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第30話

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 サーレの余計な一言のせいで、それからアナは私に対してかなりしつこく精霊と出会った経緯を聞いてくることになった。

 「だ、だから偶然よ」

 「嘘だぁ!」

 ……だが、残念ながら私には精霊と出会えた本当の理由をアナに教えることなんて出来るはずもなく、自分でも無理があると思いつつもそう言い張ることになった。
 本当のところは竜姫様がいたからこそ精霊達と仲良くなれたのだが、竜姫様の存在はそう簡単に教えるわけにはいかないのだ。
 それほど竜姫様はイレギュラーかつ、強力な存在なのだから。
 そのせいで、私が竜姫様のことを教えたのはアグルス様とノグゼムだけで、その他の人間に教えるつもりはさらさらない。

 何せ、竜姫様の存在は知っただけで危険になるようなものなのだから。

 「お願いしますっ!教えてくださいマーセリアさまぁ!」

 ……けれども、そんなことを知るよしもないアナは残念ながら追及の手を緩めることはなかった。
 そのアナの態度に私は未だボウルをかき混ぜながら、困ってしまう。
 アナは筋金入りの可愛いもの好きだ。
 私が口を割るまで追及の手をやめないかもしれない……

 「いい加減諦めたらどうアナ。どうせマーセリア様のことだし、勝手に精霊達に懐かれたかもしれないでしょ。それに何か裏があっても私達には真似できないわよ」

 「うぅ……可愛い精霊さん……まあ、でもマーセリア様だもんね……」

 しかし、その時サーレがそうアナに言い聞かせてくれた。
 ……そもそもの原因はサーレな上、その言い方には含みがあるような気がして感謝する気は全く起きないのだが。
 というか、アナも何でサーレのよくわからない理論で納得してしまうのだろう?
 おかしい。納得がいかない。
 ……けれども、私としてもせっかく逸れた話に文句を言って、また面倒なことにするわけにはいかず、不満を覚えながらもそれを胸の内に抑え込むことにする。
 とにかく今は話をそらすことの方が先決なのだ。
 そう判断した私はおかし作りに集中することにした。
 私はボウルをかき混ぜる手を止めて、その中に指を入れて付着した白い私のようなものを口に含む。

 「うん、これでもう大丈夫ね」

 そして私は大きく頷くと、事前に焼き上げて上下で切り分けていた特別にふわふわに焼いたパンケーキを取り出しクリームを塗りつけていく。
 最後にこの精霊の森で取れた新鮮で美味しい果物をパンケーキの間に挟んで私は満足げに頷く。

 「うん、これでよし!クリームケーキのできあがりよ」

「むぅぅ!」

 「むぅう!」

 「え、えぇ?」

 「か、可愛い!」

 そしてその瞬間、お菓子が出来上がったことを喜ぶ精霊達の大合唱が始まることとなった……






 ◇◆◇






 本日私が作ったケーキ、それはアレスターレではあまり食べられていない牛の乳、クリームを使って作られたケーキだ。
 それはルスタニアのお菓子に使われていたもので、私はアグルス様に食べさせてもらったことがあったのだ。
 その際、私は濃厚な味わいに感激していつかこのクリームで美味しいケーキを作ってやろうと心に決めていたのだ。

 「むうう!むうう!」

 「むうう!」

 「な、なんなんですかこのケーキは!美味しいっ!」

 そして、そのケーキは大変に好評だった。
 精霊たちも、アナも夢中でケーキを食べている。

 「……もぐ……もぐ」

 ……けれども、その中で1人サーレだけは何の反応も見せることはなかった。
 まるでケーキが気に入らなかったかのような態度でケーキを食べている。

 「ふ、うふふ」

 しかし、ケーキを食べる途中サーレの無表情は突然崩れ去る。
 次の瞬間緩みきった笑みがサーレの顔に浮かんで……けれども直ぐにその顔は無表情に戻る。

 「ふふふ」

 そしてその表情を私は笑いながら眺めていた。
 そう、サーレは決してケーキなどの甘いものが嫌いなわけではない。
 いやむしろ大好きな方だろう。
 けれども彼女は竜姫様と同じで、何故かケーキを食べて緩みきった表情を周囲の人に見られることを恥ずかしがるのだ。
 私に見られていたと後で気付けばサーレは非常に恥ずかしがることになるだろう。
 けれども、先程サーレのせいで面倒ごとになったので、私は意趣返しも込めてサーレの方を見続けて。

 「あぁぁぁぁあ!ま、マーセリア様ぁ!」

 ……その後、喫茶店の中に、自分が百面相をしていたことを私に見られていた、と気づいて涙目になったサーレの悲痛な悲鳴が上がることになるのだった。
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