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第6話 心の傷跡Ⅱ
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真奈は加奈の髪を鷲掴みにしたまま、ベッドへ加奈をそのまま力一杯に放り投げる。
加奈はその衝撃で勢いよくベッドへ雪崩れ込んだ。
「いたーい! 一児の母親がそんな暴力的でいいわけぇ?」
「あんた、良い加減にしないと本当に警察呼ぶわよ! 私の息子に勝手な真似しないで!」
加奈の事だ、ただ一緒に風呂に入っただけでは済んでいないかもしれない。
過去、真奈と加奈が由宇を犯した『禁じられた遊び』のように、悠斗も加奈の毒牙に侵された可能性があった。
「うーん、悠斗君がいつも一人で寂しいから一緒にお風呂入ろうって言われてさ。その通りにしただけなんだけどぉ……お母さんはいつも帰りが遅いから背中の流し合いもできないって悠斗君寂しそうだったよ、お姉ちゃん?」
加奈はとぼけたように言う。
だが、加奈は分かっているはずだ。真奈が今、どのような想像をして、どのような悪夢を恐れ、そして何故取り乱しているのかも。
それを知った上で、加奈は真奈を挑発しているのだ。
「それとも……もしかしてお姉ちゃん変な想像してる? いやらしいなぁ~」
「あんたッ……」
真奈がベッドに横たわる加奈に馬乗りになり、全力で加奈の頬を殴りつける。
しかし、加奈は表情も変えず、ただニヤニヤと下衆な笑みを浮かべたまま真奈を軽蔑するように見つめていた。
そして、真奈は勘付いた。加奈は、自分を怒らせようと息子にちょっかいを出している。ならば、これ以上怒りを露にすることは加奈の思うつぼになるということを。
怒りを鎮めるために真奈は深呼吸をし、ベッドからゆっくりと降りる。
「……もう良い。二度と家には来ないで。次来たら、警察を呼んで事件にする。姉妹だからって大目に見てくれると思ったら大間違よ、加奈」
これ以上、加奈に関わってはいけないと思った。
真奈がここでいくら加奈を殴りつけようが、恐らく加奈は変わらない。
ならば、新たな家族を守るため、実の妹とでも戦ってやると、真奈は覚悟をした。
しかし、それを耳にしても加奈の不快な笑みは崩れることは無い。
「二度と、私の家族と生活の邪魔をしないで」
「はいはい、じゃあこの家には二度と来ませんよー。新しい家族とお幸せにね、お姉ちゃん」
真奈の言葉に、加奈はそれでも動じなかった。
それだけを告げ、真奈は足早に寝室に後にしようとする。
するとその真奈の背中に対し、加奈が静かに一言、呟いた。
「……それにしても、悠斗君はそっくりだねぇ。雪みたいに白い肌、女の子みたいな顔立ち、誰にでも優しい男の子……まるで」
加奈が発したその言葉で、真奈の中で消えかけていた記憶が蘇る。
由宇と悠斗のイメージが、重なりそうになる。
「黙って……」
「お姉ちゃんがどんな生活をしようが正直どうでも良いの。けどね、由宇の存在を、自分の犯した罪を忘れさせなんて、絶対にしない。永遠に苦しみ続ける事が、私たちに出来る唯一の罪滅ぼしなんだから」
加奈は冷たい声で告げる。
真奈はそれを振り払うかのように、加奈のいる部屋から逃げ出すように飛び出した。
あれから更に数日後、真奈は、自宅の鍵も変え、警察にも加奈のストーカーに近い行為への対処を相談し、周囲のセキュリティの強化に努めた。
自宅にもなるべく悠斗を一人にしないよう、真奈と夫が交代でなるべく仕事から早く帰宅することを徹底し、加奈から家族を守れているつもりだった。
だが、それはあくまで真奈の思い込みに過ぎなかった。
だが、真奈はどこかで加奈を侮っていたのだ。自宅周辺のセキュリティ強化や警察への相談を行えば、もう加奈であっても自らの幸福な生活、家族に手出しする事は困難だろうと、そう侮っていたのだ。
しかし、その侮りが、真奈にとって取り返しのつかない悲劇を引き起こし、真奈の心に消えることのない大きく、深い傷を負わせることとなるのだ。
加奈はその衝撃で勢いよくベッドへ雪崩れ込んだ。
「いたーい! 一児の母親がそんな暴力的でいいわけぇ?」
「あんた、良い加減にしないと本当に警察呼ぶわよ! 私の息子に勝手な真似しないで!」
加奈の事だ、ただ一緒に風呂に入っただけでは済んでいないかもしれない。
過去、真奈と加奈が由宇を犯した『禁じられた遊び』のように、悠斗も加奈の毒牙に侵された可能性があった。
「うーん、悠斗君がいつも一人で寂しいから一緒にお風呂入ろうって言われてさ。その通りにしただけなんだけどぉ……お母さんはいつも帰りが遅いから背中の流し合いもできないって悠斗君寂しそうだったよ、お姉ちゃん?」
加奈はとぼけたように言う。
だが、加奈は分かっているはずだ。真奈が今、どのような想像をして、どのような悪夢を恐れ、そして何故取り乱しているのかも。
それを知った上で、加奈は真奈を挑発しているのだ。
「それとも……もしかしてお姉ちゃん変な想像してる? いやらしいなぁ~」
「あんたッ……」
真奈がベッドに横たわる加奈に馬乗りになり、全力で加奈の頬を殴りつける。
しかし、加奈は表情も変えず、ただニヤニヤと下衆な笑みを浮かべたまま真奈を軽蔑するように見つめていた。
そして、真奈は勘付いた。加奈は、自分を怒らせようと息子にちょっかいを出している。ならば、これ以上怒りを露にすることは加奈の思うつぼになるということを。
怒りを鎮めるために真奈は深呼吸をし、ベッドからゆっくりと降りる。
「……もう良い。二度と家には来ないで。次来たら、警察を呼んで事件にする。姉妹だからって大目に見てくれると思ったら大間違よ、加奈」
これ以上、加奈に関わってはいけないと思った。
真奈がここでいくら加奈を殴りつけようが、恐らく加奈は変わらない。
ならば、新たな家族を守るため、実の妹とでも戦ってやると、真奈は覚悟をした。
しかし、それを耳にしても加奈の不快な笑みは崩れることは無い。
「二度と、私の家族と生活の邪魔をしないで」
「はいはい、じゃあこの家には二度と来ませんよー。新しい家族とお幸せにね、お姉ちゃん」
真奈の言葉に、加奈はそれでも動じなかった。
それだけを告げ、真奈は足早に寝室に後にしようとする。
するとその真奈の背中に対し、加奈が静かに一言、呟いた。
「……それにしても、悠斗君はそっくりだねぇ。雪みたいに白い肌、女の子みたいな顔立ち、誰にでも優しい男の子……まるで」
加奈が発したその言葉で、真奈の中で消えかけていた記憶が蘇る。
由宇と悠斗のイメージが、重なりそうになる。
「黙って……」
「お姉ちゃんがどんな生活をしようが正直どうでも良いの。けどね、由宇の存在を、自分の犯した罪を忘れさせなんて、絶対にしない。永遠に苦しみ続ける事が、私たちに出来る唯一の罪滅ぼしなんだから」
加奈は冷たい声で告げる。
真奈はそれを振り払うかのように、加奈のいる部屋から逃げ出すように飛び出した。
あれから更に数日後、真奈は、自宅の鍵も変え、警察にも加奈のストーカーに近い行為への対処を相談し、周囲のセキュリティの強化に努めた。
自宅にもなるべく悠斗を一人にしないよう、真奈と夫が交代でなるべく仕事から早く帰宅することを徹底し、加奈から家族を守れているつもりだった。
だが、それはあくまで真奈の思い込みに過ぎなかった。
だが、真奈はどこかで加奈を侮っていたのだ。自宅周辺のセキュリティ強化や警察への相談を行えば、もう加奈であっても自らの幸福な生活、家族に手出しする事は困難だろうと、そう侮っていたのだ。
しかし、その侮りが、真奈にとって取り返しのつかない悲劇を引き起こし、真奈の心に消えることのない大きく、深い傷を負わせることとなるのだ。
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