28 / 169
ソシリアの怒り
しおりを挟む
私の言葉を聞いてしばらく、ソシリアは無言で立ち尽くしていた。
けれど、ゆっくりと笑い始める。
「ふ、ふふ。本当にとんでもないことをしてくれたわね……」
そんなソシリアを前に私は俯くことしかできない。
今さらながら、自分がなんてものをとられてしまったのか知っても、後悔することしかできない。
「ごめんなさい。そのときに同じく取られた生徒会の制服にばかり気が取られていて。……それも取り返せなかったのだけれども」
俯いているせいで、ソシリアの顔は見えない。
それでも、伝わってくる雰囲気から、ソシリアの怒りは充分に理解できる。
「貴女が謝ることではないわ」
だが、その雰囲気に反してソシリアの言葉は優しかった。
声に反応し、思わず顔を上げた私にソシリアは微笑む。
「私が怒っているのは、サーシャリアじゃなく伯爵家よ。王妃様の宣言を知らないはずないのに、好き勝手しているね」
ほほえみで隠しきれない怒気を露わにしつつ、ソシリアはそう告げる。
「王妃様が与えたバッジを取る? 一体何を考えればそんなことができるのかしら? ほんっとうに救いようがないわね!」
最早、笑顔を取り繕う余裕もなく、ソシリアは一気にまくし立てる。
しかし、その途中で満面の笑みを浮かべ告げた。
「──まあ、これからは相当見物だろうなのが救いね」
「……え?」
思わず声を上げた私に、ソシリアは告げる。
「当たり前の話でしょ。サーシャリアがいない状態で、カルベスト家の事業なんてほとんど成り立たないじゃない」
「……さすがに、貴族同士の事業がそう簡単に取り消されることなんて」
「あのね、貴女がいなくなる時点で充分一大事なのよ」
そう告げるソシリアの目に浮かぶのは、心底呆れたような視線。
「王妃様のお気に入り、黄金の生徒会の中心人物、辺境発展の第一人者。これ、何か分かる?」
「……いいえ」
嫌な予感を覚えつつも首を振ると、ソシリアは悪そうかつ、非常に楽しげな表情で告げる。
「全部、貴女の異名よ」
「う、嘘?」
「本当よ」
過剰としか思えない名前に愕然とする私を楽しそうに見ながら、ソシリアは続ける。
「とにかく、サーシャリアはそれだけ評価されているの。だから、貴女がいなくなればカルベスト家に注目する人間なんていなくなるに決まっているわ」
そう言われても、私はどこか信じられなかった。
異名が嘘だと思っているわけじゃない、それでも本当に自分がそれだけ評価されていると思えない。
ソシリアは、そんな私の頭を優しく撫でてくれた。
「……いえ、こんな話をしてもなんの意味もないわね。サーシャリア、貴女はただゆっくり休んでいればいいの。また、生徒会のメンバーも集まってくるわ。そうしたら、昔みたいに皆で集まりましょう」
それは、まるで子供に対するような態度。
そうと分かるのに、何故かとても心地よかった。
まるで甘えるように、私は無言でソシリアに頷く。
──その瞬間私は、カインのことを忘れていることにさえ、気づいていなかった。
けれど、ゆっくりと笑い始める。
「ふ、ふふ。本当にとんでもないことをしてくれたわね……」
そんなソシリアを前に私は俯くことしかできない。
今さらながら、自分がなんてものをとられてしまったのか知っても、後悔することしかできない。
「ごめんなさい。そのときに同じく取られた生徒会の制服にばかり気が取られていて。……それも取り返せなかったのだけれども」
俯いているせいで、ソシリアの顔は見えない。
それでも、伝わってくる雰囲気から、ソシリアの怒りは充分に理解できる。
「貴女が謝ることではないわ」
だが、その雰囲気に反してソシリアの言葉は優しかった。
声に反応し、思わず顔を上げた私にソシリアは微笑む。
「私が怒っているのは、サーシャリアじゃなく伯爵家よ。王妃様の宣言を知らないはずないのに、好き勝手しているね」
ほほえみで隠しきれない怒気を露わにしつつ、ソシリアはそう告げる。
「王妃様が与えたバッジを取る? 一体何を考えればそんなことができるのかしら? ほんっとうに救いようがないわね!」
最早、笑顔を取り繕う余裕もなく、ソシリアは一気にまくし立てる。
しかし、その途中で満面の笑みを浮かべ告げた。
「──まあ、これからは相当見物だろうなのが救いね」
「……え?」
思わず声を上げた私に、ソシリアは告げる。
「当たり前の話でしょ。サーシャリアがいない状態で、カルベスト家の事業なんてほとんど成り立たないじゃない」
「……さすがに、貴族同士の事業がそう簡単に取り消されることなんて」
「あのね、貴女がいなくなる時点で充分一大事なのよ」
そう告げるソシリアの目に浮かぶのは、心底呆れたような視線。
「王妃様のお気に入り、黄金の生徒会の中心人物、辺境発展の第一人者。これ、何か分かる?」
「……いいえ」
嫌な予感を覚えつつも首を振ると、ソシリアは悪そうかつ、非常に楽しげな表情で告げる。
「全部、貴女の異名よ」
「う、嘘?」
「本当よ」
過剰としか思えない名前に愕然とする私を楽しそうに見ながら、ソシリアは続ける。
「とにかく、サーシャリアはそれだけ評価されているの。だから、貴女がいなくなればカルベスト家に注目する人間なんていなくなるに決まっているわ」
そう言われても、私はどこか信じられなかった。
異名が嘘だと思っているわけじゃない、それでも本当に自分がそれだけ評価されていると思えない。
ソシリアは、そんな私の頭を優しく撫でてくれた。
「……いえ、こんな話をしてもなんの意味もないわね。サーシャリア、貴女はただゆっくり休んでいればいいの。また、生徒会のメンバーも集まってくるわ。そうしたら、昔みたいに皆で集まりましょう」
それは、まるで子供に対するような態度。
そうと分かるのに、何故かとても心地よかった。
まるで甘えるように、私は無言でソシリアに頷く。
──その瞬間私は、カインのことを忘れていることにさえ、気づいていなかった。
1
お気に入りに追加
7,698
あなたにおすすめの小説
前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る
花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。
その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。
何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。
“傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。
背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。
7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。
長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。
守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。
この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。
※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。
(C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。
成人したのであなたから卒業させていただきます。
ぽんぽこ狸
恋愛
フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。
すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。
メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。
しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。
それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。
そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。
変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
酒の席での戯言ですのよ。
ぽんぽこ狸
恋愛
成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。
何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。
そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。
妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる