橘とアルチェアリ

御社こはく

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三章 キト民話国

三話 人間には

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砂レンガでできた城壁をくぐると、キノリの最初の街、サザンクローが姿を現した。

一階建ての建物、砂や泥を固めて作ったであろうレンガで壁が立てられ、屋根には藁がしかれていた。

そして道行く人が言う。

「アルドゥフォッツァ!」

「アルドゥフォッツァ!キニョルァイ!」


「ねえ、あれ何言ってるの?」

エバがリデオに訪ねた。

「キノリへようこそ、だ。」

それを聞いて、ユーリは言った。

「馬鹿に友好的な国だな。」

「ねー。異種族だって知ってもこの態度だったらすごいのにねー。所詮人間だもんね。あっはは!」

ミルはなぜだかいつもより皮肉っぽかった。
 自分達がキノリ語が分からないように、キノリの国民も、リデオ達の話すアーディル語は分からない。
だからミルは大きな声で言ったのだ。

言葉はわからなくとも、その異様な雰囲気は察したのか、キノリの人々は話しかけなくなった。

『宿は何処にある?教えて頂けないだろうか。』

『いいけど、あの女性はなんて言ってるんだ?良いことを言っている様子ではなかったが。』

『あんた方を侮辱している訳ではない。あー、眠いとああなるんだ。』

『……苦労してんな。宿はこの先の角を曲がった先の、白壁の建物だ。』

『助かった。』

知らぬ間に駄々っ子のようなレッテルを張られるミル。まあ、あながち間違ってはいない。

一行は、言われた通り道を進んだ。

「なあリデオ。今更だけど、なんでキノリ語喋れるんだ?」

「しかもあんなネイティブに、もしかして…リデオこの国出身なんじゃ!?」

「それはない。出身はアルチェアリだ。多分、仕事の関係で覚えた。本とか読んで。」

リデオは年若ながら護衛の仕事についていた。
主君は、リデオと同じ年頃ながら色々な国に使節団として出向いていた。きっと同行する者として、覚えざるおえなかったのだ。

普段の何気ないことは容易に思い出せる。
しかし確信をつくような記憶や、主君との会話や声、そして顔は全く思い出せない。


いや。
少しだけ、少しだけなら、感覚で覚えている。

流れるような蒼い髪。
声は、エバより少しだけ大人で、でもエバと同じように凛としていた。

「おーい。ついたよー。通訳してー!」

リデオが考えることをやめたとき、ちょうど宿についた。
エバはリデオが何を考えていたのか察していたようで、かなりムッとしていた。


『部屋は空いているか?』

すると笑顔の愛らしい恰幅の良い女性が答えた。

『あら~。こんなにスラスラ喋れる旅人さん初めて見たよ~。男二人の女二人だから、二部屋でいいかな?』

『ああ。……聞きたいことがあるんだか、旅人が来たとき、どうやって意思疎通しているんだ?』

『いつもは通訳士さんを呼ぶんだけど、今はアグノアにいっちゃっててね~。アーディル語って習得しづらくてね。単純な発音がかえって難しいのよ。』

アグノア という単語にミルの瞳が揺れた。複雑な言語でも聞き取れない程に、ミルにとって譲れない何かがアグノアにあるのだろう。
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