上 下
58 / 169

崩壊を止められるのは (アメリア視点)

しおりを挟む
「どういうことだ、なぜ見つからない!」

 保管庫から響いてきた父の声。
 それを聞き、私は小さくため息をもらした。

「……やっと気づいたのね」

 父はしらないだろう。
 伯爵家の異常に気づいていなかったのは、父だけだということを。

 ……使用人はおろか、あの母でさえ伯爵家を取り巻く状況がおかしくなっていることに気づいていたのだから。

「いえ、この場合は気づかなかったお父様がおかしかったのかも知れないけど」

 何せ今、伯爵家の事業はほとんど停止しているのだ。
 お姉さまがいなくなろうとも、それで仕事がなくなる訳じゃない。
 そんな中、勝手に仕事を勝手に仕事を停止すれば、反感を買うのは当たり前だった。

 ……伯爵家の事業が信用で成り立っていたことを考えれば、契約を打ち切られるのも当然の話だ。

 カインと手を切る、その話に危機感を抱いて勉強したことで、私にもそれだけのことが理解できた。
 けれど、私はあくまで少しだけ理解できるようになっただけ。
 どうすればこの状況を打開できるのかなんて、さっぱり分からなかった。
 そしてそれは、おびえるだけの母も、今になって危機に気づいたような父も同じだろう。

 一体誰ならばこの状況を打開できる?

 ……私が廊下を横切る血のつながらない義弟の背中に気づいたのは、その時だった。
 その背中を追いかけて、私は呼び止める。

「……っ! マールス!」

 そう呼びかけながら、私は思う。
 なぜ、この義弟の存在を忘れていたのかと。

 実のところ、私がマールスの存在を忘れていたのには理由があった。
 というのも、マールスは最近ほとんど屋敷にいなかったのだ。
 そして、その理由が私の希望を更に煽る。

 ──もしかしたら、マールスは何か動いているのではないかと。

 マールスは決して馬鹿ではない。
 この状況の危険については良く理解しているだろう。
 この外出もただ遊んでいただけだとは思えない。
 とにかく、いつものように言いつけてマールスにこの問題を解決させよう。

 ……けれど、そう私が浮かれていられたのは僅かな時間だけだった。

「ああ、アメリア姉さんか。何のよう?」

「……っ!」

 振り返ったマールス。
 それを目にして、私は思わず固まる。

 一見、マールスはいつも通りだった。
 けれど、私は感じる。
 今のマールスはいつもと違うと。

 そして、その私の考えは正解だった。

「何のようかはしらないけど、できれば手短にお願いするね」

 私を冷ややかに見つめながら、マールスは淡々と告げる。

「僕は、サーシャリア姉様を冷遇していたアメリア姉さんとは、できるだけ話したくないから」

 ……瞬間、私はマールスの変貌に絶句することになった。
しおりを挟む
感想 333

あなたにおすすめの小説

どーでもいいからさっさと勘当して

恋愛
とある侯爵貴族、三兄妹の真ん中長女のヒルディア。優秀な兄、可憐な妹に囲まれた彼女の人生はある日をきっかけに転機を迎える。 妹に婚約者?あたしの婚約者だった人? 姉だから妹の幸せを祈って身を引け?普通逆じゃないっけ。 うん、まあどーでもいいし、それならこっちも好き勝手にするわ。 ※ザマアに期待しないでください

ブラック宮廷から解放されたので、のんびりスローライフを始めます! ~最強ゴーレム使いの気ままな森暮らし~

ヒツキノドカ
ファンタジー
「クレイ・ウェスタ―! 貴様を宮廷から追放する!」  ブラック宮廷に勤めるゴーレム使いのクレイ・ウェスターはある日突然クビを宣告される。  理由は『不当に高い素材を買いあさったこと』とされたが……それはクレイに嫉妬する、宮廷魔術師団長の策略だった。  追放されたクレイは、自由なスローライフを求めて辺境の森へと向かう。  そこで主人公は得意のゴーレム魔術を生かしてあっという間に快適な生活を手に入れる。    一方宮廷では、クレイがいなくなったことで様々なトラブルが発生。  宮廷魔術師団長は知らなかった。  クレイがどれほど宮廷にとって重要な人物だったのか。  そして、自分では穴埋めできないほどにクレイと実力が離れていたことも。  「こんなはずでは……」と嘆きながら宮廷魔術師団長はクレイの元に向かい、戻ってくるように懇願するが、すでに理想の生活を手に入れたクレイにあっさり断られてしまう。  これはブラック宮廷から解放された天才ゴーレム使いの青年が、念願の自由なスローライフを満喫する話。 ーーーーーー ーーー ※4/29HOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝! ※推敲はしていますが、誤字脱字があるかもしれません。 見つけた際はご報告いただけますと幸いです……

私を家から追い出した妹達は、これから後悔するようです

天宮有
恋愛
 伯爵令嬢の私サフィラよりも、妹エイダの方が優秀だった。  それは全て私の力によるものだけど、そのことを知っているのにエイダは姉に迷惑していると言い広めていく。  婚約者のヴァン王子はエイダの発言を信じて、私は婚約破棄を言い渡されてしまう。  その後、エイダは私の力が必要ないと思い込んでいるようで、私を家から追い出す。  これから元家族やヴァンは後悔するけど、私には関係ありません。

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

兄を溺愛する母に捨てられたので私は家族を捨てる事にします!

ユウ
恋愛
幼い頃から兄を溺愛する母。 自由奔放で独身貴族を貫いていた兄がようやく結婚を決めた。 しかし、兄の結婚で全てが崩壊する事になった。 「今すぐこの邸から出て行ってくれる?遺産相続も放棄して」 「は?」 母の我儘に振り回され同居し世話をして来たのに理不尽な理由で邸から追い出されることになったマリーは自分勝手な母に愛想が尽きた。 「もう縁を切ろう」 「マリー」 家族は夫だけだと思い領地を離れることにしたそんな中。 義母から同居を願い出られることになり、マリー達は義母の元に身を寄せることになった。 対するマリーの母は念願の新生活と思いきや、思ったように進まず新たな嫁はびっくり箱のような人物で生活にも支障が起きた事でマリーを呼び戻そうとするも。 「無理ですわ。王都から領地まで遠すぎます」 都合の良い時だけ利用する母に愛情はない。 「お兄様にお任せします」 実母よりも大事にしてくれる義母と夫を優先しすることにしたのだった。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

処理中です...