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悪役令嬢は精霊と出会う
20.変化 II
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考えることをやめ仕事に精を出し、直ぐに私は自分の分の仕事を終わらせた。
「あれ?」
それから直ぐに次の分に取り掛かろうとしてい、そして私は今日は誰にも仕事を押し付けられていなかったことに気づく。
「アリス、終わったなら帰っていいぞ」
「えっ、あ、はい!」
私が手持ち無沙汰になっていることに気づいたハリスにもう下がっていいと言われ、私は反射的に返事を返す。
だが返事を返したものの、私は直ぐに衛兵のもとに行こうとしなかった。
仕事が終わったのならば後は衛兵に日給を貰うだけなのだが、私は直ぐ動く気になれなかった。
「こんなに早く終わるのか……」
そう私が呟いた声には純粋な驚きが籠っていた。
常に夜遅くまで必死に働き、そして帰るのは常に深夜。
そのせいでこんな昼頃に終わるのは本当に新鮮な体験で、
だからこそ、私の頭で違和感が膨らむ。
私に親切にしてくれる下女たち。
だが怒鳴りつけられ、そして仕事を押し付けられたあの時の下女たちとの姿が重なり、そのことが私の胸にしこりを残す。
「っ、お疲れ様です!」
そしてそのことに耐えかねた私は、手早く挨拶をして衛兵のもとへと駆けつける。
「すまなかったな」
「えっ、」
だがその場所で再度私は絶句することとなった。
確かに私も今日は全ての日給分が貰えるかもしれないと考えていたが、
その日渡された袋は明らかに日給分だけでない重さがあった。
「これまでの分を全て入れておいた」
戸惑う私に衛兵はそう、ぼそりと押し付けるように袋を渡しながら私にいう。
私は呆然とその袋を受け取り、そのまま外へと飛び出した……
◇◆◇
「はぁ、はぁ、」
王宮から飛び出し、そして走り出した私は衛兵が驚いていたことを知りながら戻る気は起こらなかった。
今まで私は下女や衛兵達に隠しようのない恐怖心を覚えていた。
それは今までの生活で染み付いた恐怖心で、幾ら下女達の態度が変わろうが直ぐには消え去ることはない。
だが、今私の心を覆う恐怖心の理由は下女達に対する恐怖ではなかった。
今でも下女達に受けた罵詈雑言は直ぐに頭に蘇る。
それだけ私は彼女達に罵られてきて、だが今日突然変わった。
ーーー 喜ぶ間もないくらいに突然に。
そしてその結果私が覚えたのは突然の対応の変化に対する違和感と、優しいはずの下女達に私を罵らせた貴族という存在だった。
「貴族って、」
この国では貴族、王族の力が強い。
それはこの国にいれば誰でも知っている常識だろう。
だが、私はその力が平民の人格を変えさせるほどの強制力を持っているなど知らなかった。
そしてそれだけで貴族という存在の強大さに対して私が疑問を持つだけの十分な違和感だったが、
それは衛兵の態度も変わったことによってさらに膨らんだ。
衛兵は私とそれほど盛んに話していたわけではない。
そしてそんな程度の会話で貴族のことを気にかける必要など無いのに、
ーーー 衛兵まで私を嫌う貴族が来なくなった途端に態度を変えた。
そう、それはまるで、
「貴族が嫌う人間を世界が拒絶している……?」
私はポツリと言葉を漏らして、直ぐにそんな馬鹿なことはないと否定する。
それは明らかに人間の領分を超えた何かで、あり得るわけがない。
そう考えようとして、
「おい、あんた」
「ひっ!」
その時肩を叩かれ私は思わず悲鳴を漏らした。
驚き振り返ると、私はいつの間にか人気のない路地裏に入っていたことに気づく。
そして私が振り返ると、そこにいたのはかつて私を犯そうと襲い掛かってきた男だった。
「っ!」
私はまたこの場所に迷い込んだ自分の迂闊さに唇を噛み締めながら、直ぐに逃げ出そうと足に力をいれる。
「汗だらけだぞ……」
「えっ?」
だが、男はただ私に布を渡しただけだった。
「それはお前さんにやるよ」
そしてそのまま去って行く。
