上 下
19 / 60
1.ギルド編

第18話 役立たずの勇者II (勇者目線)

しおりを挟む
 「あぁ、くそっ!」

 その時勇者こと斎藤和也は薄暗い路地裏にいた。
 そして薄暗く不衛生なその場所で機嫌悪げにそう吐き捨てていた。
 今の俺は全てが気に入らなくて……
 その原因、それはこの頃俺へと軽蔑するような視線を向けて来始めたこの王国の人間。

 「くそっ!くそくそ!何で俺が、選ばれた俺が鍛錬なんかしなければならねえんだよ!」

 そして何故か始まった訓練だった。
 最初俺に対するこの国の人間の対応はまさに勇者に対するそんな態度だった。

 だが、それは斎藤がたった一つの能力を持っていないと知られた瞬間に変わった。
 
 今までうやうやしく自分へと頭を下げていた貴族たちの顔に軽蔑が宿ったその瞬間、それを斎藤は一ヶ月経った今でもはっきりと覚えている。
 そしてその次の日からだった。
 突然酷く辛い鍛錬が始まったのは。

 「はっ!何が走り込みだ。そんなもんやらなくとも聖剣を持った俺は最強だろうが!今時修行なんて流行らないんだよ!」

 聖剣の強化能力を使わず1日10キロ走れ、そう突然言われた時を思い出し斎藤は忌々しげにそう吐き捨てる。
 当たり前だ。そんなことインドア派、というか今まで引きこもっていた自分が出来るはずなど無い、とそう正当化する
 そしてそんな斎藤が素直に10キロ走るなど受け入れるわけがなかった。
  そう、今斎藤が路地裏にいる訳、それは鍛錬を強制しようとする兵士らしき人間から逃げるためなのだ。

 「ふん。俺には聖剣に最強の魔法があるから鍛錬なんて要らねえんだよ!そんなことする暇があれば、もっとカッコいい魔法を教えろと言っているのに……」

 そして、嫌なことからは逃げるのが当然。
 それでも自分は勇者で最強であると信じている斎藤は知らない。
 異世界人である勇者が魔法を身に付けるのがどれだけ大変なのか。
 そう、それこそ10キロを1日生身で走るとなどということなど比にならない程の苦痛が伴うことに。

 そして斎藤が知らないのはそれだけではなかった。

 同じ異世界人でありながら、魔法など比にならない魔力操作と呼ばれる技術を一ヶ月で身につけた人間がいること。
 そしてその人間はかつて自分が嘲っていた転移者であったということを……

 「まぁ、俺は勇者だし、魔法なんて直ぐに覚えられるだろうけどな!」

 その全てを何も知ることなく、斎藤はそう笑う。
 その笑いには未だ自分が勇者として召喚されたことに対する自信が浮かんでいて……

 「とにかく今日も何処かで女の子でも捕まえるか!」

 ……そんな斎藤は未だ気づいていなかった。

 「平民の女の子は勇者と言ったらそれだけで騒いでくれるしな。本当に貴族とは大違いだ!」

 何を想像しているのか、下卑た笑みを浮かべる斎藤。
 その顔は自分が勇者として敬われなくなる可能性など一切頭にないことを示していて……

 「よし!今日も楽しまねえと!あ、でもまた怒られるか?」

 ……だからそんな斎藤が自分が貴族にどう認識されているのか気にすることはなかった。

 「まぁ、いいか!何たって俺は勇者様なんだからなぁ!」

 ーーー 自分が役立たずの勇者と呼ばれていることさえ。

 こうして異世界から召喚された勇者は何も考えることなく破滅の道を進んで行く。
 もし、この時に悔い改め自分を鍛えれることが出来ていれば……

 「おっ、あの子いいな!」

 そんな後悔を自分が抱くことを自分を勇者だと勘違いした勇者は知らない……
しおりを挟む
感想 103

あなたにおすすめの小説

2回目チート人生、まじですか

ゆめ
ファンタジー
☆☆☆☆☆ ある普通の田舎に住んでいる一之瀬 蒼涼はある日異世界に勇者として召喚された!!!しかもクラスで! わっは!!!テンプレ!!!! じゃない!!!!なんで〝また!?〟 実は蒼涼は前世にも1回勇者として全く同じ世界へと召喚されていたのだ。 その時はしっかり魔王退治? しましたよ!! でもね 辛かった!!チートあったけどいろんな意味で辛かった!大変だったんだぞ!! ということで2回目のチート人生。 勇者じゃなく自由に生きます?

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった

Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。 *ちょっとネタばれ 水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!! *11月にHOTランキング一位獲得しました。 *なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。 *パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。

死んでないのに異世界に転生させられた

三日月コウヤ
ファンタジー
今村大河(いまむらたいが)は中学3年生になった日に神から丁寧な説明とチート能力を貰う…事はなく勝手な神の個人的な事情に巻き込まれて異世界へと行く羽目になった。しかし転生されて早々に死にかけて、与えられたスキルによっても苦労させられるのであった。 なんでも出来るスキル(確定で出来るとは言ってない) *冒険者になるまでと本格的に冒険者活動を始めるまで、メインヒロインの登場などが結構後の方になります。それら含めて全体的にストーリーの進行速度がかなり遅いですがご了承ください。 *カクヨム、アルファポリスでも投降しております

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった

さくらはい
ファンタジー
 主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ―― 【不定期更新】 1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。 性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。 良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。

『付与』して『リセット』!ハズレスキルを駆使し、理不尽な世界で成り上がる!

びーぜろ@転移世界のアウトサイダー発売中
ファンタジー
ハズレスキルも組み合わせ次第!?付与とリセットで成り上がる! 孤児として教会に引き取られたサクシュ村の青年・ノアは10歳と15歳を迎える年に2つのスキルを授かった。 授かったスキルの名は『リセット』と『付与』。 どちらもハズレスキルな上、その日の内にステータスを奪われてしまう。 途方に暮れるノア……しかし、二つのハズレスキルには桁外れの可能性が眠っていた! ハズレスキルを授かった青年・ノアの成り上がりスローライフファンタジー! ここに開幕! ※本作はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

箱庭から始まる俺の地獄(ヘル) ~今日から地獄生物の飼育員ってマジっすか!?~

白那 又太
ファンタジー
とあるアパートの一室に住む安楽 喜一郎は仕事に忙殺されるあまり、癒しを求めてペットを購入した。ところがそのペットの様子がどうもおかしい。 日々成長していくペットに少し違和感を感じながらも(比較的)平和な毎日を過ごしていた喜一郎。 ところがある日その平和は地獄からの使者、魔王デボラ様によって粉々に打ち砕かれるのであった。 目指すは地獄の楽園ってなんじゃそりゃ! 大したスキルも無い! チートも無い! あるのは理不尽と不条理だけ! 箱庭から始まる俺の地獄(ヘル)どうぞお楽しみください。 【本作は小説家になろう様、カクヨム様でも同時更新中です】

処理中です...