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第15話

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 アグルス・マーテリ。
 それは大陸中に老獪な話術を使う凄腕外交官として有名な人間だった。
 だが実際のところアグルス様の一番厄介なことは決して話術ではない。
 一番厄介なのはその情報収集能力だった。
 アグルス様は様々な種類の精霊達と契約を交わしており、その精霊達に外交相手のことを徹底的に調べ尽くさせる。
 そしてその相手が思わず上機嫌になってしまうように話を進める。

 それこそが、アグルスの魔術と言われる話術の正体だった。

 アグルス様の話術はたしかに驚異的なものであるが、アグルス様で最も警戒すべきはその精霊達の情報収集能力なのだ。

 「アグルス様……?」


 ……そして現在、私は喫茶店づくりの途中でのアグルス様が現れた状況で、私は混乱を隠せないながらも何故アグルス様がこの場所に現れたのかだけは理解していた。

 「むぅ!」

 その理由、それはアグルス様の横で自慢げに胸を張っている小さな女の子の姿をした精霊にあった。
 彼女はアグルス様の契約している精霊のうち1人で、今回私を助けてくれた精霊達と同じ種類の森の精霊だろう。
  精霊というのは大きな力を持つにも限らず臆病で敏感な存在であり、その精霊自身が望まぬ限り滅多に人前に姿を表すことはない。
 何せその精霊の特性を使ってアグルス様は情報を集めているくらいなのだから。
 そしてそんな精霊が一ヶ所に集まっていることを察知したアグルス様の契約精霊は、この場所を覗き込んで私の存在に気づいてアグルス様をここまで案内してきたのだろう。
 アグルス様との会談の日付は今日であったし、アレスターレの近くまでアグルス様が来ていてもおかしくはない。

 「はぁ……」

 ……そこまで理解して、私は思わずため息を漏らしていた。
 アグルス様がここまで来た大体の事情は推測できたお陰か、今は先程のような動揺は抱いていない。
 けれども、動揺がおさまったらおさまったで今だ未完成の喫茶店にアグルス様が来てしまったということにたいして私は溜め息を漏らすことになった。
 確かにアグルス様は喫茶店を作ったあと、絶対に呼ぼうと決めていた人間の一人ではあるが、こんな未完成をお披露目したくは無かったのだ。
 だが来てしまったものは仕方がないと、私は切り換えることにする。
 まだここに立っている建物は昨日一夜を過ごした小屋だけと、締まらないことこの上ないが私はアグルス様を喫茶店初のお客様と定めることにしたのだ。

 「マーセリア孃、もしかして貴女はマルドーレたちに追われて、こんな森のなかに……」

 「ようこそアグルス様!」

 「……は?」

 次の瞬間、その私の言葉にアグルス様の顔に疑問が浮かんだ。
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