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1.ギルド編
第7話 奇妙な服
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色々と想定外のことがあったものの、僕は無事に今日の寝床を確保することが出来た。
親切なおっさん、シュライトさんが快く僕を我が家に泊めてくれるとそう言ってくれたのだ。
なのだが……
「ぎゃぁぁ!?冷てぇ!」
「ふはは。それぐらいで喚いてどうする!」
……何故か今、僕は半裸、おっさんは全裸という状態で川に浸かっていた。
いや誰得?と思わないでもないが、これは決して2人で不埒なことに及んでいたわけではない。
その可能性は皆無だ。絶対にない。
ゴブリンとの戦闘でドロドロに汚れていたので水浴びしているだけだ。
そしてシュライトさんがこんな夜更けに水浴びしていた理由もそれだった。
シュライトさんも、オークと呼ばれるゴブリンとは比較にならないくらい強力な魔獣を倒した帰りにここに寄って血を落としているらしい。
というのも、決してシュライトさんの家に身体を洗う場所がないと言うわけではない。
それどころか、この世界では珍しい風呂さえもシュライトさんの家にはあるらしいのだ。
けれども、ゴブリンやオークの血は魔力と呼ばれるものがこもっているらしく、家で流しているとその場所は魔獣を呼び寄せるようになるらしい。
よってこの河原は常に魔獣を倒す冒険者と呼ばれる人達が血を流すのに使っているらしい。
そう聞いて一瞬僕の頭に女性も水浴びをするのかという純粋な驚きが過ったが、この世界では女性の方が魔力が多く、女性の冒険者の殆どは後衛の魔術師で殆ど血を浴びないらしい。
……つまりこの場所は筋肉隆々の男達が水浴びをするある意味地獄のような場所になるらしい。
「……むさい」
僕はその光景を想像して自分の着ていた服を洗いながらぽつりと呟いた。
その時にはもう、僕は身体を洗い終えてシュライトさんが貸してくれた予備の服を着ている。
「まぁ、そんなものさ」
「は、はぁ……」
……しかしその一方でシュライトさんは未だ全裸だった。
一瞬その光景を見て、僕は自分の服を僕に貸してくれたのかと感動した。
のだが、「いや、あるが?」というシュライトさんの返答に絶句した。
……いや、服着ろよ!
まぁ、もちろん恩人であるシュライトさんにそんなツッコミを入れられるわけがなく僕は曖昧に笑うことしかその時はできなかったのだが。
「なぁ、カケル。お前は何処から来たんだ?」
「えっ?」
そして、シュライトさんからそう声をかけられたのはその時だった。
僕は何故かその声に陽気なシュライトさんらしからぬ響きを感じて思わず動きを止める。
「えっと、実は農村からやって来たんです。実は親と喧嘩して飛び出すように出て来ちゃって……かなり東の田舎の方から冒険者になろうと思いまして……」
「そうか」
だが、何とか僕は詰まらずに用意していた口上をいうことが出来た。
そう、僕がシュライトさんに告げた内容、それはずっと用意していた口上だった。
何せ今の僕は不自然の塊だ。
服にしろ、常識のなさにしろ、そしてこの能力にしろ。
なので、用意しておく必要があると僕は前もって考えていたのだ。
そして何の疑問も挟まずに頷いたシュライトさんに僕は自分の考えが上手くいったと思いかけて……
「で、そんな田舎の農民がどうしてそんな上等な服を持っている?」
「っ!」
ーーー 次のシュライトさんの言葉に言葉を失うことになった。
「な、何を……」
それでも僕は何とかごまかそうと、そうシュライトさんの方向へと振り向きかけて、だがそんなこと無駄であることを悟った。
シュライトさんのこちらを見る視線、それは今までの陽気さが嘘なくらい真剣なものだった。
そしてその視線に僕の頭が急速に回り始める。
これは誤魔化せるのか、それとも正直に話した方がいいのか……
「なぁ、知っているか?今日勇者がこの王国に召喚されたらしい」
「っ!」
しかし、次の瞬間僕はその選択肢外の行動を選択した。
それはシュライトさんの意識を奪い、そしてこの街から服を盗んで逃げること。
「なぁ、お前はもし……なっ!」
「うぉぉおお!」
シュライトさんへの僅かな罪悪感、それを抱きながら手に光を灯し、僕は全力で飛びかかっていった。
親切なおっさん、シュライトさんが快く僕を我が家に泊めてくれるとそう言ってくれたのだ。
なのだが……
「ぎゃぁぁ!?冷てぇ!」
「ふはは。それぐらいで喚いてどうする!」
……何故か今、僕は半裸、おっさんは全裸という状態で川に浸かっていた。
いや誰得?と思わないでもないが、これは決して2人で不埒なことに及んでいたわけではない。
その可能性は皆無だ。絶対にない。
ゴブリンとの戦闘でドロドロに汚れていたので水浴びしているだけだ。
そしてシュライトさんがこんな夜更けに水浴びしていた理由もそれだった。
シュライトさんも、オークと呼ばれるゴブリンとは比較にならないくらい強力な魔獣を倒した帰りにここに寄って血を落としているらしい。
というのも、決してシュライトさんの家に身体を洗う場所がないと言うわけではない。
それどころか、この世界では珍しい風呂さえもシュライトさんの家にはあるらしいのだ。
けれども、ゴブリンやオークの血は魔力と呼ばれるものがこもっているらしく、家で流しているとその場所は魔獣を呼び寄せるようになるらしい。
よってこの河原は常に魔獣を倒す冒険者と呼ばれる人達が血を流すのに使っているらしい。
そう聞いて一瞬僕の頭に女性も水浴びをするのかという純粋な驚きが過ったが、この世界では女性の方が魔力が多く、女性の冒険者の殆どは後衛の魔術師で殆ど血を浴びないらしい。
……つまりこの場所は筋肉隆々の男達が水浴びをするある意味地獄のような場所になるらしい。
「……むさい」
僕はその光景を想像して自分の着ていた服を洗いながらぽつりと呟いた。
その時にはもう、僕は身体を洗い終えてシュライトさんが貸してくれた予備の服を着ている。
「まぁ、そんなものさ」
「は、はぁ……」
……しかしその一方でシュライトさんは未だ全裸だった。
一瞬その光景を見て、僕は自分の服を僕に貸してくれたのかと感動した。
のだが、「いや、あるが?」というシュライトさんの返答に絶句した。
……いや、服着ろよ!
まぁ、もちろん恩人であるシュライトさんにそんなツッコミを入れられるわけがなく僕は曖昧に笑うことしかその時はできなかったのだが。
「なぁ、カケル。お前は何処から来たんだ?」
「えっ?」
そして、シュライトさんからそう声をかけられたのはその時だった。
僕は何故かその声に陽気なシュライトさんらしからぬ響きを感じて思わず動きを止める。
「えっと、実は農村からやって来たんです。実は親と喧嘩して飛び出すように出て来ちゃって……かなり東の田舎の方から冒険者になろうと思いまして……」
「そうか」
だが、何とか僕は詰まらずに用意していた口上をいうことが出来た。
そう、僕がシュライトさんに告げた内容、それはずっと用意していた口上だった。
何せ今の僕は不自然の塊だ。
服にしろ、常識のなさにしろ、そしてこの能力にしろ。
なので、用意しておく必要があると僕は前もって考えていたのだ。
そして何の疑問も挟まずに頷いたシュライトさんに僕は自分の考えが上手くいったと思いかけて……
「で、そんな田舎の農民がどうしてそんな上等な服を持っている?」
「っ!」
ーーー 次のシュライトさんの言葉に言葉を失うことになった。
「な、何を……」
それでも僕は何とかごまかそうと、そうシュライトさんの方向へと振り向きかけて、だがそんなこと無駄であることを悟った。
シュライトさんのこちらを見る視線、それは今までの陽気さが嘘なくらい真剣なものだった。
そしてその視線に僕の頭が急速に回り始める。
これは誤魔化せるのか、それとも正直に話した方がいいのか……
「なぁ、知っているか?今日勇者がこの王国に召喚されたらしい」
「っ!」
しかし、次の瞬間僕はその選択肢外の行動を選択した。
それはシュライトさんの意識を奪い、そしてこの街から服を盗んで逃げること。
「なぁ、お前はもし……なっ!」
「うぉぉおお!」
シュライトさんへの僅かな罪悪感、それを抱きながら手に光を灯し、僕は全力で飛びかかっていった。
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