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第19話 マルドーレ

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 「ようこそアレスターレへ。よくここに集まってきてくれた」

 ルスタニア大陸連盟中止から数日後。
 ようやく加盟国全てからの代表者が集まったかと、マルドーレは必死に苛立ちを隠しながらそう告げた。
 大陸連盟に加盟する国はかなりの数になる。
 それを考えれば、代表者を募るだけでも最速で数日の日を要さなければならない。
 だがそのことを分かりながらも、いち早くルスタニアへの報復をしたかったマルドーレは、会談を起こすだけで数日を要すことに苛立ちを覚えずにはいられなかった。
 マルドーレはアグルスに対して早く復讐したくてたまらなかったのだ。

 「遠方からはるばるご苦労であった。ここに諸君を集めたのはとある重大な事件が起きたからである」

 ……だが、その内心の苛立ちをマルドーレは表に出すことはなかった。
 いくら苛立ちを覚えていようが、それを口にして仕舞えば今回の会談は何の意味も無くなってしまい兼ねないのだ。
 何せ大陸連盟は名目的には全ての加盟国が同じ立場にあるとなっているのだから。

 ……けれどもその時マルドーレは全く気づいていなかった。

 不機嫌さを周囲に見せないようにする、そんな対応では足りなかったということを。

 「……ご苦労?そんな言葉で事足りると思いましたか?」

 「………は?」

 「この時期にアレスターレに数日以内に来い、というのがどれ程困難なのか、理解しているのかと問うているのです!」

 「っ!」

 何せ、マルドーレなどよりも他の加盟国の人間の方が明らかに苛立ちを覚えている様子だったのだから……

 



 ◇◆◇






 マルドーレへとそう声をあげたのは、アレスターレの隣の大国の一つ、マーテリタットの宰相、マクスタリアだった。
 そして、その彼の言葉に加盟国の人間は頷く。
 そう、マーテリタットはまだ隣国であるから準備する時間があったが、数日といえば距離が離れている国からすれば連絡があった瞬間、すぐに飛び出さなけれならないような時間だった。
 普通、大陸連盟の会談は加入国の中心たる国で緊急の用件があっても一ヶ月前から予定を決めて周囲の国に通達しておくのが従来のものなのだ。
 だからこそのマクスタリアはマルドーレへと声をあげたのだが……

 「仕方がないではないか。緊急の用件なのだから」

 「っ!」

 ……けれども、マルドーレはそのマクスタリアの言葉に一切耳を貸そうとはしなかった。
 そのまさかのマルドーレの態度に加盟国の中に動揺が走る。
 何せ、マルドーレはこれだけの無茶振りを周囲の国にした癖に一切悪びれる様子が無かったのだから。
 それは周囲の国に不信感を持たせるには充分な態度で、けれどもマルドーレはそのことに気づかない。

 「緊急の用件だと言っておるだろう!話を脱線させるのはやめてもらいたい!」

 ……それどころか、マクスタリアの最もな忠告を無駄話だと切り捨てたのだ。
 それにはもう、マクスタリアでさえ呆れて何もいうことが出来なかった……
 マルドーレは加盟国全体に対して喧嘩を売っていることに気づいていなかったのだ。
 けれども、そのマルドーレの態度に対して怒りを露わにする者はいなかった。
 何せ、そのマルドーレの態度を我慢してでも今回の緊急の用件は聞く必要があると思い込んでいたのだ。

 緊急の用件、それはマーセリアの追放に関する説明だと思い込んでいたせいで。


 「今回、大陸連盟を呼び出した理由はあの憎たらしいルスタニアを潰すためである!」


 「………は?」

 ……だからこそ、そのマルドーレの言葉を聞いた瞬間、加盟国の人間は言葉を失うことになった。
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