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悪役令嬢は精霊と出会う
8.宿屋
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「ん、」
眩しい日差しが入り、私、アリスは目を開く。
そして目に入ってきたはお世辞にも綺麗とは言えない部屋の様子だった。
私が今止まっているそこは、元は宿屋の物置として使われていた所。
掃除も出来ておらず、またする時間もなくて未だボロボロのまま。
だが、その部屋は酷く日当たりのいい所だった。
「くぁっ、」
私は眠気を払うように、暖かい陽光の中背伸びをする。
こんな日当たりの良い場所にあるの部屋がどうして物置になっていたのかは分からない。
だが、窓から差し込んできた陽光で目覚めるそのことは私の今の1日の中の数少ない楽しみだった。
「アリスちゃん、起きたかい?」
「っ、はい!」
そして伸びをする私に優しげな声が掛かる。
私は無防備な姿を見られたことに羞恥を抱きながら振り返ると、そこに立っていたのは優しげな微笑みを浮かべたお婆さんが立っていた。
彼女の名前はサラー。
私が止まっている宿屋の女将で、今私の評判が地に落ちた中、私に優しく接してくれる人物。
「それじゃぁ、今日の分も……」
サラーさんは顔を赤くしている私をみて可笑しそうに笑うと、お盆を私に差し出した。
そこには粗末な食事が入っていた。
それは宿屋で出すというには余りにも出来が悪いもの。
だが、私はその食事を見て頬を綻ばせ、サラーさんに笑いかける。
「サラーさん、いつもありがとうございます!」
「アリスちゃん、お礼なんていいよ。ただの残飯なんだから」
そう、サラーさんに私が渡されたのは昨夜の残飯。
つまり、正式な宿屋の食事では無い。
「でも、こんな私に無償で頂いてますから……」
だが、この食事には一切のお金は取られていない。
1日1食分程度の給金しか貰っていない私にサラーさんが気を使ってくれたのだ。
「それに宿屋の代金だって……」
そしてサラーさんが私に考慮してくれているのはそれだけでは無く、宿屋の代金もだった。
決して無料では無いが、私が休みの日に宿屋とは別に夜開けている酒場の看板娘として働く代わりにこの物置に止まる代金を無しにしてくれているのだ。
そしてそのお陰で今私は貰った給金を全て貯金することができている。
だが、この頃下女の仕事で休みなくそれも一日中働いている私は殆ど酒場の仕事が出来ておらず、無料でこの物置に住んでいる状態だった。
「本当にすいません……」
そしてそのことを考え、私は罪悪感に胸を締め付けられながら謝罪の言葉をサリーさんに告げる。
サリーさんに助けて貰っているのはお金の方面だけでは無い。
だが、私の謝罪に対してサリーの返答は無かった。
「痛い!」
代わりにパチーン、といういい音が響いてお尻に痛みが走り、私は思わず涙目になる。
「な、何ですかぁ……」
「はぁ……アリスちゃんは相変わらずだね……」
思わず情けない声を出す私を見て、サリーさんは溜息をつく。
「言っているでしょう!私なんか、そんなことばっか言ってたら女が下がるからやめなさいって!」
「で、でも、私なんかが酒場の看板娘していても逆に迷惑しかかけなくて……」
「また!」
「ご、ごめんなさい」
サリーさんに怒られ思わず謝罪した、私を見てサリーは呆れ顔をする。
「ちょっと来て!」
「えっ、」
突然、手を引かれ物置の奥に連れていかれた私は思わず悲鳴をあげる。
だが、サリーさんはその悲鳴を無視して私を引っ張っていき、そして辿り着いたのは嘗て私がサリーさんに貰った鏡の前だった。
「えっ、え?」
「この前に立って!」
そしてサリーさんは私を鏡の前に立たせ、少しでも襲われる確率を少なくするため何時も顔を隠している前髪を持ち上げる。
すると、そこに立っていたのは何処か生気の無い目つきをした私の姿だった。
その格好は令嬢としてアストレア家にいた時とは比べるまでもなくボロボロで、私の胸に自虐的な思いが湧き上がってくる。
「ほら、別嬪さんが立っている」
「えっ?」
だが、その私の思いに反してサリーさんは満面の笑顔でそう大きく頷いた。
私は別嬪さんという言葉に驚き否定しようとするが、その前にサリーさんが口を開く。
「アリスちゃん、貴女綺麗だから。前髪を上げていればアリスちゃんだって誰も分からないし、アリスちゃんが酒場に立ってくれた時には何時も一杯お客さん来るのよ」
「っ!」
サリーさんの言葉に私は身なりを整え酒場で働いているときは何時も満員だったことを思い出す。
だが、それはサリーさんの酒場が人気なだけで、と私はそう言おうとして、
「アリスちゃん、貴方は綺麗よ」
「っ!」
サリーさんの言葉に何故か胸が一杯になるのを感じた。
それは決して容姿を褒められたからでは無い。
綺麗だと、そう告げたサリーさんの言葉に暖かい感情を感じて何故か言葉が詰まる。
「す、すいません。遅れたら行けないので!」
そして私はさらに何かが胸の奥から溢れ出して来そうになって、焦りサリーさんから顔を背け動き出した。
「ふふ、」
サリーさんはそんな私を見て優しく微笑んでいた。
だが、次の瞬間顔に私を気遣うような色が込められ、ポツリと何かを漏らした。
「アリスちゃん、貴女は気に病みすぎなくていいのよ……」
