上 下
24 / 75

第23話 (ライルハート目線)

しおりを挟む
 「少し、飲み物を飲んできますね」

 そう言って離れていったアイリス。
 彼女の背中が遠くなってから、俺は深々と息を吐いた。

 「ふぅ……」

 兄貴に碌なアドバイスを抱けなかった後、俺は必死に今日の振る舞いを考えていた。
 何とか、先日の失態を償うために。

 なのに、ドレスに身を包んだアイリスを見た瞬間、頭の中が真っ白になった。

 それ程に、今日のアイリスは美しかった。
 その状態の中、俺の頭にかろうじて浮かんだのはかつて兄貴に言われた、もう少し素直になればいいのではないか、という言葉。

 ……次の瞬間、俺は馬鹿正直に天使なのだと口にしてしまっていた。

 「はあ……」

 あの時の羞恥を思い出し、俺は思わず嘆息を漏らす。
 何であの時、あんな台詞を真っ正直に言ってしまったのか、今でも後悔せずにはいられない。

 「……だが、綺麗だったな」

 ただあの台詞は、俺の嘘偽りの思い出あったのは事実だった。
 目を閉じれば、鮮明に今日のアイリスのドレス姿が思い浮かぶ。

 それに、ドレスを着たアイリスに、目を奪われていたのは俺だけではなかった。
 本人はまるで気づいていなかったが、アイリスは明らかに他の令息達からの注目を集めていた。

 「もう少し、自分のことにも意識を向ければいいのに」

 そう考えて、俺は小さく笑う。

 ……だがその笑みは、ある異常に勘付いた時消え去ることとなった。

 「……遅いな」

 飲み物を飲んでくると言ってここから去ったアイリスの帰りが、明らかに遅かった。
 飲食しているところへと目をやるが、そこにもアイリスの姿はない。

 「っ!」

 そのことに俺は無視できないだけの不信感を覚え……アイリスによく似た声が響いたのは、その時でした。

 「あら、ライルハート様。奇遇ですわね」

 胸を支配する不信感を表情に出さないように気をつけながら、声の方向を見る。
 そこにいたのは、怪しくも蠱惑的な笑みを浮かべたアイリスの義妹、アリミナの姿だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どう頑張っても死亡ルートしかない悪役令嬢に転生したので、一切頑張らないことにしました

小倉みち
恋愛
 7歳の誕生日、突然雷に打たれ、そのショックで前世を思い出した公爵令嬢のレティシア。  前世では夥しいほどの仕事に追われる社畜だった彼女。  唯一の楽しみだった乙女ゲームの新作を発売日当日に買いに行こうとしたその日、交通事故で命を落としたこと。  そして――。  この世界が、その乙女ゲームの設定とそっくりそのままであり、自分自身が悪役令嬢であるレティシアに転生してしまったことを。  この悪役令嬢、自分に関心のない家族を振り向かせるために、死に物狂いで努力し、第一王子の婚約者という地位を勝ち取った。  しかしその第一王子の心がぽっと出の主人公に奪われ、嫉妬に狂い主人公に毒を盛る。  それがバレてしまい、最終的に死刑に処される役となっている。  しかも、第一王子ではなくどの攻略対象ルートでも、必ず主人公を虐め、処刑されてしまう噛ませ犬的キャラクター。  レティシアは考えた。  どれだけ努力をしても、どれだけ頑張っても、最終的に自分は死んでしまう。  ――ということは。  これから先どんな努力もせず、ただの馬鹿な一般令嬢として生きれば、一切攻略対象と関わらなければ、そもそもその土俵に乗ることさえしなければ。  私はこの恐ろしい世界で、生き残ることが出来るのではないだろうか。

