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現れたのは (伯爵家当主視点)

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「……どうしてこんな時に第三王子が」

 迎える準備をしながら、そんな呟きがわたしの口から漏れる。
 ……いや実のところ、その理由について私は思い当たりが存在した。
 それは今更ながら、私が思い出したある記憶。
 辺境貿易が始まる前にアルフォードに告げられた言葉だった。

 ──この辺境貿易は、あくまでサーシャリアの監督下であるという前提でのものだ。それを忘れることはないように。

 そう、かつてアルフォードは私にそう断言していた。
 そして、私が思い出した記憶はそれだけではなかった。

 ──伯爵家主導の辺境貿易はあくまで例外です。私が認めた商人の監督下にあるという条件下で認められたものにすぎません。

 その言葉は、かつて必死の形相のサーシャリアに教えられたもの。
 それは、かつての私が聞き流していたはずの言葉だった。
 そんな言葉さえ思い出せるほど、今の私の頭は回転していた。
 そして、その頭脳はようやくある答えを導き出す。

 ……自分が、サーシャリア失踪の噂を流したから、王子はやってきたのだと。

 ようやく。
 ようやく私は、カインがあんなに止めてきた理由を理解する。
 そうか、あの男はこの展開を……もっといえば商会から縁を切られることさえ想像していたのだと。

「ふざけるな、もっと私にしっかり教えなかったのだ、あいつは……!」

 肝心なことはなにも言わず、ただ無駄に消えたカインを、私は思わずののしる。
 しかし、そんなことをいっても現実が変わるわけではないことを私は理解していた。
 もう、かつてないこの最悪の事態を変分かることはないのだ。

 辺境貿易でさえ危うい状況である屋敷に、責任者の一人たる第三王子が現れたという。

 ここで間違えれば、辺境貿易貿易は終わる。
 ……その想像に、私の背筋を冷たい汗が流れる。
 この状況で伯爵家を盛り上げてきた辺境貿易さえ取り上げられたら、一体何が起きるのか。
 私は理解せずにはいられなかった。

「……それだけは、何としても」

 震える手を握りしめ、私はそう呟く。
 その最悪の事態だけは何としてでもさけなければならない。
 大丈夫、全てをサーシャリアのせいにすれば、問題なく乗り越えられるはずだ。
 そう改めて決意を固めた私は、玄関の方へと向かう足を早める。

 ──私の背後、何者かが走ってくる音が響いたのは、その時だった。

 この緊急事態、一体何事かと私は苛立ちを隠さず振り返る。
 しかし、次の瞬間現れた想像できない人間に私は、唖然と立ち尽くすことになった。

「アルフォード様、お話しがあります!」

 なぜならこちらへと走ってきていたのは、閉じ込めていたはずのマールスだったのだから。



 ◇◇◇


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