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2.王国編
第2話 解決方法
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「はぁ、はぁ、」
ボロボロになって、隣で死にそうな声を出すパラス。
……そしてそのパラスからの視線に何も言えずに俯きながら、僕はギルドへと帰っていた。
その理由は簡単、あれだけ酷い目にあって何度もパラスは死にかけたの関わらず、かけらも魔力操作を彼が身につけられることはなかったのだ。
……僕は湿地に入った1日で身につけたから行けると、そうパラスに保証して地獄に落としたのにもかかわらず。
「……なぁ、死にかければなんとかなるじゃなかったのか?」
「あ、あはは……」
そして僕へとそう声をかけるパラスは明らかに激怒していた。
……当たり前だろう。何せあの地獄は最悪だ。
何せ最初シュライトさんにあの地獄に落とされた僕は、その後二、三日ただのナメクジやミミズにも悲鳴をあげていたほどなのだから。
……それでもシュライトさんに僕はあの地獄に落とされ続けたが。
しかし、そんな目にあってもきちんと魔力操作を確実に身につけていったならともかく、パラスの場合彼はただ死にかけただけなのだ。
彼の反応は決して不当なものではない。
……けれども、決して僕はパラスを虐めようとして湿地に行った訳ではなかった。
何せパラスは仮にも僕の仲間になるのだ。
力はあればある方がいいに決まっている。
だからこそ、自分から新たに自分が得た能力を使いこなしたいという彼を邪魔するようなことをするわけがない。
例えば、湿地に行くに関しては彼が魔法職、それも上級魔法以外が使えない状態であるのを考慮して、前日湿地の魔獣達は間引いておいり。
敢えて憎まれ役を演じたのだって、パラスが僕を見下したい、と考えていた方が精神的なものが大きく関係する魔力操作を習得しやすいだろうという考えからなのだ。
……そして、僕の思い通りに行けばもうパラスは魔力操作を習得しているはずだった。
何せ彼は僕と違って魔力の扱い方というものを知っている。
それに対して僕は全く何も知らない状態からのスタートで、それでも1日で魔力操作の初歩を覚えたのだ。
……代わりに三途の川の中流くらいまで渡り掛けた気がするが。
「そもそも死にかけなくちゃ覚えられない、ておかしすぎるだろうが!」
けれども、今僕に向かって怒鳴るパラスは一切魔力操作を覚えていなかった。
苛立ちを隠しきれず僕へと怒鳴るパラス。
その心の奥には、湿地で死にかけたことよりも、魔力操作を覚えられなかったことに対する失望が見えて、だからこそ僕は何も言えなくなる。
「……すまん。言い過ぎた」
……そしてその僕の態度にまたパラスも自己嫌悪に陥りながら俯く。
「いや、気にしていない」
その僕の返答を最後に、僕とパラスの間での言葉のやり取りは無くなった。
パラスがここまで焦っているわけ、それを僕は分かっていた。
新しい能力を身につけたパラス。
けれどもその代わり彼は従来の魔術を扱うことができなくなっていた。
そう、魔法陣が彼の魔力にもたなくなっているのだ。
つまり、今の彼は上級魔法しか打てないということで……
……それは冒険者の魔術師としてあまりにも致命的な欠陥だった。
決してその能力は弱くはない、いや、それどころかかつてないほど強力だろう。
何せ時間さえ稼げれば、地形をかける魔法が放てる。
しかもそれは戦時に使われる最大の魔術さえ凌駕する威力なのだ。
それはギルド職員であれば十分有用な力で……
……けれども、突発的な魔術が求められる冒険者にはあまりにも無用な力だった。
しかし、そのことをわかりながらもパラスは僕のためにその力を使いこなそうとしていた。
そう、冒険者として通用できるものにするため。
けれども今はその僕に迷惑をかけている状態で、だからこそ彼は焦っているのだ。
「……なぁ、今回もやるか」
「ああ。やるか」
どれだけ疲れていようといつものように、僕との木剣での訓練に誘ってくるパラスに、彼の焦燥が浮かんできて……
……そして僕の胸に罪悪感が走った。
確かに今の僕の知識ではパラスに魔力操作を教えられないだろう。
ーーー けれども、決して僕は魔力操作を彼に教えられるかもしれない方法を全く知らないわけではなかった。
「はぁぁぁぁ!」
……しかし今の僕はそのことをパラスに教える気にはなれなくて。
