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1.ギルド編
第30話 依頼開始
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祝うことを決めたその日、僕は翌日に堪えない程度のお酒を嗜み、そして密やかに祝った。
それは1人だけの物寂しい祝会だった。
けれども、最初この世界に来て捨てられたあの時から考えればここまで来るのにどれだけ幸運が重なったのか僕は分かっていた。
だからこそ、そんな祝会でも満足出来て……
「ふん」
……だからこそ、翌日僕は逃げられない現実に肩を落とすことになった。
目の前にいるのは受付としての仕事を果たそうとするエイナ。
最初彼女の姿を見た僕は、違うギルド職員に依頼の有無を聞こうとしたのだが、残念ながら受付に出ているギルド職員はエイナ以外存在しなかった。
時々雑用しているギルド職員を見ることはあったものの、明らかに話しかけるのは筋違いだろう。
そう判断した僕は嫌々ながらも、エイナの元に仕事の有無を聞きに来たのだが……
「依頼ならあそこにあるじゃない」
「……いや、あれはD級以下しかないから」
「それで良いじゃない」
……エイナはそう言って何故か僕に依頼書を渡そうとはしなかった。
僕が初日からCランクの依頼を受けることは支部長によってギルド職員に通達されるはずだ。
つまりエイナがそのことを知らないはずはない。
けれども彼女は頑として僕のいうことを聞こうとはせず……
「おい、エイナ!何してんだ!」
「依頼の時間遅れるんだけど!」
「あっ、」
……そして、冒険者達の言葉にいつのまにか列になっていたことにようやく気付いた。
「っ!」
憎々しげに僕を睨みながらも、それでももうこれ以上僕と言い争っている時間がないと判断したエイナは僕を睨みながらもそれでも依頼書を取り出して中から無造作に一枚僕に手渡す。
その乱雑な態度に不満を感じつつも、今は文句を言う暇など無いと判断して僕はエイナの前から立ち去る。
そして先頭の僕が去ったことにより動き出した列を見て、僕はぽつりと呟いた。
「……さすがにこれはやりすぎではないか?」
冒険者に謝りながら依頼書を渡していくエイナ。
恐らく彼女はもう今回のような失敗を繰り返すことはないだろう。
けれどもほかのギルド職員はどうか。
自分の意中の人間のことに関しては信じられないほど頑固になるのが男というものだ。
……そしてその頑固さが、取り返しのつかないところで問題を起こさなければ良いのだが。
漠然とした不安を感じながら、僕はため息を漏らした。
◇◆◇
「……よろしく」
それから数分後、僕の目の前に立っていたのは敵意を隠そうともしない2人の男性のギルド職員達だった。
彼らは昨日、僕に暴言を吐いて支部長に連行されていった人間のうち2人で、気まずさを感じながらも、それでも僕は一応挨拶をする。
「胸糞悪い仕事だ。早く終わらせるぞ」
「ああ」
だが僕のその挨拶はあっさりと無視された。
僕を完全に無視して、ギルド職員同士で話しだした2人に僕はため息を漏らす。
なんでこんなにぎすぎすしているのだろうか?
昨日支部長にしごかれたのならば少しぐらい誠意を見せて欲しかったのだが……
しかし、そんなことを言えるわけがなく僕は早くこの依頼を終わらそうと歩き始めた……
◇◆◇
僕は最初の仮期間を飛ばしたお陰で、Cランクとして正式に認められるまで、最短で3回の依頼達成をすれば良い。
それで最高評価をギルド職員にもらければ僕は晴れて正式なCランク冒険者となる。
そしてそうなればギルド職員達が僕の依頼についてくることはなくなると僕は思う。
「……そんな上手いことは行かないか」
けれどもギルド職員達からの刺すような視線に僕の考えと彼らの思いが一致していないことを悟り、そう呟いた。
恐らく今、ギルド職員は僕の動きを見て失敗を探しているのだろう。
そして少しでもミスがあればそれは減点に繋がる。
それでも少しづつ依頼の成功を積み重ねていれば正式なCランクにはなれるだろうが、どれだけかかることか……
「はぁ……」
僕はそこまで考え、ギルド職員達との長い付き合いになりそうな未来にため息を漏らした。
……幾ら何でも僕を敵視しすぎな気がする。
エイナも、そしてギルド職員もどちらも。
「まぁ、でもこれは意外だったな……」
そしてだからこそ、僕はそう呟かざるを得なかった。
その時の僕の手に握られていたのは依頼書だった。
それはダイウルフとよばれる、名前の通り大きな狼の魔獣を討伐する依頼。
ダイウルフは単体ならCランクの中では決して強い魔獣ではない。
けれどもゴブリンと同じく群れを作り、その規模によって難易度が跳ね上がる魔獣。
だからこの依頼書を最初僕が貰った時、てっきり10体以上のCランクの中でも超難易度の依頼を渡されたのだと思っていたのだが、そうではなかった。
「五体か……」
それはダイウルフのCランク以来の中では最も難易度の低い依頼だった。
しかも、ダイウルフは群れで行動するため痕跡が残りやすく、Cランクの中では戦闘能力以外特別な能力を必要としない。
それはまさに仮Cランクの人間にとってぴったりな依頼で……
「何があったんだろう……」
そしてだからこそ、僕はそう漏らさるをえなかった。
