上 下
106 / 169

凍えきった表情 (ソシリア視点)

しおりを挟む
「……やけに遅かったな」

 ようやく会議室に行くと、そこではあきれ顔のアルフォードが待っていた。
 なかなかこない私達に暇を持て余していたのか、その手には半分ほど開かれた書類が握られている。
 しかし、そうしてアルフォードが気の抜けた姿をさらしていたのは、わずかな時間だった。

「まあいい。とにかく、伯爵家についてだ」

 次の瞬間、そう立ち上がったアルフォードは、ピリピリとした緊張感をまとっていた。
 その緊張感に影響されるように、私達も無言で用意されたいすに座る。
 それを確認して、アルフォードは口を開く。

「まず、はじめに言っておくが、明日明後日には伯爵家に攻撃を仕掛ける」

「……なっ!」

 その言葉には、マルクとリーリアだけではなく、私も衝撃を隠すことができなかった。

「待て、準備は……」

「言っただろう、待っていたと。マーク達以外の準備はもうすでに終わっている」

「そ、ソシリア?」

「……ええ、アルフォードの言っていることは本当よ」

 私は、困惑したリーリアにそう断言する。
 昨日、ほとんど会議せずに解散したのも、やることがほとんどなかったからにすぎない。

 ……だが、そう事情を知っている私も、アルフォードの言葉には、衝撃を隠すことができなかった。

 そう、確かに不可能ではないのだ。
 やろうと思えば、問題なく伯爵家をつぶせる準備を私達は整えてきた。
 それでも、余りに急な決定ではないかと、私でさえ思わずにはいられない。
 そんな私達の内心を見抜いたように、アルフォードは口を開く。

「今伯爵家をつぶしておかないといけない。……あいつらが、またサーシャリアに関わろうとする前に」

「……っ!」

 私の目が覚めたのは、その瞬間だった。
 そうだ、あの伯爵家はいつかサーシャリアにまた関わろうとする。
 その前に、つぶさなければならない。
 私と同じように、リーリアもその表情に決意をみなぎらせている。
 マルクが遠慮がちに口を開いたのは、そのときだった。

「待ってくれ、サーシャリアには伝えないままいくのか?」

 ……私が、あることを共有し忘れていたことに気づいたのは、そのときだった。
 そう、偽装婚約ともう一つアルフォードが認めないことがあったことを。
 私はとっさになにか言おうとするが、その前にアルフォードが口を開いた。

「だめだ、サーシャリアには絶対に伝えない」

 ──表情が消え去った凍えるような目で。
しおりを挟む
感想 333

あなたにおすすめの小説

完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)
恋愛
妻が余命宣告を受けた、愛人を抱える夫は小躍りするのだが……

どーでもいいからさっさと勘当して

恋愛
とある侯爵貴族、三兄妹の真ん中長女のヒルディア。優秀な兄、可憐な妹に囲まれた彼女の人生はある日をきっかけに転機を迎える。 妹に婚約者?あたしの婚約者だった人? 姉だから妹の幸せを祈って身を引け?普通逆じゃないっけ。 うん、まあどーでもいいし、それならこっちも好き勝手にするわ。 ※ザマアに期待しないでください

ブラック宮廷から解放されたので、のんびりスローライフを始めます! ~最強ゴーレム使いの気ままな森暮らし~

ヒツキノドカ
ファンタジー
「クレイ・ウェスタ―! 貴様を宮廷から追放する!」  ブラック宮廷に勤めるゴーレム使いのクレイ・ウェスターはある日突然クビを宣告される。  理由は『不当に高い素材を買いあさったこと』とされたが……それはクレイに嫉妬する、宮廷魔術師団長の策略だった。  追放されたクレイは、自由なスローライフを求めて辺境の森へと向かう。  そこで主人公は得意のゴーレム魔術を生かしてあっという間に快適な生活を手に入れる。    一方宮廷では、クレイがいなくなったことで様々なトラブルが発生。  宮廷魔術師団長は知らなかった。  クレイがどれほど宮廷にとって重要な人物だったのか。  そして、自分では穴埋めできないほどにクレイと実力が離れていたことも。  「こんなはずでは……」と嘆きながら宮廷魔術師団長はクレイの元に向かい、戻ってくるように懇願するが、すでに理想の生活を手に入れたクレイにあっさり断られてしまう。  これはブラック宮廷から解放された天才ゴーレム使いの青年が、念願の自由なスローライフを満喫する話。 ーーーーーー ーーー ※4/29HOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝! ※推敲はしていますが、誤字脱字があるかもしれません。 見つけた際はご報告いただけますと幸いです……

私を家から追い出した妹達は、これから後悔するようです

天宮有
恋愛
 伯爵令嬢の私サフィラよりも、妹エイダの方が優秀だった。  それは全て私の力によるものだけど、そのことを知っているのにエイダは姉に迷惑していると言い広めていく。  婚約者のヴァン王子はエイダの発言を信じて、私は婚約破棄を言い渡されてしまう。  その後、エイダは私の力が必要ないと思い込んでいるようで、私を家から追い出す。  これから元家族やヴァンは後悔するけど、私には関係ありません。

婚約者は幼馴染みを選ぶようです。

香取鞠里
恋愛
婚約者のハクトには過去に怪我を負わせたことで体が不自由になってしまった幼馴染がいる。 結婚式が近づいたある日、ハクトはエリーに土下座して婚約破棄を申し出た。 ショックではあったが、ハクトの事情を聞いて婚約破棄を受け入れるエリー。 空元気で過ごす中、エリーはハクトの弟のジャックと出会う。 ジャックは遊び人として有名だったが、ハクトのことで親身に話を聞いて慰めてくれる。 ジャックと良い雰囲気になってきたところで、幼馴染みに騙されていたとハクトにエリーは復縁を迫られるが……。

私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。 優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。 でもそれは偽りだった。 お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。 お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。 心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。 私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。 こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら… ❈ 作者独自の世界観です。 ❈ 作者独自の設定です。 ❈ ざまぁはありません。

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

兄を溺愛する母に捨てられたので私は家族を捨てる事にします!

ユウ
恋愛
幼い頃から兄を溺愛する母。 自由奔放で独身貴族を貫いていた兄がようやく結婚を決めた。 しかし、兄の結婚で全てが崩壊する事になった。 「今すぐこの邸から出て行ってくれる?遺産相続も放棄して」 「は?」 母の我儘に振り回され同居し世話をして来たのに理不尽な理由で邸から追い出されることになったマリーは自分勝手な母に愛想が尽きた。 「もう縁を切ろう」 「マリー」 家族は夫だけだと思い領地を離れることにしたそんな中。 義母から同居を願い出られることになり、マリー達は義母の元に身を寄せることになった。 対するマリーの母は念願の新生活と思いきや、思ったように進まず新たな嫁はびっくり箱のような人物で生活にも支障が起きた事でマリーを呼び戻そうとするも。 「無理ですわ。王都から領地まで遠すぎます」 都合の良い時だけ利用する母に愛情はない。 「お兄様にお任せします」 実母よりも大事にしてくれる義母と夫を優先しすることにしたのだった。

処理中です...