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婚約破棄
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「……すまない、サーシャリア。私との婚約をなかったことにしてくれ」
想像もしていないそんな言葉を私が送られたのは、日が暮れた時間。
奮発して赴いたレストランでのことだった。
私は呆然と声の主である婚約者、侯爵令息カインの顔を見上げる。
そんな私の視線に、居心地が悪そうに顔を俯かせながら、それでも彼がその言葉を訂正することはなかった。
そんな彼の姿に、どんどんと不安が胸に広がっていくのを感じながら、私は尋ねる。
「ど、どうして? 私が何か悪かったの? それなら、私直すから!」
そう言いながら、私はまだ希望を抱いていた。
それなら、と言ってカインが婚約破棄を撤回してくれることを。
けれど、そんな望みが叶うことはなかった。
「違う。君が悪いわけじゃない」
「なら、どうして」
「……好きな人が、できてしまったんだ」
まるで想像もしていなかった理由に、私は唇を噛み締める。
今までのことを思い返しても、カインの態度の変化はなかった。
どうして、いつ、一体誰?
そんな思考が頭に過ぎるが、すぐに私は頭からそんな考えを振り払う。
とにかく今は、婚約破棄を撤回させることこそが最優先だ。
「待って、カイン。そんなこと言われても、私の一存では決められないわ。これは家同士の取り決めよ」
その瞬間、カインの顔が曇る。
それを、婚約破棄ができないと気づいたからの反応だと判断した私は、さらに説得を続ける。
「ね、もう少しゆっくり考えましょう。少なくとも、お父様達、カルベスト伯爵家が婚約破棄を了承するわけがないわ」
何とかして、婚約破棄を取り消そうとする両親の姿、それを私は容易に想像できた。
カインも想像できたのか、さらに顔を歪める。
普段ならば、決して好きではない二人だが、今だけは感謝する。
その二人のおかげで、カインを思いとどまらせることができるのだから。
しかし、その私の判断は大きな勘違いだった。
「……大丈夫、それについては問題ないよ」
「え?」
その判断の理由が分からずカインを見つめるが、その理由を彼が話すことはなかった。
ただ、カインは顔を俯かせたまま告げる。
「本当に、すまない」
その様子にカインが本気だと理解した私は、混乱しつつも考える。
どうして、私の両親の厄介さを知るカインが、こんな行動に出たのかと。
婚約破棄など、絶対にあの二人が許すわけがないのに。
……いや、もしかしたら。
ふと、ある考えが私の頭に浮かんだのはその時だった。
その考えがあっていれば、カインが両親が問題ないと判断するのも理解できた。
何せ、両親は彼女を責めることはほとんどないのだから。
しかし、すぐに私はその考えを否定する。
その考えが正しいことに薄々気づきながらも、認めたくなくて。
想像している答えを否定して欲しくて、私はカインに問いかける。
「相手は、誰なの?」
「……伯爵令嬢、アメリア・カルベスト」
だが、その答えは無慈悲なものだった。
「君の妹だ」
呆然とその言葉を聞きながら、私は悟る。
──とうとう妹に、婚約者まで奪われたことを。
◇◇◇
この度、久々に新連載を始めます。
中編程度で終わらせられたらいいなぁ。
明日のお昼に次話投稿予定です。
(追伸)投稿直後にタイトル変更申し訳ありません。
想像もしていないそんな言葉を私が送られたのは、日が暮れた時間。
奮発して赴いたレストランでのことだった。
私は呆然と声の主である婚約者、侯爵令息カインの顔を見上げる。
そんな私の視線に、居心地が悪そうに顔を俯かせながら、それでも彼がその言葉を訂正することはなかった。
そんな彼の姿に、どんどんと不安が胸に広がっていくのを感じながら、私は尋ねる。
「ど、どうして? 私が何か悪かったの? それなら、私直すから!」
そう言いながら、私はまだ希望を抱いていた。
それなら、と言ってカインが婚約破棄を撤回してくれることを。
けれど、そんな望みが叶うことはなかった。
「違う。君が悪いわけじゃない」
「なら、どうして」
「……好きな人が、できてしまったんだ」
まるで想像もしていなかった理由に、私は唇を噛み締める。
今までのことを思い返しても、カインの態度の変化はなかった。
どうして、いつ、一体誰?
そんな思考が頭に過ぎるが、すぐに私は頭からそんな考えを振り払う。
とにかく今は、婚約破棄を撤回させることこそが最優先だ。
「待って、カイン。そんなこと言われても、私の一存では決められないわ。これは家同士の取り決めよ」
その瞬間、カインの顔が曇る。
それを、婚約破棄ができないと気づいたからの反応だと判断した私は、さらに説得を続ける。
「ね、もう少しゆっくり考えましょう。少なくとも、お父様達、カルベスト伯爵家が婚約破棄を了承するわけがないわ」
何とかして、婚約破棄を取り消そうとする両親の姿、それを私は容易に想像できた。
カインも想像できたのか、さらに顔を歪める。
普段ならば、決して好きではない二人だが、今だけは感謝する。
その二人のおかげで、カインを思いとどまらせることができるのだから。
しかし、その私の判断は大きな勘違いだった。
「……大丈夫、それについては問題ないよ」
「え?」
その判断の理由が分からずカインを見つめるが、その理由を彼が話すことはなかった。
ただ、カインは顔を俯かせたまま告げる。
「本当に、すまない」
その様子にカインが本気だと理解した私は、混乱しつつも考える。
どうして、私の両親の厄介さを知るカインが、こんな行動に出たのかと。
婚約破棄など、絶対にあの二人が許すわけがないのに。
……いや、もしかしたら。
ふと、ある考えが私の頭に浮かんだのはその時だった。
その考えがあっていれば、カインが両親が問題ないと判断するのも理解できた。
何せ、両親は彼女を責めることはほとんどないのだから。
しかし、すぐに私はその考えを否定する。
その考えが正しいことに薄々気づきながらも、認めたくなくて。
想像している答えを否定して欲しくて、私はカインに問いかける。
「相手は、誰なの?」
「……伯爵令嬢、アメリア・カルベスト」
だが、その答えは無慈悲なものだった。
「君の妹だ」
呆然とその言葉を聞きながら、私は悟る。
──とうとう妹に、婚約者まで奪われたことを。
◇◇◇
この度、久々に新連載を始めます。
中編程度で終わらせられたらいいなぁ。
明日のお昼に次話投稿予定です。
(追伸)投稿直後にタイトル変更申し訳ありません。
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