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第49話 マルドーレ

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 「はは、あはははっ!」

 従っていた貴族達と、マルドーレで新王国を作ると書かれていたその書類の表をを見て、マルドーレは大きな声を上げて笑い始めた。
 そして、ノグゼムに対し嘲りの視線を向けて口を開く。

 「おい、ノグゼム。お前は私達の有する戦略を恐れたのだろう。私達を殺せば、私達の有していた戦力が反乱すると考えて!」

 そう告げ、マルドーレは勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

 「だが、覚えておけ!私は新王国の戦力を整え次第、このアレスターレに攻め込んでやるぞ!」

 「おお!さすがマルドーレ様!」

 「ふははは!馬鹿どもが!」

 そしてその言葉に、マルドーレと同じく顔に喜色を浮かべた貴族達が歓声を上げる。

 「……………………………はぁ」

 …… だが、そのマルドーレに対するノグゼムの反応は、呆れを隠そうともしない、いや見せつけようとするかのような嘆息だった。
 最早、ノグゼムはマルドーレに対して一切の興味を抱いていなかった。
 だが、このまま放置しておくのもまためんどくさい。

 「頼んだ」

 そう判断した、ノグゼムは部下へと手をあげる。
 そのノグゼムの対応に、部下達はある人間達を探すためにこの場を後にし。


 「………は?」


 次の瞬間、部下達が連れてきた人間にマルドーレ達は言葉を失った。

 何せ、ノグゼムの部下に引き連れられ、この場に姿を現した人間は、自分達の味方だったはずの騎士長だったのだから。

 「何が………」

 ノグゼムの部下に引き連れられてこの場に現れた、それだけで何が起きたかをマルドーレ達は理解していた。
 それでも、マルドーレ達は認めることはできなかった。

 …… 宰相であるノグゼムを忌み嫌っていた、騎士長まで、自分達を裏切ったノグゼムまで裏切ったというその現実を。

 捕縛されたような様子もなく、この場所に現れた。
 それが、騎士長がノグゼム達についた何よりの証であることは、マルドーレ達に理解できないわけがなかった。
 それでも、その現実をマルドーレ達は受け入れることができない。

 「言っとくが、もうお前を味方する人間はアレスターレにはいない。いや、大陸を探してもいないだろうな」

 だが、そんなマルドーレの反応を全く気にすることなくノグゼムは言葉を重ねる。

 「それと、その書類の中身もきちんと読め」

 そのノグゼムの言葉に、マルドーレは呆然とした手つきで、書類を開く。


 「────っ!」


 ……そして、その書類に書かれていた国名、「馬鹿の国」を見て言葉を失うことになった。

 その名を見て、今更ながら何故自分に国が与えられたのかをマルドーレは理解する。
 別にノグゼム達は自分達の戦力が怖かった訳ではない。



 ただ、見せしめにするために態々一つの国を作ったのだ。



 そのことを理解した瞬間、マルドーレは茫然自失の状態になる。

 「良かったな愚王様。これで歴史に名が残るぞ」

 ………その自分の様子を見て、ノグゼムが告げた言葉に対しても、マルドーレは反応することができなかった。
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