上 下
8 / 75

第7話 (ライルハート目線)

しおりを挟む
 蠱惑的に笑うアイリスの妹、アリミナ。
 俺が、彼女を誤解していたことに気づいたのは、その時だった。

 今まで、俺はアリミナに対してアイリスを困らせる厄介な義妹、という認識しか抱いていなかった。
 だが、それは大きな間違いだったのだ。

 その事実を知って、俺は笑みを顔に浮かべた……



 ◇◆◇



 「……またアイリスの義妹か」

 俺が苦々しげに言葉を漏らしたのは、王宮内の自室でのことだった。

 「幾ら公爵家でも、これだけの問題を起こせば、貴族社会でかなり立場が酷くなるだろうに」

 手に広げた冊子を読みながら、俺はそう呟く。

 手に持つ冊子に書かれてるのは、部下に調べて書かせた貴族社会の情報だった。
 俺こと第2王子ライルハートは昼行灯、役立たずと罵られており、貴族達は俺は何もせずに生きているものだと考えている。
 だが、それは貴族達の思い込みでしか無い。

 このご時世、貴族達の動向を逐一確認しておかねば、どんな面倒ごとに巻き込まれるのか分からない。
 そんな状況下で、怠惰に過ごすのはただの馬鹿だ。

 それを知るからこそ、俺は部下に命じて、常に問題を起こした貴族達の動向を探らせ、冊子にして送らせていた。
 何かあった際、いち早く動けるために。

 ……その冊子に、ある人物の名が頻繁に出てくるようになったのは、数年前からのことだった。

 その人物の名は、平民から公爵家の一員となった令嬢、アリミナ。
 俺の婚約者であるアイリスの義妹にあたる人間だ。

 彼女の起こす事件は、決まって男関係の事件だった。
 婚約者であろうがなかろうが、まるで気にせず男性に近づくアリミナが起こした事件は、最早数えきれない。

 ただ今回アリミナが起こした事件は、歴代の中でも中々重いもので、それに気づいた俺は小さく顔を歪めた。

 「アイリスは、また一人で対処する羽目になっているのだろうな」

 真面目で、責任感が人一倍あり、そしてお節介すぎる婚約者。
 彼女が疲れ切っている姿は、容易に思い描くことができた。
 またアイリスは、全て一人で抱え込もうとするに違い。
 そう考えたその時、既に俺は決めていた。

 明日アイリスの元に行くということを。

 決断した瞬間から、俺は準備に取り掛かる。
 部下を呼び出し、隠していた調理器具を取り出し、隠し通路から厨房へと向かう。
 本来ならば、王子が厨房に立つなど許されないことだが、料理人は買収済みだ。問題ない。

 それに、いざという時のための影武者として、魔法で姿を変えた部下を自室に待機させてある。
 言い訳なら、いくらでも可能だ。

 準備の最中、自分があまりにも浮かれていることに俺は気づく。
 これでは、まるでアイリスに会いたいがために、アリミナのことを口実にしたようではないかと。
 その考えを否定するよう、俺は小さく口を動かす。

 「……明日行くのは、アイリスのためだから仕方ないことだ」

 しかし緩みきった唇が、その言葉が言い訳でしかないことを何よりも雄弁に語っていた……。


◇◇◇

 注意:突っ込みどころ微レ存
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

このままだと身の危険を感じるので大人しい令嬢を演じるのをやめます!

夢見 歩
恋愛
「きゃあァァァァァァっ!!!!!」 自分の体が宙に浮くのと同時に、背後から大きな叫び声が聞こえた。 私は「なんで貴方が叫んでるのよ」と頭の中で考えながらも、身体が地面に近づいていくのを感じて衝撃に備えて目を瞑った。 覚悟はしていたものの衝撃はとても強くて息が詰まるような感覚に陥り、痛みに耐えきれず意識を失った。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ この物語は内気な婚約者を演じていた令嬢が苛烈な本性を現し、自分らしさを曝け出す成長を描いたものである。

大陸一のボーイズグループ

緑谷めい
恋愛
 メロディは世話焼き気質の17歳の侯爵家令嬢だ。幼い頃から一つ年下の婚約者である第2王子パトリックの世話を焼きまくってきた。しかし、ある日とうとうパトリックから「うっとおしい」と言われてしまったのである。確かに自分は息子に纏わり付く過干渉な母親のようだった、と反省したメロディは、少しパトリックと距離を置くことにした。  そして彼女は決意した。そうだ! 大陸一のボーイズグループをプロデュースしよう! と。  メロディは、早速、自国の各地でオーディションを開催することにした――

婚約破棄現場に訪れたので笑わせてもらいます

さかえ
恋愛
皆様!私今、夜会に来ておりますの! どうです?私と一緒に笑いませんか? 忌まわしき浮気男を。 更新頻度遅くて申し訳ございません。 よろしければ、お菓子を片手に読んでくださると嬉しいです。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ
ファンタジー
その短い生涯を無価値と魔神に断じられた男、中島涼。 そんな男が転生したのは、剣と魔法の世界レムフィリア。 新しい職種は魔王。 業務内容は、勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事? 【アルファポリス様より書籍版1巻~10巻発売中です!】 新連載ウィルザード・サーガもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/novel/375139834/149126713

道産子令嬢は雪かき中 〜ヒロインに構っている暇がありません〜

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「レイシール・ホーカイド!貴様との婚約を破棄する!」 ……うん。これ、見たことある。 ゲームの世界の悪役令嬢に生まれ変わったことに気づいたレイシール。北国でひっそり暮らしながらヒロインにも元婚約者にも関わらないと決意し、防寒に励んだり雪かきに勤しんだり。ゲーム内ではちょい役ですらなかった設定上の婚約者を凍死から救ったり……ヒロインには関わりたくないのに否応なく巻き込まれる雪国令嬢の愛と極寒の日々。

強すぎる力を隠し苦悩していた令嬢に転生したので、その力を使ってやり返します

天宮有
恋愛
 私は魔法が使える世界に転生して、伯爵令嬢のシンディ・リーイスになっていた。  その際にシンディの記憶が全て入ってきて、彼女が苦悩していたことを知る。  シンディは強すぎる魔力を持っていて、危険過ぎるからとその力を隠して生きてきた。  その結果、婚約者のオリドスに婚約破棄を言い渡されて、友人のヨハンに迷惑がかかると考えたようだ。  それなら――この強すぎる力で、全て解決すればいいだけだ。  私は今まで酷い扱いをシンディにしてきた元婚約者オリドスにやり返し、ヨハンを守ろうと決意していた。

処刑直前ですが得意の転移魔法で離脱します~私に罪を被せた公爵令嬢は絶対許しませんので~

インバーターエアコン
恋愛
 王宮で働く少女ナナ。王様の誕生日パーティーに普段通りに給仕をしていた彼女だったが、突然第一王子の暗殺未遂事件が起きる。   ナナは最初、それを他人事のように見ていたが……。 「この女よ! 王子を殺そうと毒を盛ったのは!」 「はい?」  叫んだのは第二王子の婚約者であるビリアだった。  王位を巡る争いに巻き込まれ、王子暗殺未遂の罪を着せられるナナだったが、相手が貴族でも、彼女はやられたままで終わる女ではなかった。  (私をドロドロした内争に巻き込んだ罪は贖ってもらいますので……)  得意の転移魔法でその場を離脱し反撃を始める。  相手が悪かったことに、ビリアは間もなく気付くこととなる。

処理中です...