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第49話

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 想像もしない言葉に、呆然と顔を上げた私の目に映ったのは、優しい笑顔で私の頭に手を置くライルハート様の姿だった。

「そんな頼み、俺が聞くわけがないだろうが」

 ライルハート様は、そんな私に構うことなく私の左手を取る。

 「え……?」

 戸惑う私に柔らかく微笑みながら、ライルハート様が触れたのは左手の薬指にはめた指輪だった。
 それは、先程ライルハート様から貰った大切な指輪。
 それに触れながら、ライルハート様は私の耳元で口を開いた。

 「重いと言われようが、その指輪をはめた時点で、俺はもうアイリスと生涯共にいると決めている」

 その言葉を聞いた瞬間、私は思わず涙を流しそうになった。
 それが、何より自分が求めていた答えだと分かったから。
 ……だからこそ、私はライルハート様を恨まざるをえない。

 何故、もうどうしようもない今になって、私を迷わせるようなことを口にするのかと。

 「だから、そんな簡単に俺から離れられると思うな」

 「………っ!」

 唇を血が滲むほど強くかみ、鉄の味が口の中に広がる。
 簡単なこと、そんな訳があるはずが無かった。

 私がどれだけ悩んだのか、ライルハート様には分からない。
 そんな思いが、感情が爆発する。

 「簡単な訳、ない!もう側にいれないと思って私がどれだけ助けてと言いそうになったのか、知らない癖に!」

 気づけば、私の口は意に反して言葉を紡いでいた。

「それでも私は、ライルハート様の障害になんてなりたくないんです!だからお願いです。私が自分の思いを押し込んでいるうちに、早く……!」

 それはどうしようもない無様な弱音で、それでもライルハート様は何も言わなかった。
 ただ、無言で私の言葉を聞き、それからひどく嬉しそうに笑った。

「本当に馬鹿だな、アイリスは」

 そう言って、ライルハート様は私を優しく抱きしめる。
 まるで、何も心配ないと言いたげに。

 ……それだけで、弱い私はもう何も言えなくなってしまう。

 「俺の側にいたいと思ってくれているなら。いや、俺のために何かしてくれようとしているなら、そんなぐだぐだ悩う必要なんてないだろうが」

 一瞬、私はそのライルハート様の笑みに見とれてしまった。
 こんな状況の中、そんな余裕なんて一切ないと思っていた。
なのに、ライルハート様のその笑顔は今の絶望的な状況さえ、頭から抜けてしまう程輝いていて……それに戸惑う私へと、ライルハート様はなんの気負いもなくその言葉を告げた。

 「──一緒に居たい、それだけで十分だろうが」
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