これ程までにギルド職員として有能で、自制心を持ちながら、何故エイナはあの時僕に突っかかってきたのか。
そしてシュライトさんとエイナの間に何があったのかと……
それは1人だけの物寂しい祝会だった。
けれども、最初この世界に来て捨てられたあの時から考えればここまで来るのにどれだけ幸運が重なったのか僕は分かっていた。
だからこそ、そんな祝会でも満足出来て……
「ふん」
……だからこそ、翌日僕は逃げられない現実に肩を落とすことになった。
目の前にいるのは受付としての仕事を果たそうとするエイナ。
最初彼女の姿を見た僕は、違うギルド職員に依頼の有無を聞こうとしたのだが、残念ながら受付に出ているギルド職員はエイナ以外存在しなかった。
時々雑用しているギルド職員を見ることはあったものの、明らかに話しかけるのは筋違いだろう。
そう判断した僕は嫌々ながらも、エイナの元に仕事の有無を聞きに来たのだが……
「依頼ならあそこにあるじゃない」
「……いや、あれはD級以下しかないから」
「それで良いじゃない」
……エイナはそう言って何故か僕に依頼書を渡そうとはしなかった。
僕が初日からCランクの依頼を受けることは支部長によってギルド職員に通達されるはずだ。
つまりエイナがそのことを知らないはずはない。
けれども彼女は頑として僕のいうことを聞こうとはせず……
「おい、エイナ!何してんだ!」
「依頼の時間遅れるんだけど!」
「あっ、」
……そして、冒険者達の言葉にいつのまにか列になっていたことにようやく気付いた。
「っ!」
憎々しげに僕を睨みながらも、それでももうこれ以上僕と言い争っている時間がないと判断したエイナは僕を睨みながらもそれでも依頼書を取り出して中から無造作に一枚僕に手渡す。
その乱雑な態度に不満を感じつつも、今は文句を言う暇など無いと判断して僕はエイナの前から立ち去る。
そして先頭の僕が去ったことにより動き出した列を見て、僕はぽつりと呟いた。
「……さすがにこれはやりすぎではないか?」
冒険者に謝りながら依頼書を渡していくエイナ。
恐らく彼女はもう今回のような失敗を繰り返すことはないだろう。
けれどもほかのギルド職員はどうか。
自分の意中の人間のことに関しては信じられないほど頑固になるのが男というものだ。
……そしてその頑固さが、取り返しのつかないところで問題を起こさなければ良いのだが。
漠然とした不安を感じながら、僕はため息を漏らした。
◇◆◇
「……よろしく」
それから数分後、僕の目の前に立っていたのは敵意を隠そうともしない2人の男性のギルド職員達だった。
彼らは昨日、僕に暴言を吐いて支部長に連行されていった人間のうち2人で、気まずさを感じながらも、それでも僕は一応挨拶をする。
「胸糞悪い仕事だ。早く終わらせるぞ」
「ああ」
だが僕のその挨拶はあっさりと無視された。
僕を完全に無視して、ギルド職員同士で話しだした2人に僕はため息を漏らす。
なんでこんなにぎすぎすしているのだろうか?
昨日支部長にしごかれたのならば少しぐらい誠意を見せて欲しかったのだが……
しかし、そんなことを言えるわけがなく僕は早くこの依頼を終わらそうと歩き始めた……
◇◆◇
僕は最初の仮期間を飛ばしたお陰で、Cランクとして正式に認められるまで、最短で3回の依頼達成をすれば良い。
それで最高評価をギルド職員にもらければ僕は晴れて正式なCランク冒険者となる。
そしてそうなればギルド職員達が僕の依頼についてくることはなくなると僕は思う。
「……そんな上手いことは行かないか」
けれどもギルド職員達からの刺すような視線に僕の考えと彼らの思いが一致していないことを悟り、そう呟いた。
恐らく今、ギルド職員は僕の動きを見て失敗を探しているのだろう。
そして少しでもミスがあればそれは減点に繋がる。
それでも少しづつ依頼の成功を積み重ねていれば正式なCランクにはなれるだろうが、どれだけかかることか……
「はぁ……」
僕はそこまで考え、ギルド職員達との長い付き合いになりそうな未来にため息を漏らした。
……幾ら何でも僕を敵視しすぎな気がする。
エイナも、そしてギルド職員もどちらも。
「まぁ、でもこれは意外だったな……」
そしてだからこそ、僕はそう呟かざるを得なかった。
その時の僕の手に握られていたのは依頼書だった。
それはダイウルフとよばれる、名前の通り大きな狼の魔獣を討伐する依頼。
ダイウルフは単体ならCランクの中では決して強い魔獣ではない。
けれどもゴブリンと同じく群れを作り、その規模によって難易度が跳ね上がる魔獣。
だからこの依頼書を最初僕が貰った時、てっきり10体以上のCランクの中でも超難易度の依頼を渡されたのだと思っていたのだが、そうではなかった。
「五体か……」
それはダイウルフのCランク以来の中では最も難易度の低い依頼だった。
しかも、ダイウルフは群れで行動するため痕跡が残りやすく、Cランクの中では戦闘能力以外特別な能力を必要としない。
それはまさに仮Cランクの人間にとってぴったりな依頼で……
「何があったんだろう……」
そしてだからこそ、僕はそう漏らさるをえなかった。
これ程までにギルド職員として有能で、自制心を持ちながら、何故エイナはあの時僕に突っかかってきたのか。
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