記憶を思い出した令嬢は婚約破棄して幸せを探す

ノッポ
恋愛
街中で婚約者の浮気現場を目撃した令嬢メイリーナは帰りの馬車の中で、意識を失ってしまう。 目覚めたメイリーナは前世で恋人に浮気され、失意のままトラックに跳ねられて亡くなったことを思い出す。 浮気する婚約者はいらない。婚約破棄をしたメイリーナだが、記憶を思い出した際に魔力が増幅していたことでモテモテに。 自分は見る目が無いと自覚したメイリーナは、将来困らないように、前世で身につけたエステティシャンとしての技術を活用しようと思いつく。 メイリーナのエステの技術に感激して自分の息子を押し付けてくる王妃や、婚約破棄した途端に反省して追いかけてくる元婚約者に困りながらも、自分の幸せと理想の相手を見付けたいメイリーナの物語。

婚約破棄されて追放された私、今は隣国で充実な生活送っていますわよ? それがなにか?

鶯埜 餡
恋愛
 バドス王国の侯爵令嬢アメリアは無実の罪で王太子との婚約破棄、そして国外追放された。  今ですか?  めちゃくちゃ充実してますけど、なにか?

婚約破棄、爵位剥奪、国外追放されましたのでちょっと仕返しします

あおい
恋愛
婚約破棄からの爵位剥奪に国外追放! 初代当主は本物の天使! 天使の加護を受けてる私のおかげでこの国は安泰だったのに、その私と一族を追い出すとは何事ですか!? 身に覚えのない理由で婚約破棄に爵位剥奪に国外追放してきた第2王子に天使の加護でちょっと仕返しをしましょう!

大陸一のボーイズグループ

緑谷めい
恋愛
 メロディは世話焼き気質の17歳の侯爵家令嬢だ。幼い頃から一つ年下の婚約者である第2王子パトリックの世話を焼きまくってきた。しかし、ある日とうとうパトリックから「うっとおしい」と言われてしまったのである。確かに自分は息子に纏わり付く過干渉な母親のようだった、と反省したメロディは、少しパトリックと距離を置くことにした。  そして彼女は決意した。そうだ! 大陸一のボーイズグループをプロデュースしよう! と。  メロディは、早速、自国の各地でオーディションを開催することにした――

婚約「解消」ではなく「破棄」ですか? いいでしょう、お受けしますよ?

ピコっぴ
恋愛
7歳の時から婚姻契約にある我が婚約者は、どんな努力をしても私に全く関心を見せなかった。 13歳の時、寄り添った夫婦になる事を諦めた。夜会のエスコートすらしてくれなくなったから。 16歳の現在、シャンパンゴールドの人形のような可愛らしい令嬢を伴って夜会に現れ、婚約破棄すると宣う婚約者。 そちらが歩み寄ろうともせず、無視を決め込んだ挙句に、王命での婚姻契約を一方的に「破棄」ですか? ただ素直に「解消」すればいいものを⋯⋯ 婚約者との関係を諦めていた私はともかく、まわりが怒り心頭、許してはくれないようです。 恋愛らしい恋愛小説が上手く書けず、試行錯誤中なのですが、一話あたり短めにしてあるので、サクッと読めるはず? デス🙇

このままだと身の危険を感じるので大人しい令嬢を演じるのをやめます!

夢見 歩
恋愛
「きゃあァァァァァァっ!!!!!」 自分の体が宙に浮くのと同時に、背後から大きな叫び声が聞こえた。 私は「なんで貴方が叫んでるのよ」と頭の中で考えながらも、身体が地面に近づいていくのを感じて衝撃に備えて目を瞑った。 覚悟はしていたものの衝撃はとても強くて息が詰まるような感覚に陥り、痛みに耐えきれず意識を失った。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ この物語は内気な婚約者を演じていた令嬢が苛烈な本性を現し、自分らしさを曝け出す成長を描いたものである。

お望み通りに婚約破棄したのに嫌がらせを受けるので、ちょっと行動を起こしてみた。

夢草 蝶
恋愛
 婚約破棄をしたのに、元婚約者の浮気相手から嫌がらせを受けている。  流石に疲れてきたある日。  靴箱に入っていた呼び出し状を私は──。

処理中です...