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第2話
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私の返答に対する国王達の答え、それはしばしの沈黙だった。
どうやら私が全く抵抗せずにこの場を去るとは思っていなかったらしい。
「ふはははは!」
けれども、その沈黙はしばらくの間だけで少しすると国王は勝ち誇ったように笑い始めた。
「マーセリア、貴様の英雄という称号は本日で地に堕ちることになる!どうだ悔しいか?情けないか?だが、それは全て自分の責任だ」
そう私にまくし立てた国王の顔に浮かんでいたのは、憎々しい相手をようやく蹴落とせたという達成感に溢れたものだった。
そしてその国王の表情にようやく私は国王が自分に敵意を向けてきた理由が、自分の王位を取られるかもしれないという恐怖だけで無かったことを悟る。
「貴様がいなければ私は名君と呼ばれるはず人間だった!だが貴様が身の程を弁えず、私の手柄を奪ったからこそこんな目に遭うのだ!」
……そう、国王は自分の名声が低いことを私のせいだと責任転嫁して、敵視していたのだ。
マルドーレは国王でありながら私よりも遥かに民衆からの人気が低い。
……けれどもそれは決して私がいるせいでマルドーレの名声が下がっているわけではなかった。
何せ前国王は、私と父という他国からも認められた人材を有しながら、名君と認められていたのだから。
つまり、現国王マルドーレの知名度が低いのはただただ自身の実力不足に過ぎない。
けれど、それをマルドーレは認めようとはせず私のせいだと思い込み、その思いこそが私の冷遇の理由らしい。
……それはあまりにも酷い理由だった。
何せ私は必死にアレスターレのために動いてきたにもかかわらず、ただの八つ当たりで追放されそうになっている。
「はぁ……本当に頭が悪い」
……けれども、今の私はそのことを理解しながら怒りさえ抱くことはなかった。
何せ私が去った後、マルドーレ達に待っているのは隣国との対応なのだ。
それで大国であるアレスターレが混乱することはないだろう。
だが上層部である貴族と王族が厳しい目を向けられるのは確実で。
……なのに、マルドーレや貴族達は私を追放できるを喜ぶだけで、全くそのことを理解できていない。
そしてそのマルドーレと貴族達の様子を見た瞬間、私の中から彼らに付き合う気力が消え去った。
「話はそれだけですか?では私はここで失礼しますわ」
だから、私はさっさとこの場から立ち去ることにした。
「なっ!陛下の前で無礼だぞ!」
国王の返答を待つことなく、あっさりと背をひるがえした私に対して、貴族達から叱責が飛ぶ。
けれども、もう私はその言葉に反応することもなかった。
何せもうこの時から私はアレスターレの国民ではない。
つまり国王を敬う義務はもうないのだ。
もちろん他国の王であろうと、普通ならばきちんと礼を尽くすのが普通だ。
何せ国王はそれだけの存在で、礼を取らないことにより余計な諍いを招く可能性があるのだ。
……だが、目の前のぼんくらどもには全く何の価値も感じられないと判断した私は敢えて礼を取ることをやめた。
どうせマルドーレ達には私に敵対することなんて出来ない。
「ではご機嫌よう」
そして最後、私は優雅に一礼をして裁判所を後にしたのだった……
どうやら私が全く抵抗せずにこの場を去るとは思っていなかったらしい。
「ふはははは!」
けれども、その沈黙はしばらくの間だけで少しすると国王は勝ち誇ったように笑い始めた。
「マーセリア、貴様の英雄という称号は本日で地に堕ちることになる!どうだ悔しいか?情けないか?だが、それは全て自分の責任だ」
そう私にまくし立てた国王の顔に浮かんでいたのは、憎々しい相手をようやく蹴落とせたという達成感に溢れたものだった。
そしてその国王の表情にようやく私は国王が自分に敵意を向けてきた理由が、自分の王位を取られるかもしれないという恐怖だけで無かったことを悟る。
「貴様がいなければ私は名君と呼ばれるはず人間だった!だが貴様が身の程を弁えず、私の手柄を奪ったからこそこんな目に遭うのだ!」
……そう、国王は自分の名声が低いことを私のせいだと責任転嫁して、敵視していたのだ。
マルドーレは国王でありながら私よりも遥かに民衆からの人気が低い。
……けれどもそれは決して私がいるせいでマルドーレの名声が下がっているわけではなかった。
何せ前国王は、私と父という他国からも認められた人材を有しながら、名君と認められていたのだから。
つまり、現国王マルドーレの知名度が低いのはただただ自身の実力不足に過ぎない。
けれど、それをマルドーレは認めようとはせず私のせいだと思い込み、その思いこそが私の冷遇の理由らしい。
……それはあまりにも酷い理由だった。
何せ私は必死にアレスターレのために動いてきたにもかかわらず、ただの八つ当たりで追放されそうになっている。
「はぁ……本当に頭が悪い」
……けれども、今の私はそのことを理解しながら怒りさえ抱くことはなかった。
何せ私が去った後、マルドーレ達に待っているのは隣国との対応なのだ。
それで大国であるアレスターレが混乱することはないだろう。
だが上層部である貴族と王族が厳しい目を向けられるのは確実で。
……なのに、マルドーレや貴族達は私を追放できるを喜ぶだけで、全くそのことを理解できていない。
そしてそのマルドーレと貴族達の様子を見た瞬間、私の中から彼らに付き合う気力が消え去った。
「話はそれだけですか?では私はここで失礼しますわ」
だから、私はさっさとこの場から立ち去ることにした。
「なっ!陛下の前で無礼だぞ!」
国王の返答を待つことなく、あっさりと背をひるがえした私に対して、貴族達から叱責が飛ぶ。
けれども、もう私はその言葉に反応することもなかった。
何せもうこの時から私はアレスターレの国民ではない。
つまり国王を敬う義務はもうないのだ。
もちろん他国の王であろうと、普通ならばきちんと礼を尽くすのが普通だ。
何せ国王はそれだけの存在で、礼を取らないことにより余計な諍いを招く可能性があるのだ。
……だが、目の前のぼんくらどもには全く何の価値も感じられないと判断した私は敢えて礼を取ることをやめた。
どうせマルドーレ達には私に敵対することなんて出来ない。
「ではご機嫌よう」
そして最後、私は優雅に一礼をして裁判所を後にしたのだった……
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