そのサリーさんの言葉は私の耳に入ることなく、空中に霧散していった………
眩しい日差しが入り、私、アリスは目を開く。
そして目に入ってきたはお世辞にも綺麗とは言えない部屋の様子だった。
私が今止まっているそこは、元は宿屋の物置として使われていた所。
掃除も出来ておらず、またする時間もなくて未だボロボロのまま。
だが、その部屋は酷く日当たりのいい所だった。
「くぁっ、」
私は眠気を払うように、暖かい陽光の中背伸びをする。
こんな日当たりの良い場所にあるの部屋がどうして物置になっていたのかは分からない。
だが、窓から差し込んできた陽光で目覚めるそのことは私の今の1日の中の数少ない楽しみだった。
「アリスちゃん、起きたかい?」
「っ、はい!」
そして伸びをする私に優しげな声が掛かる。
私は無防備な姿を見られたことに羞恥を抱きながら振り返ると、そこに立っていたのは優しげな微笑みを浮かべたお婆さんが立っていた。
彼女の名前はサラー。
私が止まっている宿屋の女将で、今私の評判が地に落ちた中、私に優しく接してくれる人物。
「それじゃぁ、今日の分も……」
サラーさんは顔を赤くしている私をみて可笑しそうに笑うと、お盆を私に差し出した。
そこには粗末な食事が入っていた。
それは宿屋で出すというには余りにも出来が悪いもの。
だが、私はその食事を見て頬を綻ばせ、サラーさんに笑いかける。
「サラーさん、いつもありがとうございます!」
「アリスちゃん、お礼なんていいよ。ただの残飯なんだから」
そう、サラーさんに私が渡されたのは昨夜の残飯。
つまり、正式な宿屋の食事では無い。
「でも、こんな私に無償で頂いてますから……」
だが、この食事には一切のお金は取られていない。
1日1食分程度の給金しか貰っていない私にサラーさんが気を使ってくれたのだ。
「それに宿屋の代金だって……」
そしてサラーさんが私に考慮してくれているのはそれだけでは無く、宿屋の代金もだった。
決して無料では無いが、私が休みの日に宿屋とは別に夜開けている酒場の看板娘として働く代わりにこの物置に止まる代金を無しにしてくれているのだ。
そしてそのお陰で今私は貰った給金を全て貯金することができている。
だが、この頃下女の仕事で休みなくそれも一日中働いている私は殆ど酒場の仕事が出来ておらず、無料でこの物置に住んでいる状態だった。
「本当にすいません……」
そしてそのことを考え、私は罪悪感に胸を締め付けられながら謝罪の言葉をサリーさんに告げる。
サリーさんに助けて貰っているのはお金の方面だけでは無い。
だが、私の謝罪に対してサリーの返答は無かった。
「痛い!」
代わりにパチーン、といういい音が響いてお尻に痛みが走り、私は思わず涙目になる。
「な、何ですかぁ……」
「はぁ……アリスちゃんは相変わらずだね……」
思わず情けない声を出す私を見て、サリーさんは溜息をつく。
「言っているでしょう!私なんか、そんなことばっか言ってたら女が下がるからやめなさいって!」
「で、でも、私なんかが酒場の看板娘していても逆に迷惑しかかけなくて……」
「また!」
「ご、ごめんなさい」
サリーさんに怒られ思わず謝罪した、私を見てサリーは呆れ顔をする。
「ちょっと来て!」
「えっ、」
突然、手を引かれ物置の奥に連れていかれた私は思わず悲鳴をあげる。
だが、サリーさんはその悲鳴を無視して私を引っ張っていき、そして辿り着いたのは嘗て私がサリーさんに貰った鏡の前だった。
「えっ、え?」
「この前に立って!」
そしてサリーさんは私を鏡の前に立たせ、少しでも襲われる確率を少なくするため何時も顔を隠している前髪を持ち上げる。
すると、そこに立っていたのは何処か生気の無い目つきをした私の姿だった。
その格好は令嬢としてアストレア家にいた時とは比べるまでもなくボロボロで、私の胸に自虐的な思いが湧き上がってくる。
「ほら、別嬪さんが立っている」
「えっ?」
だが、その私の思いに反してサリーさんは満面の笑顔でそう大きく頷いた。
私は別嬪さんという言葉に驚き否定しようとするが、その前にサリーさんが口を開く。
「アリスちゃん、貴女綺麗だから。前髪を上げていればアリスちゃんだって誰も分からないし、アリスちゃんが酒場に立ってくれた時には何時も一杯お客さん来るのよ」
「っ!」
サリーさんの言葉に私は身なりを整え酒場で働いているときは何時も満員だったことを思い出す。
だが、それはサリーさんの酒場が人気なだけで、と私はそう言おうとして、
「アリスちゃん、貴方は綺麗よ」
「っ!」
サリーさんの言葉に何故か胸が一杯になるのを感じた。
それは決して容姿を褒められたからでは無い。
綺麗だと、そう告げたサリーさんの言葉に暖かい感情を感じて何故か言葉が詰まる。
「す、すいません。遅れたら行けないので!」
そして私はさらに何かが胸の奥から溢れ出して来そうになって、焦りサリーさんから顔を背け動き出した。
「ふふ、」
サリーさんはそんな私を見て優しく微笑んでいた。
だが、次の瞬間顔に私を気遣うような色が込められ、ポツリと何かを漏らした。
「アリスちゃん、貴女は気に病みすぎなくていいのよ……」
そのサリーさんの言葉は私の耳に入ることなく、空中に霧散していった………
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