33 / 75
第32話 (アリミナ目線)
しおりを挟む
「あら、ライルハート様。奇遇ですわね」
お姉様に令息達に向かわせ、ライルハート様に話しかけたあの時、私の胸にあったのは自分の幸運に対する歓喜だった。
今まで、私がライルハート様を狙っていたのは、あくまで姉への当てつけが理由でしかなかった。
だからこそ、それが済んだ後はライルハート様との婚約を解消することさえ考慮していた。
が、今のライルハート様の姿を目にして、私の中からそんな考えは消え去ることになった。
──それ程までに、今のライルハート様の姿は麗しかった。
私が前世で行なっていた乙女ゲームの攻略対象にさえ及ぶのではないか。
そう思えるほど、現在のライルハート様はイケメンだった。
もちろん、そもそも比べる対象ではないのは分かっている。
だが、そんなことさえ頭から抜けてしまう程、ライルハート様はイケメンだった。
それは私にとってまるで想像していてもいなかった事態で、同時に何よりの幸運だった。
ああ、本当に私はなんて運がいいのだろう。
この世界に特別な力を持って生まれたことも、こうしてライルハート様と結ばれる機会を得たこともそう。
まさしく私は、世界に愛された人間に違いない。
………そう思っていたからこそ、ライルハート様に置いていかれた現在、私は呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
「…嘘、でしょ」
私に振り返ることなく、真っ直ぐとテラスへと向かっていくライルハート様の姿に、私は小さく口を動かす。
今、なにが起きているのか私は理解することができなかった。
姉の不貞を男どもに装わせ、疑念を抱かせた最適なタイミングで、私はライルハート様をダンスに誘った。
それも、私の持つ魅了の力を最大に利用した状態で。
……なのに、ライルハート様はまるで私に興味を示すことはなかった。
「これは、何かの夢よ……」
その事実を信じられず、私はぶつぶつと口を動かす。
私の誘いを断る男など、今まで存在しなかった。
そう、父親でさえ私の思い通りだ。
なのに何故………。
令息達からお姉様を守るよう立ちはだかるライルハート様が見えたのは、その時だった。
「………っ!」
その光景に、ようやく私は理解させられる。
ライルハート様にとって、恋愛対象となりうるのはただ一人、お姉様だけであることを。
……彼にとっては、私でさえただの路傍の石に過ぎないことを。
それは、この世界で私が初めての敗北だった。
次の瞬間、私はその場から走り出した……。
お姉様に令息達に向かわせ、ライルハート様に話しかけたあの時、私の胸にあったのは自分の幸運に対する歓喜だった。
今まで、私がライルハート様を狙っていたのは、あくまで姉への当てつけが理由でしかなかった。
だからこそ、それが済んだ後はライルハート様との婚約を解消することさえ考慮していた。
が、今のライルハート様の姿を目にして、私の中からそんな考えは消え去ることになった。
──それ程までに、今のライルハート様の姿は麗しかった。
私が前世で行なっていた乙女ゲームの攻略対象にさえ及ぶのではないか。
そう思えるほど、現在のライルハート様はイケメンだった。
もちろん、そもそも比べる対象ではないのは分かっている。
だが、そんなことさえ頭から抜けてしまう程、ライルハート様はイケメンだった。
それは私にとってまるで想像していてもいなかった事態で、同時に何よりの幸運だった。
ああ、本当に私はなんて運がいいのだろう。
この世界に特別な力を持って生まれたことも、こうしてライルハート様と結ばれる機会を得たこともそう。
まさしく私は、世界に愛された人間に違いない。
………そう思っていたからこそ、ライルハート様に置いていかれた現在、私は呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
「…嘘、でしょ」
私に振り返ることなく、真っ直ぐとテラスへと向かっていくライルハート様の姿に、私は小さく口を動かす。
今、なにが起きているのか私は理解することができなかった。
姉の不貞を男どもに装わせ、疑念を抱かせた最適なタイミングで、私はライルハート様をダンスに誘った。
それも、私の持つ魅了の力を最大に利用した状態で。
……なのに、ライルハート様はまるで私に興味を示すことはなかった。
「これは、何かの夢よ……」
その事実を信じられず、私はぶつぶつと口を動かす。
私の誘いを断る男など、今まで存在しなかった。