私に一切見向きすることもなく。
「な、何が……」
後に残された私はそう疑問を漏らすことしかできなかった……
「あれ?」
それから直ぐに次の分に取り掛かろうとしてい、そして私は今日は誰にも仕事を押し付けられていなかったことに気づく。
「アリス、終わったなら帰っていいぞ」
「えっ、あ、はい!」
私が手持ち無沙汰になっていることに気づいたハリスにもう下がっていいと言われ、私は反射的に返事を返す。
だが返事を返したものの、私は直ぐに衛兵のもとに行こうとしなかった。
仕事が終わったのならば後は衛兵に日給を貰うだけなのだが、私は直ぐ動く気になれなかった。
「こんなに早く終わるのか……」
そう私が呟いた声には純粋な驚きが籠っていた。
常に夜遅くまで必死に働き、そして帰るのは常に深夜。
そのせいでこんな昼頃に終わるのは本当に新鮮な体験で、
だからこそ、私の頭で違和感が膨らむ。
私に親切にしてくれる下女たち。
だが怒鳴りつけられ、そして仕事を押し付けられたあの時の下女たちとの姿が重なり、そのことが私の胸にしこりを残す。
「っ、お疲れ様です!」
そしてそのことに耐えかねた私は、手早く挨拶をして衛兵のもとへと駆けつける。
「すまなかったな」
「えっ、」
だがその場所で再度私は絶句することとなった。
確かに私も今日は全ての日給分が貰えるかもしれないと考えていたが、
その日渡された袋は明らかに日給分だけでない重さがあった。
「これまでの分を全て入れておいた」
戸惑う私に衛兵はそう、ぼそりと押し付けるように袋を渡しながら私にいう。
私は呆然とその袋を受け取り、そのまま外へと飛び出した……
◇◆◇
「はぁ、はぁ、」
王宮から飛び出し、そして走り出した私は衛兵が驚いていたことを知りながら戻る気は起こらなかった。
今まで私は下女や衛兵達に隠しようのない恐怖心を覚えていた。
それは今までの生活で染み付いた恐怖心で、幾ら下女達の態度が変わろうが直ぐには消え去ることはない。
だが、今私の心を覆う恐怖心の理由は下女達に対する恐怖ではなかった。
今でも下女達に受けた罵詈雑言は直ぐに頭に蘇る。
それだけ私は彼女達に罵られてきて、だが今日突然変わった。
ーーー 喜ぶ間もないくらいに突然に。
そしてその結果私が覚えたのは突然の対応の変化に対する違和感と、優しいはずの下女達に私を罵らせた貴族という存在だった。
「貴族って、」
この国では貴族、王族の力が強い。
それはこの国にいれば誰でも知っている常識だろう。
だが、私はその力が平民の人格を変えさせるほどの強制力を持っているなど知らなかった。
そしてそれだけで貴族という存在の強大さに対して私が疑問を持つだけの十分な違和感だったが、
それは衛兵の態度も変わったことによってさらに膨らんだ。
衛兵は私とそれほど盛んに話していたわけではない。
そしてそんな程度の会話で貴族のことを気にかける必要など無いのに、
ーーー 衛兵まで私を嫌う貴族が来なくなった途端に態度を変えた。
そう、それはまるで、
「貴族が嫌う人間を世界が拒絶している……?」
私はポツリと言葉を漏らして、直ぐにそんな馬鹿なことはないと否定する。
それは明らかに人間の領分を超えた何かで、あり得るわけがない。
そう考えようとして、
「おい、あんた」
「ひっ!」
その時肩を叩かれ私は思わず悲鳴を漏らした。
驚き振り返ると、私はいつの間にか人気のない路地裏に入っていたことに気づく。
そして私が振り返ると、そこにいたのはかつて私を犯そうと襲い掛かってきた男だった。
「っ!」
私はまたこの場所に迷い込んだ自分の迂闊さに唇を噛み締めながら、直ぐに逃げ出そうと足に力をいれる。
「汗だらけだぞ……」
「えっ?」
だが、男はただ私に布を渡しただけだった。
「それはお前さんにやるよ」
そしてそのまま去って行く。
私に一切見向きすることもなく。
「な、何が……」
後に残された私はそう疑問を漏らすことしかできなかった……
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