「……すまない」
僕は小さくそう言葉を漏らすことしかできなかった……
ボロボロになって、隣で死にそうな声を出すパラス。
……そしてそのパラスからの視線に何も言えずに俯きながら、僕はギルドへと帰っていた。
その理由は簡単、あれだけ酷い目にあって何度もパラスは死にかけたの関わらず、かけらも魔力操作を彼が身につけられることはなかったのだ。
……僕は湿地に入った1日で身につけたから行けると、そうパラスに保証して地獄に落としたのにもかかわらず。
「……なぁ、死にかければなんとかなるじゃなかったのか?」
「あ、あはは……」
そして僕へとそう声をかけるパラスは明らかに激怒していた。
……当たり前だろう。何せあの地獄は最悪だ。
何せ最初シュライトさんにあの地獄に落とされた僕は、その後二、三日ただのナメクジやミミズにも悲鳴をあげていたほどなのだから。
……それでもシュライトさんに僕はあの地獄に落とされ続けたが。
しかし、そんな目にあってもきちんと魔力操作を確実に身につけていったならともかく、パラスの場合彼はただ死にかけただけなのだ。
彼の反応は決して不当なものではない。
……けれども、決して僕はパラスを虐めようとして湿地に行った訳ではなかった。
何せパラスは仮にも僕の仲間になるのだ。
力はあればある方がいいに決まっている。
だからこそ、自分から新たに自分が得た能力を使いこなしたいという彼を邪魔するようなことをするわけがない。
例えば、湿地に行くに関しては彼が魔法職、それも上級魔法以外が使えない状態であるのを考慮して、前日湿地の魔獣達は間引いておいり。
敢えて憎まれ役を演じたのだって、パラスが僕を見下したい、と考えていた方が精神的なものが大きく関係する魔力操作を習得しやすいだろうという考えからなのだ。
……そして、僕の思い通りに行けばもうパラスは魔力操作を習得しているはずだった。
何せ彼は僕と違って魔力の扱い方というものを知っている。
それに対して僕は全く何も知らない状態からのスタートで、それでも1日で魔力操作の初歩を覚えたのだ。
……代わりに三途の川の中流くらいまで渡り掛けた気がするが。
「そもそも死にかけなくちゃ覚えられない、ておかしすぎるだろうが!」
けれども、今僕に向かって怒鳴るパラスは一切魔力操作を覚えていなかった。
苛立ちを隠しきれず僕へと怒鳴るパラス。
その心の奥には、湿地で死にかけたことよりも、魔力操作を覚えられなかったことに対する失望が見えて、だからこそ僕は何も言えなくなる。
「……すまん。言い過ぎた」
……そしてその僕の態度にまたパラスも自己嫌悪に陥りながら俯く。
「いや、気にしていない」
その僕の返答を最後に、僕とパラスの間での言葉のやり取りは無くなった。
パラスがここまで焦っているわけ、それを僕は分かっていた。
新しい能力を身につけたパラス。
けれどもその代わり彼は従来の魔術を扱うことができなくなっていた。
そう、魔法陣が彼の魔力にもたなくなっているのだ。
つまり、今の彼は上級魔法しか打てないということで……
……それは冒険者の魔術師としてあまりにも致命的な欠陥だった。
決してその能力は弱くはない、いや、それどころかかつてないほど強力だろう。
何せ時間さえ稼げれば、地形をかける魔法が放てる。
しかもそれは戦時に使われる最大の魔術さえ凌駕する威力なのだ。
それはギルド職員であれば十分有用な力で……
……けれども、突発的な魔術が求められる冒険者にはあまりにも無用な力だった。
しかし、そのことをわかりながらもパラスは僕のためにその力を使いこなそうとしていた。
そう、冒険者として通用できるものにするため。
けれども今はその僕に迷惑をかけている状態で、だからこそ彼は焦っているのだ。
「……なぁ、今回もやるか」
「ああ。やるか」
どれだけ疲れていようといつものように、僕との木剣での訓練に誘ってくるパラスに、彼の焦燥が浮かんできて……
……そして僕の胸に罪悪感が走った。
確かに今の僕の知識ではパラスに魔力操作を教えられないだろう。
ーーー けれども、決して僕は魔力操作を彼に教えられるかもしれない方法を全く知らないわけではなかった。
「はぁぁぁぁ!」
……しかし今の僕はそのことをパラスに教える気にはなれなくて。
「……すまない」
僕は小さくそう言葉を漏らすことしかできなかった……
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