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第63話 最後の選択
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【8月1日 これから:倉田 優姫】
「ふーっ……やっと、終わったね」
優姫は安堵したような顔で言う。全てが終わったのだ、今日、ここで。
「……ああ」
「兄さん見て! この顔……10年前と変わってないみたい! 可愛いなぁ」
優姫は自分の膝の上で気を失っている祐介を見て無邪気に言う。
「……」
それを見て俺は涙が滲んできた。
俺は妹の夢を叶えるためだと言って親友と、その妹を殺したようなものだ。
それを考えてしまうと、今すぐにでも自殺したいくらいだ。それで、許されるのなら……。
祐介はあの場で舌を噛み切り、自殺した。
適切な処置をすれば助かったかもしれないが、優姫はそれを望まなかった。
俺と優姫は、幼馴染が死んでいく様を2人で見届けた。
「……兄さん」
俺の心情を察したのか、優姫が俺に声を掛けた。
事件から心が病み、狂ってしまっても根は優しい妹なんだと実感する。
「色々……ありがとね。こんなボクの、こんなどうしようもない夢を叶えようとしてくれて」
俺が、今まで聞いた優姫の言葉の中で、最も重い言葉だった。そして、恐らくこれが妹の最期の感謝なのだろう。
「好きな人の精神を極限まで追い詰めて、絶望させて、自分のものにしようだなんておかしいよね。あーあ! 普通に可愛い格好して、デートして、好きになってもらえたら……それが1番なんだけどね……」
ストックホルム症候群という病名を聞いた事がある。自分を傷付け、苦しめたはずの犯人と心理的な繋がりが生まれる事を指すらしい。
恐らく、優姫自体がそうだ。幼い少女があれだけ凄惨な目に遭ったというのに、優姫は糸田を激しく恨んだり、復讐しようとはしなかった。
そして、正攻法では決して愛されないと分かっていたからこそ、優姫は祐介を傷付け、苦しめる事で心の『繋がり』を得ようとしたのだ。
優姫以外に味方がいない状況を作り、優姫を選ぶ事以外の選択肢がない世界を作った。
だが、祐介は……その世界から自殺という形で去る事を選んだ。
「……先の短い妹の最期の夢だ、兄貴としてやれる事はやってやりたかったんだ。例えそれが、人道から外れたロクでもない夢でもな」
「ははっ……兄さんらしい。兄さんはこの後に逮捕されないようにね! 難しいかもしれないけど」
「いや……お前が逝ったら……自首するさ。お前らのいない日常に未練なんかないからな」
もうお前らのいない世界に未練なんてない。俺は自殺か自首するしか選択肢はないだろう。それで許されるとは思っていないけれど。
「……やっぱり兄さんの事、好きだよ。ゆうちゃんの次にね」
優姫は最後まで俺を気遣ってくれた。本当に、優しい妹だった。
「じゃあ……そろそろ行くね。ボクとゆうちゃんの事、2階の寝室まで運んでくれないかな」
「ああ……」
俺は祐介を肩に担いで寝室へ寝かせに行く。
そして、その後に優姫をおんぶして寝室へと運ぶ。久しぶりに担いだ妹の身体は、ひどく軽かった。
「本当に……透析も薬も要らないのか? そんな事をしたらお前は……」
「良いよ、ゆうちゃんも死んじゃったし。これ以上長く生きていても仕方ないよ。あーあ! ゆうちゃんの為に沢山お金貯めておいたのになぁ……」
もう、優姫もこの世に未練はないのだと思う。残されたわずかな時間、祐介の亡骸を独り占めしたいだけなのだ。
こう考えてみれば、可愛らしい乙女の我儘だ。
「ボクも、もう人生の潮時かなーって。だからこの限られた短い時間で……ゆうちゃんと愛を深めるよ。そして……ゆうちゃんの腕の中でゆっくりと死ぬ事にする」
そう言って優姫が俺の背中に顔を埋める。
「優姫……」
「じゃあ、さよならだね、兄さん。色々ありがとう! ボクはこれからもゆうちゃんを追いかけ続けるよ。この世界で結ばれないのなら、地獄でゆうちゃんと結ばれる事にする。今度こそ、絶対にね」
