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2.王国編
第4話 支部長の話
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自分へと笑いかける支部長、その姿に気づけば僕は引き攣った笑みを浮かべていた。
普段は奥にいる支部長がこんな場所に出てくる理由、それは何か重大なことがあったとしか考えられない。
そしてその重大なこととは大抵の場合、面倒ごとと相場が決まっているのだ。
だからこそ、僕は支部長に心の中で文句をたれようとして……
「つ!」
……苦々しげに顔を歪めたエイナの姿に、逆に心の中で支部長に感謝を捧げることにした。
確かに支部長は面倒ごとを持ってくることが多い。
けれども今、エイナの話以上の面倒ごとはない。
そして、このまま支部長に呼び出されたらエイナとの話を僕は有耶無耶にすることができるのだ。
他の人間ならばエイナは受付嬢の立場を利用して押しのけてしまうだろう。
それを考えれば、今このタイミングで支部長が現れたのは奇跡に近い。
「はい!何でしょうか!」
「……やけに元気だね」
そして、その奇跡を僕が見逃すわけがなかった。
突然やる気満々の様子になった僕に流石の支部長も呆れたように笑いを漏らす。
けれども今の僕は支部長にどう思われようが、エイナから離れられればどうでもよかったので、その反応を無視する。
「では、奥に行きましょうか!」
とにかく、この場を早く離れるために僕はそう言葉を重ねて……
「いや、今日は届け物をしに来ただけだから」
「…………え?」
……けれども、その僕の言葉はあっさりと支部長に拒否された。
その瞬間、後ろにいるエイナの覇気らしきものが膨れ上がって、僕は思わず引き攣った笑み浮かべる。
……やばい、これは逃げられないタイプだ。
何時もならば、奥にある会議室に行かなくていいというのは喜ばしいことなのだが、今に限ってはただただ不運でしかなく、僕は何故今このタイミングと嘆きそうになる。
「ほら、これ」
「………は?」
……けれども、未だ僕の不幸は終わっていなかった。
突然差し出された中にお金らしきものがパンパンに溜まった袋を取り出されて、僕の頭から言葉が消えた。
「なっ!?」
何故なら、目の前に置かれている袋、それは僕が言葉を失ってもおかしくないような大金だったのだから。
「はい。これは君への報奨金だ」
「……え?」
だからこそ、その袋を渡された時僕はそんな声を出すことしかできなかった。
そしてそんな僕の様子に気づいた支部長は説明を加える。
「いや、森の悪魔、正式にはポイズンウルフだったけ?まぁ、それの報奨金だよ」
「え、でも僕はきちんと報酬を……」
「それはダイウルフなどの素材を売り払った代金だけだから……災害級の魔獣を、二人で討伐してさらに弱点まで見つけた、そんな偉業を果たしてあれだけなんてありえないんだけども……」
そう話す支部長の目には本当に呆れが宿っていて、僕は支部長が決して嘘を言っていないことを悟る。
つまりこのお金は本当に僕のもので……
「おぉ……」
……受け取った僕の口からはそんな声が漏れ出た。
大金すぎて正直、頭が追いついていないのだ。
「本当にこれから、このギルドに特注依頼を出せるよ!」
支部長が何事かを言っているのが分かるが、その言葉は全て右から左へと流れて行く。
ただ、固まる頭で僕はこのお金ならシュライトさんへの借金を返せると、そう考えて……
「うん。何の問題も無くなったわね」
「…………あ」
……後ろから肩に置かれた手に、ようやく僕はエイナの存在を思い出した。
その瞬間、僕の顔から凄い勢いで血の気が引いて行くのが分かる。
タイミング悪すぎるだろぉ!と僕は支部長に叫びたい衝動に駆られるが……
「……わかりました」
……その時の僕はそう、力無い声でエイナに答えることしかできなかった。
普段は奥にいる支部長がこんな場所に出てくる理由、それは何か重大なことがあったとしか考えられない。
そしてその重大なこととは大抵の場合、面倒ごとと相場が決まっているのだ。
だからこそ、僕は支部長に心の中で文句をたれようとして……
「つ!」
……苦々しげに顔を歪めたエイナの姿に、逆に心の中で支部長に感謝を捧げることにした。
確かに支部長は面倒ごとを持ってくることが多い。
けれども今、エイナの話以上の面倒ごとはない。
そして、このまま支部長に呼び出されたらエイナとの話を僕は有耶無耶にすることができるのだ。
他の人間ならばエイナは受付嬢の立場を利用して押しのけてしまうだろう。
それを考えれば、今このタイミングで支部長が現れたのは奇跡に近い。
「はい!何でしょうか!」
「……やけに元気だね」
そして、その奇跡を僕が見逃すわけがなかった。
突然やる気満々の様子になった僕に流石の支部長も呆れたように笑いを漏らす。
けれども今の僕は支部長にどう思われようが、エイナから離れられればどうでもよかったので、その反応を無視する。
「では、奥に行きましょうか!」
とにかく、この場を早く離れるために僕はそう言葉を重ねて……
「いや、今日は届け物をしに来ただけだから」
「…………え?」
……けれども、その僕の言葉はあっさりと支部長に拒否された。
その瞬間、後ろにいるエイナの覇気らしきものが膨れ上がって、僕は思わず引き攣った笑み浮かべる。
……やばい、これは逃げられないタイプだ。
何時もならば、奥にある会議室に行かなくていいというのは喜ばしいことなのだが、今に限ってはただただ不運でしかなく、僕は何故今このタイミングと嘆きそうになる。
「ほら、これ」
「………は?」
……けれども、未だ僕の不幸は終わっていなかった。
突然差し出された中にお金らしきものがパンパンに溜まった袋を取り出されて、僕の頭から言葉が消えた。
「なっ!?」
何故なら、目の前に置かれている袋、それは僕が言葉を失ってもおかしくないような大金だったのだから。
「はい。これは君への報奨金だ」
「……え?」
だからこそ、その袋を渡された時僕はそんな声を出すことしかできなかった。
そしてそんな僕の様子に気づいた支部長は説明を加える。
「いや、森の悪魔、正式にはポイズンウルフだったけ?まぁ、それの報奨金だよ」
「え、でも僕はきちんと報酬を……」
「それはダイウルフなどの素材を売り払った代金だけだから……災害級の魔獣を、二人で討伐してさらに弱点まで見つけた、そんな偉業を果たしてあれだけなんてありえないんだけども……」
そう話す支部長の目には本当に呆れが宿っていて、僕は支部長が決して嘘を言っていないことを悟る。
つまりこのお金は本当に僕のもので……
「おぉ……」
……受け取った僕の口からはそんな声が漏れ出た。
大金すぎて正直、頭が追いついていないのだ。
「本当にこれから、このギルドに特注依頼を出せるよ!」
支部長が何事かを言っているのが分かるが、その言葉は全て右から左へと流れて行く。
ただ、固まる頭で僕はこのお金ならシュライトさんへの借金を返せると、そう考えて……
「うん。何の問題も無くなったわね」
「…………あ」
……後ろから肩に置かれた手に、ようやく僕はエイナの存在を思い出した。
その瞬間、僕の顔から凄い勢いで血の気が引いて行くのが分かる。
タイミング悪すぎるだろぉ!と僕は支部長に叫びたい衝動に駆られるが……
「……わかりました」
……その時の僕はそう、力無い声でエイナに答えることしかできなかった。
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