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第73話 (アリミナ目線)

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 マーガレットの告げた、その言葉の意味は私には理解することが出来なかった。
 呆然とする私に、マーガレットは小さく告げる。

「二つ訂正させてもらうけど、まず私は別に貴女に復讐するためではないわ。……分かっているわよね、ハンス」

「……なっ!」

 自分の背後、怒りを全身に滲ませて立っている執事の姿に私が気づいたのは、その時だった。
 改めて自分の身に危険な状況に陥ったことを理解した私は、強い恐怖を覚える。
 執事は今すぐ私に襲いかかってもおかしくない程の怒りを露わにしている。

 だが、執事が私に襲いかかることはなかった。

「……覚えておけ、次にお嬢様の悪口を言えば許しはしない」

 今すぐにでも私を殺しそうなほど強く睨みながらも、執事は大人しくマーガレットの指示に従う。
 それを確認した後に、マーガレットは再度口を開いた。

「たしかに最初は貴女を恨んだこともあったけど、今の私は本気で貴女に感謝してもいいとおもっているわ」

 何か苦い記憶を思い出すように、マーガレットは顔を歪める。

「今考えれば、なんであの男の婚約者になるのを耐えられたのか分からない最低の男だったもの。そんな男から婚約破棄するよう仕向けてくれて、私の人生は大きく変わったわ」

 そう告げるマーガレットの顔は清々しく、彼女が本気でそう言っていることを私は理解する。

 マーガレットは、本気で私に恨みを抱いていないのだと。

 執事の攻撃を止めたことから考えても、マーガレットのその言葉は真実だろう。
 しかし、それを理解したからこそ、私は混乱する。

 ……私に恨みを持っていないのならば、なぜ私を探していたのか、どうしても分からなくて。

「でも、それでも次に私が言うことを破れば、私は侯爵家の全力をあげて貴女を潰すわ」

「……それは」

 次の言葉が、その理由だと判断した私は、自然と緊張を抱く。
 一体、どんな無茶振りをされても、今の自分にはまるで断る術がないことを知っているから。

「もうこれ以上、貴女の姉、アイリスに近づこうとはしないで」

「……え?」

 けれど私は、マーガレットが告げた言葉の意味を理解することができなかった。

「そう言えば、もう一つの誤解の方を教えていなかったわね」

 意味がわからず呆然とする私に、マーガレットは淡々と言葉を続ける。

「──今まで貴族達に疎まれる貴女を助けてきたのは、公爵家ではなく、アイリスよ」
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