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遠ざかる足音 (マルク視点)

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「な、笑えるだろう? 俺はそんな勘違いをしていたんだ。……サーシャリアが追いつめられてたその瞬間まで気付かなかったくせに」

「……アルフォード」

「それどころか、俺は愚かにも俺たちの存在がサーシャリアの心の支えになると思いこんでいたんだよ。本当にどうしようもない」

 そう告げ、軽く笑ってアルフォードは告げる。

「……実際は、サーシャリアにとって負担にしかないというのにな」

 その言葉を聞きながら、俺はなにもいえなかった。
 サーシャリアを看病する日々の中、アルフォードはこうして徐々に理解させられてきたのだ。
 ……自分の判断が裏目となっていたかもしれないことを。

「だから、俺はもう間違えない」

 そして、それこそが頑なにアルフォードが自身を犠牲にしようとする理由だと俺は理解する。

「たとえ俺が嫌われたとしても、伯爵家が今後サーシャリアに関われないよう、徹底的に潰してみせる」

「……待てよ、アルフォード」

 ──それと同時に、俺はアルフォードの暴走を許してはならないことにも気付いていた。

「本当にそう思いこんでいるのか?」

「何の話だ?」

 なにを言っているのか分からない、そんな表情をしたアルフォードの胸ぐらをつかみ、俺は叫ぶ。

「そんなことある訳ないだろうが!」

「ま、マルク!?」

 突然のことに驚くリーリアにも答えず、俺はさらに続ける。

「たとえ嫌われたとしてだと? そんな簡単にサーシャアリがお前への思いを断ち切れるわけがないだろうが!」

 確かに、サーシャリアは今アルフォードの思いを受け入れられるほどの余裕がないことは確かだろう。
 それほどの衝撃を受けるほどにサーシャリアにとって伯爵家は大きな存在で、それをアルフォードが見誤っていたのも間違いとはいえない。

 だからといって、アルフォードが全ての罪をかぶろうとするのが正解であるわけがなかった。
 その思いを込めて俺は叫ぶ。

「サーシャリアがお前のことを何とも思ってないわけがないだろうが!」

 しかし、そう俺がアルフォードを睨んでいられたのはそのときまでだった。

「……そうなら、良かったのに」

「っ!」

 アルフォードの心からの呟き。
 それを聞いて、俺は悟る。

 ……どれだけ言葉を重ねようようが、今のアルフォードに伝わることはないと。

 俺の力が緩んだのに気付いたアルフォードは、俺の手を取り払って離れる。

「どちらにせよ、ここまでくれば伯爵家から手を引くわけにはいかない。伯爵家を潰すのだけは協力してもらうぞ」

 それだけつげ、アルフォードは俺たちに背を向け、扉の方と歩き出す。 けれど、部屋を出る直前でアルフォードは足を止めた。

「……後処理はする。だから、後は頼んだ」

 それれが何のことを指すのか、俺には容易に理解できた。

「アルフォード!」

 その瞬間、俺は反射的に口を開くが、その前にアルフォードは部屋を出ていく。
 まるで言葉を聞くのを拒むように、足音は部屋から遠ざかっていく。

「……気づけよ、馬鹿が。サーシャリアを支えられるのはお前だけなのに!」

 もう聞く気はないのだと理解しつつも、俺は扉へと叫ぶ。

「遅くなったとしても、お前だけは間に合っていただろうが……」

 もう足音さえ聞こえなかった。
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