そう、父親でさえ私の思い通りだ。
なのに何故………。
令息達からお姉様を守るよう立ちはだかるライルハート様が見えたのは、その時だった。
「………っ!」
その光景に、ようやく私は理解させられる。
ライルハート様にとって、恋愛対象となりうるのはただ一人、お姉様だけであることを。
……彼にとっては、私でさえただの路傍の石に過ぎないことを。
それは、この世界で私が初めての敗北だった。
次の瞬間、私はその場から走り出した……。
0
お気に入りに追加
6,526
あなたにおすすめの小説
今更ですか?結構です。
みん
恋愛
完結後に、“置き場”に後日談を投稿しています。
エルダイン辺境伯の長女フェリシティは、自国であるコルネリア王国の第一王子メルヴィルの5人居る婚約者候補の1人である。その婚約者候補5人の中でも幼い頃から仲が良かった為、フェリシティが婚約者になると思われていたが──。
え?今更ですか?誰もがそれを望んでいるとは思わないで下さい──と、フェリシティはニッコリ微笑んだ。
相変わらずのゆるふわ設定なので、優しく見てもらえると助かります。
悪役令嬢にざまぁされるのはご免です!私は壁になりました。
リオール
恋愛
伯爵家からの迎えが来たその瞬間、アイシュラは気付いてしまった。
この世界は前世で読んだ小説の世界だと。
このままでは将来、いじめ…てこない悪役令嬢…ではない、王太子の婚約者令嬢を王太子が勝手に断罪しちゃって、ざまあされちゃって…
最悪な未来しか見えてこない。
そうだ、ならば関わらなければいいのだ。
いや、むしろ仲良くなっちゃう!?
これはざまあ回避に奔走する少女のお話。
==============
ギャグです。ひたすらギャグのはずが、途中からラブコメになってきました。最初の方はまだ文章も拙く(直す時間がなくて…)蛇足な感じなので、恋愛要素が欲しい方は学園入学後の8話、または12話辺りから読んで下さい。設定ちゃんと知りたい方は最初からどうぞ(^^;)
──当初の予定が捻れ捻れて逆ハーになってきました。
※気分が高まらないと書けないため不定期連載。完全勢いで書いてるので、展開未定、完結予定無しです。
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
お幸せに、婚約者様。
ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの?
……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。
彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ?
婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。
お幸せに、婚約者様。
私も私で、幸せになりますので。
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
【完結】「父に毒殺され母の葬儀までタイムリープしたので、親戚の集まる前で父にやり返してやった」
まほりろ
恋愛
十八歳の私は異母妹に婚約者を奪われ、父と継母に毒殺された。
気がついたら十歳まで時間が巻き戻っていて、母の葬儀の最中だった。
私に毒を飲ませた父と継母が、虫の息の私の耳元で得意げに母を毒殺した経緯を話していたことを思い出した。
母の葬儀が終われば私は屋敷に幽閉され、外部との連絡手段を失ってしまう。
父を断罪できるチャンスは今しかない。
「お父様は悪くないの!
お父様は愛する人と一緒になりたかっただけなの!
だからお父様はお母様に毒をもったの!
お願いお父様を捕まえないで!」
私は声の限りに叫んでいた。
心の奥にほんの少し芽生えた父への殺意とともに。
※他サイトにも投稿しています。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
※「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※タイトル変更しました。
旧タイトル「父に殺されタイムリープしたので『お父様は悪くないの!お父様は愛する人と一緒になりたくてお母様の食事に毒をもっただけなの!』と叫んでみた」
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる