上 下
58 / 75

第60話 (ライルハート目線)

しおりを挟む
 兄貴に案内された場所、そこは王子である俺たちの部屋さえ比にならない大きさの部屋だった。
 部屋の持ち主の権力の高さを物語るように、部屋の中には素人目でも高いとわかる、絵画や家具が並べられている。

 その男は、その部屋の中座っていた。

 さまざまな品物が並べられた部屋に負けぬ程の存在感を放つその男が、ただ者ではないことは一目で分かるだろう。
 いや、それどころかその男の存在感のせいで、部屋にある絵画の存在感が薄くなっているようにさえ感じる。

 その見るからに異常とわかるその人間こそが、俺たちの父であり、他国では覇王と揶揄される現国王バールセルトだった。

 「っ!」

 父の姿を目にした兄の目に、僅かな緊張が走る。
 が、それさえまるで気に留めず、バールセルトは俺の方へと目をやった。

 その瞬間、俺は知らず知らずのうちに手を強く握りしめていた。
 目の前の男に対する警戒だけではなく、今までの怒りや憎しみが頭の中蘇る。
 だがそれを胸のうちに押し込む。

 次の瞬間、俺はその場に跪いた。

 「ライルハート!?」

 突然の俺の行動に、兄貴が声をあげるのが聞こえる。
 今まで、バールセルトを目の敵にしていた俺が、こんな態度を取るのが信じられないのだろう。

 その兄貴と対照的に、バールセルトは俺の意図を的確に理解していた。

 「臣下の礼、か。もう自分は公爵家の人間だと、そう言いたいわけか」

 「言いたいもなにも、それが事実でしょう」

 「ハッ。あれだけ反抗していたお前が素直に頭を下げるのも、中々いい光景だな」

 そう言って笑うバールセルトに、俺は怒りを覚える。
 出来れば、今すぐ立ち上がってバールセルトを殴り倒したいと思うほどに。
 とはいえ、この俺の態度を見て満足して引き下がってくれるなら、望んでもいない状況だ。
 そう考え、必死に唇を噛み締めて怒りを抑える。

 しかし、そう上手く話が進むわけがなかった。

 「だが、その程度で俺がお前を許すと思ったか?」

 バールセルトの雰囲気が変わった。
 まさに覇王と呼ぶべき威圧感が、バールセルトの身体から溢れ出す。

 「人の計画を潰しておいて、なんのお咎めなしで済むと本気で思っていたのか?」

 「ち、父上……」

 「黙れ。お前は口を出すな」

 「っ!」

 援護をしてくれようとした兄貴を、目もやらずに黙らせ、バールセルトは俺をさらに強く睨む。
 どうやら、今回に関してはバールセルトもお怒りらしい。

 とはいえ、それは予想できたことだった。
 何せ、俺はバールセルトが長期に渡って企んで来たことを、全て台無しにしたのだから。

 無能であったアレスルージュが、今まで公爵家当主の座にあったのは何故か。
 何故、王家に対する敬意が薄いアレスルージュを、バールセルトが放置していたか。

 それは全て、バールセルトの計画のための布石だった。
 そのために、俺は今までアレスルージュに手を出せなかった。
 裏から手を回してはいたが、アレスルージュを引きずり落とすにはあと数年がいるはずだった。
 けれども今回、俺は強引にアレスルージュを破滅させた。
 その結果、俺へバールセルトの計画を潰すことになった。

 ──そう、敢えて公爵家に反乱を起こさせるという、計画を。

 ◇◇◇

 《あとがきとお礼》

 この度は長々と更新停止してしまい、申し訳ありません……
 実は花粉症の免疫が下がった時に風邪を引いてしまったようで、大分酷いことになってました……
 杉もヒノキも許さない……

 そんなことがありましたが、何とか回復してきたので更新を再開させていただきます!
 花粉症と風邪のせいで、予定が詰まっており、更新できない日もあるかもしれませんが、頑張らせていただきます!
 そして、数々のお気遣いのお言葉ありがとうございます!
 とても心の支えとなりました!
 改めて、これからよろしくお願いします!

 《追伸》

近況報告で、最近読んだ名作を「魔王様観察日記」を紹介しているので、興味があれば……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。 彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。 それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。 そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。 公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。 そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。 「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」 こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。 彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。 同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。

ご主人様、どうか平和に離縁してください!〜鬼畜ヤンデレ絶倫騎士に溺愛されるのは命がけ〜

蓮恭
恋愛
 初めて受けた人間ドック。そこで末期の子宮がん、それに肺転移、リンパ節にも転移している事が分かった美桜(ミオ)は、仕事に生きた三十七歳の会社員。  会社員時代に趣味と化していた貯金一千万円も、もう命もわずかとなった今となっては使い道もない。    余命僅かとなった美桜の前に現れたのは、死神のテトラだった。 「おめでとうございます、進藤美桜さん! あなたは私達の新企画、『お金と引き換えに第二の人生を歩む権利』を得たのです! さあ、あなたは一千万円と引き換えに、どんな人生をお望みですか?」  半信半疑の美桜は一千万円と引き換えに、死後は魂をそのままに、第二の人生を得ることに。  乙女ゲームにハマっていた美桜は好みのワンコ系男子とのロマンチックな恋愛を夢見て、異世界での新しい人生を意気揚々と歩み始めたのだった。  しかし美桜が出会ったのはワンコ系男子とは程遠い鬼畜キャラ、デュオンで……⁉︎  そして新たに美桜が生きて行く場所は、『愛人商売』によって多くの女性達が生き抜いていく国だった。  慣れない異世界生活、それに鬼畜キャラデュオンの愛人として溺愛(?)される日々。  人々から悪魔と呼ばれて恐れられるデュオンの愛人は、いくら命があっても足りない。  そのうちデュオンの秘密を知る事になって……⁉︎          

ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?

望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。 ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。 転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを―― そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。 その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。 ――そして、セイフィーラは見てしまった。 目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を―― ※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。 ※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)

【R18】らぶえっち短編集

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
調べたら残り2作品ありました、本日投稿しますので、お待ちくださいませ(3/31)  R18執筆1年目の時に書いた短編完結作品23本のうち商業作品をのぞく約20作品を短編集としてまとめることにしました。 ※R18に※ ※毎日投稿21時~24時頃、1作品ずつ。 ※R18短編3作品目「追放されし奴隷の聖女は、王位簒奪者に溺愛される」からの投稿になります。 ※処女作「清廉なる巫女は、竜の欲望の贄となる」2作品目「堕ちていく竜の聖女は、年下皇太子に奪われる」は商業化したため、読みたい場合はムーンライトノベルズにどうぞよろしくお願いいたします。 ※これまでに投稿してきた短編は非公開になりますので、どうぞご了承くださいませ。

悪意か、善意か、破滅か

野村にれ
恋愛
婚約者が別の令嬢に恋をして、婚約を破棄されたエルム・フォンターナ伯爵令嬢。 婚約者とその想い人が自殺を図ったことで、美談とされて、 悪意に晒されたエルムと、家族も一緒に爵位を返上してアジェル王国を去った。 その後、アジェル王国では、徐々に異変が起こり始める。

公爵令嬢ディアセーラの旦那様

cyaru
恋愛
パッと見は冴えないブロスカキ公爵家の令嬢ディアセーラ。 そんなディアセーラの事が本当は病むほどに好きな王太子のベネディクトだが、ディアセーラの気をひきたいがために執務を丸投げし「今月の恋人」と呼ばれる令嬢を月替わりで隣に侍らせる。 色事と怠慢の度が過ぎるベネディクトとディアセーラが言い争うのは日常茶飯事だった。 出来の悪い王太子に王宮で働く者達も辟易していたある日、ベネディクトはディアセーラを突き飛ばし婚約破棄を告げてしまった。 「しかと承りました」と応えたディアセーラ。 婚約破棄を告げる場面で突き飛ばされたディアセーラを受け止める形で一緒に転がってしまったペルセス。偶然居合わせ、とばっちりで巻き込まれただけのリーフ子爵家のペルセスだが婚約破棄の上、下賜するとも取れる発言をこれ幸いとブロスカキ公爵からディアセーラとの婚姻を打診されてしまう。 中央ではなく自然豊かな地方で開拓から始めたい夢を持っていたディアセーラ。当初は困惑するがペルセスもそれまで「氷の令嬢」と呼ばれ次期王妃と言われていたディアセーラの知らなかった一面に段々と惹かれていく。 一方ベネディクトは本当に登城しなくなったディアセーラに会うため公爵家に行くが門前払いされ、手紙すら受け取って貰えなくなった。焦り始めたベネディクトはペルセスを罪人として投獄してしまうが…。 シリアスっぽく見える気がしますが、コメディに近いです。 痛い記述があるのでR指定しました。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません。

【R18】両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が性魔法の自習をする話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 「両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が初めてのエッチをする話」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/575414884/episode/3378453 の続きです。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

【完結】え、別れましょう?

須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」 「は?え?別れましょう?」 何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。  ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?  だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。   ※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。 ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

処理中です...