そう言って優姫が俺に見せた最後の笑顔は、この世で最も美しいものだったと思う。
「ふーっ……やっと、終わったね」
優姫は安堵したような顔で言う。全てが終わったのだ、今日、ここで。
「……ああ」
「兄さん見て! この顔……10年前と変わってないみたい! 可愛いなぁ」
優姫は自分の膝の上で気を失っている祐介を見て無邪気に言う。
「……」
それを見て俺は涙が滲んできた。
俺は妹の夢を叶えるためだと言って親友と、その妹を殺したようなものだ。
それを考えてしまうと、今すぐにでも自殺したいくらいだ。それで、許されるのなら……。
祐介はあの場で舌を噛み切り、自殺した。
適切な処置をすれば助かったかもしれないが、優姫はそれを望まなかった。
俺と優姫は、幼馴染が死んでいく様を2人で見届けた。
「……兄さん」
俺の心情を察したのか、優姫が俺に声を掛けた。
事件から心が病み、狂ってしまっても根は優しい妹なんだと実感する。
「色々……ありがとね。こんなボクの、こんなどうしようもない夢を叶えようとしてくれて」
俺が、今まで聞いた優姫の言葉の中で、最も重い言葉だった。そして、恐らくこれが妹の最期の感謝なのだろう。
「好きな人の精神を極限まで追い詰めて、絶望させて、自分のものにしようだなんておかしいよね。あーあ! 普通に可愛い格好して、デートして、好きになってもらえたら……それが1番なんだけどね……」
ストックホルム症候群という病名を聞いた事がある。自分を傷付け、苦しめたはずの犯人と心理的な繋がりが生まれる事を指すらしい。
恐らく、優姫自体がそうだ。幼い少女があれだけ凄惨な目に遭ったというのに、優姫は糸田を激しく恨んだり、復讐しようとはしなかった。
そして、正攻法では決して愛されないと分かっていたからこそ、優姫は祐介を傷付け、苦しめる事で心の『繋がり』を得ようとしたのだ。
優姫以外に味方がいない状況を作り、優姫を選ぶ事以外の選択肢がない世界を作った。
だが、祐介は……その世界から自殺という形で去る事を選んだ。
「……先の短い妹の最期の夢だ、兄貴としてやれる事はやってやりたかったんだ。例えそれが、人道から外れたロクでもない夢でもな」
「ははっ……兄さんらしい。兄さんはこの後に逮捕されないようにね! 難しいかもしれないけど」
「いや……お前が逝ったら……自首するさ。お前らのいない日常に未練なんかないからな」
もうお前らのいない世界に未練なんてない。俺は自殺か自首するしか選択肢はないだろう。それで許されるとは思っていないけれど。
「……やっぱり兄さんの事、好きだよ。ゆうちゃんの次にね」
優姫は最後まで俺を気遣ってくれた。本当に、優しい妹だった。
「じゃあ……そろそろ行くね。ボクとゆうちゃんの事、2階の寝室まで運んでくれないかな」
「ああ……」
俺は祐介を肩に担いで寝室へ寝かせに行く。
そして、その後に優姫をおんぶして寝室へと運ぶ。久しぶりに担いだ妹の身体は、ひどく軽かった。
「本当に……透析も薬も要らないのか? そんな事をしたらお前は……」
「良いよ、ゆうちゃんも死んじゃったし。これ以上長く生きていても仕方ないよ。あーあ! ゆうちゃんの為に沢山お金貯めておいたのになぁ……」
もう、優姫もこの世に未練はないのだと思う。残されたわずかな時間、祐介の亡骸を独り占めしたいだけなのだ。
こう考えてみれば、可愛らしい乙女の我儘だ。
「ボクも、もう人生の潮時かなーって。だからこの限られた短い時間で……ゆうちゃんと愛を深めるよ。そして……ゆうちゃんの腕の中でゆっくりと死ぬ事にする」
そう言って優姫が俺の背中に顔を埋める。
「優姫……」
「じゃあ、さよならだね、兄さん。色々ありがとう! ボクはこれからもゆうちゃんを追いかけ続けるよ。この世界で結ばれないのなら、地獄でゆうちゃんと結ばれる事にする。今度こそ、絶対にね」
そう言って優姫が俺に見せた最後の笑顔は、この世で最も美しいものだったと思う。
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