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第76話 (アリミナ目線)
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マーガレットとハンスが去ってある程度の時間が経って雨が本降りになり始めてもなお、私は同じ場所でたたずんでいた。
雨の中、立っていたせいで身体はびしょ濡れで、ひどく冷たい。
が、それでも私はこの場所から動く気にはなれなかった。
「……そういえば、昔もこんなことがあったわね」
そんな中、私はとある記憶を思い出す。
それは、貴族になる前。
まだ平民だった時の記憶。
記憶の中の私も、今と同じように男性達に追われ、こんな路地の所に逃げ込んでいたのだ。
雨が降っても、逃げることが出来ずに。
「そうだ私は……」
私はさらに思い出す、その記憶こそが私が元平民という身分を疎むようになった理由だったことに。
だが、貴族として何不自由無い生活を過ごすうちに、その記憶は私の中で小さくなり、いつかは忘れ去っていた。
ヒロインとしての悲劇のターンは終わり、今からは、幸福になるはずだと思い込んで。
貴族として、男性に尽くされる日々を過ごしていた私にとっては、その記憶は楽しみを阻害するものでしかなかったから。
「なんで、忘れていたんだろう……」
その判断は、大きな誤りだった。
甘い言葉を囁く人間だけを信用し、今まで真に私を思って助けてくれた人を裏切った挙句、すべてを失った私は、ようやくそのことに気づく。
自分は特別な人間では、ヒロインなんて名乗れる人間ではなかった。
そのことを平民であった時の私は知っていて、それは絶対に忘れてはならない記憶だったのだ。
「私は、選ばれた人間なんかじゃなかった……」
ライルハート様に、そしてマーガレットに、愚かと言われた意味を私は理解する。
こんな思い込みで、恩人を裏切ったことを今の今まで気づかなかった私は、愚かとしか言い様がない人間であることを。
「お姉様、ごめんなさい……! ごめんなさい……!」
路地裏の中、私の謝罪の言葉が響く。
しかし、どれだけ謝罪し後悔しようが、もう既に手遅れでしかなかった……。
◇◇◇
次話からは、エピローグというか、その後の公爵家に関して書かせて頂くつもりです!
雨の中、立っていたせいで身体はびしょ濡れで、ひどく冷たい。
が、それでも私はこの場所から動く気にはなれなかった。
「……そういえば、昔もこんなことがあったわね」
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それは、貴族になる前。
まだ平民だった時の記憶。
記憶の中の私も、今と同じように男性達に追われ、こんな路地の所に逃げ込んでいたのだ。
雨が降っても、逃げることが出来ずに。
「そうだ私は……」
私はさらに思い出す、その記憶こそが私が元平民という身分を疎むようになった理由だったことに。
だが、貴族として何不自由無い生活を過ごすうちに、その記憶は私の中で小さくなり、いつかは忘れ去っていた。
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貴族として、男性に尽くされる日々を過ごしていた私にとっては、その記憶は楽しみを阻害するものでしかなかったから。
「なんで、忘れていたんだろう……」
その判断は、大きな誤りだった。
甘い言葉を囁く人間だけを信用し、今まで真に私を思って助けてくれた人を裏切った挙句、すべてを失った私は、ようやくそのことに気づく。
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こんな思い込みで、恩人を裏切ったことを今の今まで気づかなかった私は、愚かとしか言い様がない人間であることを。
「お姉様、ごめんなさい……! ごめんなさい……!」
路地裏の中、私の謝罪の言葉が響く。
しかし、どれだけ謝罪し後悔しようが、もう既に手遅れでしかなかった……。
◇◇◇
次話からは、エピローグというか、その後の公爵家に関して書かせて頂くつもりです!
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