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第6話

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 書斎から出た後も、私は動揺を抑えることが出来なかった。
 頭の中で、もしかしてライルハート様がアリミナを選んだら、そんな考えがぐるぐると回っている。

 「……そんなことない」

 小さな声で、その考えを私は否定しようとする。
 だが、そんなことで私が落ち着ける訳が無かった。

 いつからか、ライルハート様が私の前で笑わなくなったのは紛れも無い事実で、その事実があるからこそ私は自分を落ち着けることが出来ない。

 遠く、玄関の報告から途切れ途切れの会話が、私の耳に入ったのはその時だった。


 「本当に、アイリ……どうしようもない………。…………がいい」

 「……え、………ですわ…」


 その声の主が、ライルハート様であることに気づいた私は、思わず目を見開いた。

 「……え?」

 私がライルハート様と別れてから、それなりの時間が流れている。
 なのに、なぜか今日に限ってライルハート様は、まだ玄関にいた。

 「……もしかして、私と会うため?」

 胸が高鳴り、私の顔に自然と熱が集まる。
 次の瞬間、私は玄関の方へと歩き出した。


 廊下を進む程に、ライルハート様への愛しさが溢れ出す。
 やはり、先程までの不安はただの杞憂だったのだと、私の胸に安堵感が広がっていく。
 ──その希望故に、私は玄関に広がっていた光景に打ちのめされることとなった。


 「どうやら、君のことを勘違いしていたらしい」

 「い、いえ。そんなことお気にしないで下さいませ」


 玄関、そこではライルハート様がアリミナと談笑していた。

 私には、見せない輝かんばかりの笑顔で。

 「……何で」

 現実を目の前につきつきられた私の顔から血の気が引いた。
 痛いほど激しく心臓がなっていて、その場にうずくまりたい衝動に駆られる。

 私との婚約をライルハート様がどう考えているか、それは目の前の光景がなによりも雄弁に語っていた。

 次の瞬間、耐えきれなくなった私は背を翻し走り出した。
 自分に気づかないほど夢中でアリミナと会話を交わすライルハート様の姿から逃げるように。


 だからこそ、その時の私は気づくことはなかった。
 ライルハート様と会話していたはずのアリミナが、私の存在に気づいていて、顔をこちらに向けていたこと。


 ── そして、その顔が助けを求めるよう、悲惨に歪められていたことに。


 ◇◇◇


 何時もご愛読ありがとうございます!
 次回ライルハート目線、つまりネタバレ回です。(コメディー要素も出てくると思います)
 今後とも、ネタバレを挟みながら進行というスタイルで進むと思いますが、よろしくお願いします!
 (「音速のネタバレ」タグに免じて、どうかご容赦を)
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