罪人であれば、王子の一言であっさりと死罪にされてしまう。
だから私は何とか自分が王子を抑えている間に青年に王宮を去って貰おうと、青年に向かって口を開きかけて、
「逃げ……」
「ないよ」
「っ!」
だが私の言葉はあっさりと青年に拒否された。
そしてそのこと私は絶句する。
自分でも情けない顔になってしまっているだろう。
青年が何故逃げようとしないのかは分からない。
だけど幾ら青年であれ、単身で王族に刃向かうことなどできるはずない、そう私は青年に告げようとするり。
「もう、全部準備してここにきた。逃げる必要なんてない」
「えっ?」
だが、私が何かいう前に青年はそんな私の心の中を全て分かったように頷いて、そして絶対に逃げない意思を告げながら私の頭を軽くぽんぽんと叩いた。
そう告げた時の青年の顔は自信に満ち溢れていた。
だけど、それでも私は青年を止めなければならないと思う。
そう頭の中の一番冷静で臆病な部分が青年を生かしたいならば何としてでも彼を止めろ、と叫んでいるのがわかる。
「あれ?」
だけど、その言葉が私の口から出ることはなかった。
何故なのかは分からない。
けれども青年に軽く叩かれた場所から青年は大丈夫だという根拠ない自信が溢れ出してきて、いつの間にか私はその根拠のない自信に口を閉ざされていた。
ー あの父でさえ単身ではこの国と刃向かうことはできない。
私の頭にそう口を閉ざしたことを責めるような声が響く。
けれども私には動こうとするそんな気が起こることはなかった。
ーーー 目の前の青年に、何故か父よりも大きな存在感を感じて。
「ようやく暴走をやめたか……」
そして動かなくなった私を見て青年はそう満足そうに頷いた。
「巫山戯るな!こちらを向けと言っているだろうが!」
それから私の耳には入っていなかったが先程からずっと喚き続けてきた王子へと振り向いた。
王子はずっと無視されていたことに苛立ちを溜めていたのか、ようやく振り向いた青年を睨む。
「ひっ!」
だが青年が一足分前に踏み出しただけで情けない悲鳴をあげ後ろに下がる。
「お前など護衛に……」
そして自分でも下がってしまったことに罰が悪くなったのか、青年に向かって再度噛みつき始める。
「ぶべっ!」
だがその言葉は途中で中断されることとなった。
王子が言葉を言い切るのを待つことなく、青年が王子の腹部を蹴り上げたのだ。
「なぁ、そんなに護衛って強いのか?」
そして青年は急所を蹴り上げられ、鼻水と涙を流しながら喘ぐ王子に笑いかける。
「だったら今すぐ泣きついてこいよ」
それから王子を再度扉の方向へと蹴り上げた。
蹴り上げられた王子は扉を壊しながら外へと放り出され、血を流しながら顔を上げる。
だが次の瞬間勝利を確信したように笑い、
ーーー そして意識を失って倒れている護衛達の姿を見て顔を恐怖に引攣らせた。
「あぁぁぁぁあ!」
5
お気に入りに追加
2,083
あなたにおすすめの小説
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
婚約破棄ですか? ならば国王に溺愛されている私が断罪致します。
久方
恋愛
「エミア・ローラン! お前との婚約を破棄する!」
煌びやかな舞踏会の真っ最中に突然、婚約破棄を言い渡されたエミア・ローラン。
その理由とやらが、とてつもなくしょうもない。
だったら良いでしょう。
私が綺麗に断罪して魅せますわ!
令嬢エミア・ローランの考えた秘策とは!?
【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい
宇水涼麻
恋愛
ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。
「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」
呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。
王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。
その意味することとは?
慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?
なぜこのような状況になったのだろうか?
ご指摘いただき一部変更いたしました。
みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。
今後ともよろしくお願いします。
たくさんのお気に入り嬉しいです!
大変励みになります。
ありがとうございます。
おかげさまで160万pt達成!
↓これよりネタバレあらすじ
第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。
親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。
ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる